自民・公明が過半数を大きく割り込む結果となった衆議院選挙。石破茂首相は、就任して1か月で早くも崖っぷちに追い込まれた。
そうした中、裏金事件で処分され自民党から公認されなかった西村康稔元経産相、党の役職停止処分を受けた萩生田光一元政調会長と平沢勝栄元復興相、離党勧告を受けた世耕弘成元参院幹事長の4人が自民党会派に入ることが決まった。さらに、無所属で立候補し自民党の公認候補を破った三反園訓氏と広瀬建氏も会派入りするという。過半数割れによる多数派工作だが、SNS上で、《自民会派入り》がトレンド入りするほど批判の嵐が起きている。
◆ ◆ ◆
石破首相は8月の自民党総裁選出馬時、「裏金事件の審判は、国民からいただかなければならない」と事件への厳しい対応方針を述べ、衆議院選挙でも12人を非公認とした。その結果を無視する形のなりふり構わぬ多数派工作。ある自民党の大臣経験者が次のように苦言を呈す。
「選挙結果をみれば、裏金事件で非公認12人のうち、当選したのは3人だけ。国民から裏金NOを突き付けられたことはハッキリしている。世耕さんも含め4人が当選したからといって、禊にはなっていない。西村氏は来年春まで、党員資格停止処分だ。少なくとも、その時期までは自民党の会派に戻しちゃいかん。言行不一致の極みではないか」
だが、石破首相は周囲に「まずは会派に戻して、過半数になんとか達することが大事。非公認を引きずることなく、新党などといった変な動きをさせないことが今は必要だ」などと語っているというから、呆れるしかない。
自民党は衆議院選挙期間中、非公認の候補者が支部長を務める自民党の支部に対して2,000万円を支給した。それを共産党の機関紙「赤旗」が報じたことをきっかけに、自民党の支持下落が拡大。小選挙区で落選し、かろうじて比例復活した同党の前職は「あの2,000万円でギリギリの選挙戦から谷底に落とされたような感じがした。演説で訴えても反応はなく、『帰れ』『裏金』とやじられる。同僚議員たちが、次々に落選している。私はまだ比例復活で国会に戻れたからよかったほうだが、あの2,000万円がなければ、過半数は無理でも210議席前後はいけたんじゃないか」と怒りが冷めやらない。
先月29日、議員会館で引っ越し作業をしていた自民党の落選議員に声をかけると「どう見ても2,000万円がダメ押しになりました。落選した人間が話すと言い訳になりますが、石破首相の大チョンボが過半数割れを引き起こしたのは確か。責任をとって辞めてほしい」と話していた。
ところで、自民会派入りした4人の裏金議員は、改めて説明責任を問われかねない状況にある。神戸学院大学の上脇博之教授が裏金議員らを政治資金規正法違反などの容疑で刑事告発していた件で、大きな動きがあったからだ。
東京第5検察審査会は、不起訴となっていた世耕氏の資金管理団体の会計責任者について「不起訴不当」、起訴猶予となっていた萩生田氏の政策秘書についても「不起訴不当」の議決を出している。検察は再捜査するが、不起訴となった他の裏金事案でも同様の議決が出る可能性がある。
問題を抱えているのは裏金4人組だけではない。やはり上脇教授から迂回献金で刑事告発され、いったん不起訴となった三反園氏の政治資金処理問題に関しても、同教授が検審に審査を申し立てている(既報)。
世耕氏の案件についての検察審査会への審査申立書によれば、政治団体「紀成会」の会計責任者は「起訴猶予」とされ、世耕氏自身は「嫌疑不十分」という検察の処分が下っている。
「起訴猶予」というのは、告発した政治資金規正法違反の犯罪事実が証拠からもあったという意味だ。検察は、“犯罪事実はあるが、起訴するほどの事件ではない”と判断をしたのである。「嫌疑不十分」は、怪しいが違法とはいえないという、まさにグレーゾーン。しかし、世耕氏は2010年2月に小沢一郎氏の政治資金問題が起こした「陸山会事件」について、ツイッター(現在はX)で、《小沢幹事長不起訴? 会計システムまで構築し、収支報告時には、貴重な限られた時間を犠牲にして、担当秘書にひとつひとつ質問しながらじっくりと確認した上で書類を提出していることが、空しくなってきます》と投稿していた。世耕氏は1,542万円もの裏金を隠し持っていたのだが……。
これまで検察審査会が「起訴相当」などとして再捜査の判断を下したのは、検察が「起訴猶予」とした事件が大半。「起訴猶予」となった事案は他にもあるため、裏金事件はまだ続いているということになる。
渦中の世耕氏は衆院選終了後、記者会見で裏金事件について聞かれ「もう一度、頑張れという有権者の判断だ。自民党に戻るということに違和感などない」との見解を示した。だが上脇教授は申立書で世耕氏の心の中をこう見透かしていた。
《被疑者世耕弘成は、参議院議員ですから、当然、人一倍遵法精神が求められます。しかし、本件政治資金規正法違反の裏金事件と公選法違反の事件では、議員辞職してはいませんので、心から反省しているとは到底思えません。逃げ得を許さないでください。このまま起訴されなければ、裏金は今後もつくられ続けるでしょうし、公選法違反の寄附は今後も横行し続けることでしょう》
裏金議員の自民党会派入りというのは、世論から見れば復党したも同然。2,000万円に続く会派入りの「失策」で、石破首相への批判は厳しさを増しそうだ。