ヤジ訴訟、控訴審でも証人尋問|裁判所は審理妨害など警戒か

2019年7月に札幌市で起きた安倍晋三首相演説ヤジ排除事件で、排除被害者2人が地元警察を訴えた裁判の控訴審口頭弁論期日が決まり、12月下旬に警察官1人の証人尋問が行なわれることになった。

一審被告の北海道警察は「安倍やめろ」と叫んだ男性に暴行をはたらいた与党関係者など数人を証人申請していたが、裁判所はこれらを却下する方針という。裁判は年度内にも結審、二審判決の言い渡しは来年4月以降になりそうだ。

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道警に損害賠償を求める訴えを起こしたのは、前々回の参議院議員選挙で応援演説に立った安倍晋三総理大臣(当時)に「やめろ」などとヤジを飛ばして演説現場から排除された札幌市の大杉雅栄さん(34)と、同じく「増税反対」などと叫んで警察官に長時間つきまとわれるなどした同市の桃井希生さん。2019年12月に提起された裁判は本年3月に一審判決に到り、札幌地裁(廣瀬孝裁判長)が警察官らの排除行為の違法性を指摘して被告の道警に賠償を命じる判決を言い渡している。実質全面敗訴した道警は翌4月に控訴を申し立て、争いが上級審に持ちこまれていたところだった。

控訴審では現時点で口頭弁論が設けられていないが、10月4日に札幌高裁(大竹優子裁判長)で非公開の進行協議があり、12月22日午後に証人1人の尋問が行なわれることが決まった。証言台に立ことになるのは、先の桃井さんにつきまとい続けた女性警察官の1人。同警察官はもともと一審で証人採用されていたところ、私的な事情で出廷を果たせなかった経緯がある。二審での採用はこれを考慮した結果とみられ、改めて尋問に臨むのは同警察官1人となる。

控訴人(一審被告)の道警は今回の控訴にあたって新たな証拠を提出、演説現場にいた与党関係者の男が一審原告の大杉さんに暴行をはたらく場面を捉えた映像を示し、当時の現場が「危険な状態」にあったことを改めて主張している(既報)。排除行為の根拠としている警察官職務執行法の適用の正当性を示すためとみられ、道警はこの暴行者を含む複数の与党関係者や警察官らを証人申請した。これを受けた裁判所は先の暴行映像を証拠採用しつつ、尋問については「映像を観れば足りる」と、先の女性警察官1人を除いて証人申請をことごとく却下する方針を示したという。公開法廷での証拠調べは、事実上1人の尋問のみとなる見込みだ。

当初から早期の控訴棄却を求めていた一審原告らは「尋問で判決が延びるのは少し残念だが、警察官が何を話すのかには興味がある」と話す。

進行協議では道警の証人申請から「一定の印象操作」の狙いを感じとったといい、「道警はとにかく、与党関係者たちに私たちの“印象”を語らせたがっていたが、それは裁判の本質とは関係ない」と指摘する。

進行協議の場では裁判官からたびたび「警備の必要性はないか」と問われ、道警が完敗した一審判決を快く思わない人たちによる審理妨害を裁判所が警戒している様子が窺われたという。とりわけ本年7月の安倍元首相殺害事件以降、裁判所には一審判決への苦情や抗議、脅迫などの声が寄せられている可能性があり、これについては現在、筆者が札幌地裁へ公文書開示請求を行ない、苦情などを受理した記録の開示を申し入れているところだ。

なお、同旨の苦情は一方の当事者である道警に数多く届いていることがすでにわかっており、その数はヤジ排除当日から昨年7月までの2年間で900件を超えている(既報)。筆者はこれについても改めて安倍氏殺害事件後の記録を開示請求しているところで、早ければ今月中にもその概要があきらかになる見込みだ。

ヤジ排除訴訟の控訴審は12月の尋問を経て来年3月7日午前の次々回弁論で結審、年度を跨いで高裁判決が言い渡されることになる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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