「維新の一人負け。野党の中で完敗」――衆議院選挙が終わり、険しい表情で語ったのは日本維新の会の共同代表を務める吉村洋文大阪府知事。自民党と公明党の連立与党が過半数を割り込む215議席に終わったのに対し、野党は250議席。前回比で見ると、立憲民主党がプラス50の148議席、国民民主党が4倍増となった28議席、れいわ新選組がプラス6の9議席など野党が軒並みアップさせた中で、維新はマイナス8の44議席となった。確かに野党の中の一人負けである。
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吉村氏は、「厳しい(選挙)結果だったので、当然、そういう意見(*代表選をやるべきという意見)はあるだろう。代表選は行うべき。やるなら首班指名の前、速やかに」と馬場伸幸代表に注文をつけた。
10月30日に開かれた維新の役員会では、浅田均参議院議員が「大惨敗であり、誰かが責任を取るべき」として馬場代表や藤田文武幹事長の退陣を求めた。
これを受けた馬場代表は「維新の主張、トレンドは受け入れられている」として退陣を拒否。現体制のまま、11月11日から予定されている特別国会に臨む意向を示した。
この日、議員会館を取材して歩いていると、落選して片づけに追われていた維新の前議員が。埃まみれの顔で話しかけてきた。
「ハンターの以前の記事に『維新の終わりのはじまり』って感じの表現があった。今の維新は『終わりのはじまりから真ん中』あたりに差し掛かっていますよ」
さらに、党内の様子をこう続ける。
「今、まさに党内抗争の真っ只中。うち(維新)は馬場代表の現執行部と、今回の衆議院選挙で当選したの東徹前参議院議員や維新の政調を牛耳る浅田均参議院議員が中心の国会グループとの2つに別れています。馬場代表に責任をとれと迫っているのは、国会グループ。馬場代表が辞めれば、東さんが代表選に出馬するはず。勝てば、浅田さんが幹事長になるでしょう。今、勢力的には国会グループが5割弱、現執行部が3割、中間が2割という感じでしょうか。その中間もどちらかといえば国会グループ寄りですね。ただ。石破首相が辞めないのと同じように、馬場さんは代表の座にしがみつくようです」
2022年の代表選で維新のトップに選出された馬場代表。創業者である橋下徹氏と松井一郎氏のもとでは「裏方」に徹し、それが認められて代表に上りつめた。自身も「8番キャッチャー」と語るほどだ。
一方で、その時の代表選には東氏も対抗する形で出馬を表明したが、馬場代表を推す松井氏の巻き返し策によって最後は中間派の議員まで馬場支持に回り、最終的に立候補断念に追い込まれたという経緯がある。
「8議席減でここまで党内がガチャガチャするのは維新だけでしょう。これが橋下さんや松井さんが代表だったら誰も文句は言わなかったでしょう。彼らには代表をいつ降りてもいいという覚悟があり、それが党全体にも伝わっていた。二人とも議員を辞めても食っていけるから、という側面もあるとは思いますが……。しかし、馬場氏は8番キャッチャーで、発信力もカリスマ性もない。ゆえに党内ではまわりをイエスマンで固めて権力を維持するというスタイルでした。それが選挙で負け、権力構造が崩れてきたことで、馬場降ろしの動きを止められないという事態に陥っているのです。議員をやめると食っていくのが大変そうですからね。あ、私も大変ですが」(前出の落選議員)
落選の憂き目にあった前議員は、今回の敗戦を馬場代表による「側近政治」の弊害だというのだ。同じように語るのは、昨年10月まで、維新に籍を置き、国会議員団副代表も務めた、参議院議員の鈴木宗男氏が、次のように語っている。
「維新が馬場代表、それに幹事長の藤田、この2人に何かいうと切られてしまう。そういう独裁的な党なのです。馬場代表の政治資金、政策活動費の飲食代、すごい金額ですよ。そのくせ、『身を切る改革』と言っている。国会議員の数減りましたか?議員報酬カットしましたか?なにもやっていない。言うこととやることが全然違います。そういういい加減な、有権者に嘘をいうような党なのです。だから私は維新を辞めた。維新にいた私だから言えることです」
馬場代表は全国政党を目指すと公言していた。しかし、今回の比例票は全国で510万票。前回の2021年が805万票だ。投票率の違いはあるにしても300万票も減らしている。立憲民主党や国民民主党、れいわが増えたのは裏金問題に批判的な声の受け皿になれたからである。維新は大阪の19選挙区ですべて勝利したが、隣の兵庫県や京都府ではまったく小選挙区はとれなかった。自民批判の受け皿になれたのは、立憲民主党や国民民主党が候補を立てなかった福岡11区などに限られている。
「このままでは、現執行部と国会グループの2つに割れるのではと恐れている議員がけっこういます。馬場代表の現執行部側は、自民党、公明党の連立政権につき、過半数割れの協力をするかもしれない。そうなれば馬場代表は大臣ポストをもらって大喜びすることでしょう。そうなった時、維新は党として終わりますね」(前出の落選議員)
四面楚歌となった馬場代表は、10月31日の常任役員会で「議席が減ったのは私の責任」と認め、11月末か12月初旬に代表選を行うと話した。新代表には東氏の就任が有力視される状況だという。大阪・関西万博の開幕を前に、維新では内部崩壊のカウントダウンがはじまっている。