能登地震復旧中の「幹部宴会」巡り食い違う警察庁と鹿児島県警の対応

(警察庁と鹿児島県警は不仲なのではないか?)――そう思わせるような情報公開請求への対応となった。

ハンターが地震被災地の実情を無視して開かれた警察幹部による「宴会」について、鹿児島県警と警察庁が保有しているはずの同一文書の開示請求を行ったところ、県警は文書の存在を認めた上で非開示、警察庁は文書があるか否かについて答えないという「存否応答拒否」を通知してきた。これは一体どういうことか?

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ハンターが県警に開示請求したのは「本田尚志元生活安全部長が井上昌一元刑事部長の名前を使って発出したとされる文書」。警察庁には「本田尚志元鹿児島県警生活安全部長が井上昌一元鹿児島県警刑事部長の名前を使って発出したとされる文書」の開示を求めた。対象文書は、警察庁の公益通報窓口に郵送された1件の文書だ。

これは本田氏が1月下旬に、警察庁の公益通報窓口に送ったとされる告発文書。そこには、元日に起きた能登半島地震を受けて全国の警察官が災害派遣され困難を極める復旧作業にあたっていた2月初旬に、鹿児島市内の日本料理店で、本部長をはじめとする鹿児島県警のほとんどの幹部が九州管区警察局長と「宴会」を開く予定であることが明かされていた。告発文書の送り主は、井上刑事部長(当時)になっていたという。

宴会の開催を要求したのは九州管区警察局長。告発文書は、これを非常識な強要行為であるとして警察庁に中止指導を求めていた。しかし、同庁は宴会を止めることなく告発を黙殺。この件に懲りたのか本田氏は、野川明輝県警本部長(当時)による警官非違い事案の隠ぺい指示など4件の組織内不祥事を、北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏に郵送していた(*既報)。

当時の九州管区警察局長は、前任地の福岡県で本部長を務めていた岡部正勝氏(24年3月で退任。4月から京都産業大学教授)。岡部氏が東大卒の警察庁キャリアだったため、仲間に傷を付けたくない同庁側が、あえて問題にしなかったという見方をする関係者もいる。

やはり東大卒のキャリア警察官である野川前本部長の隠ぺい指示を「なかった」と決め付け、本田氏の「内部通報」を否定して「情報漏えい」で片付けようとしているのも警察庁。二つの事案に通底しているのは“キャリア擁護”の姿勢だ。それが形を変えて表出したのが、本田氏が警察庁に郵送したとされる告発文書への対応ではないのか。

ハンターは昨年7月、警察庁に対し令和3年から昨年7月5日までの間に同庁に届いた「鹿児島県警職員の非違事案や不適切行為に関する告発、苦情、相談等の記録及びそれぞれの件ごとに提出を受けた文書、データ」を開示請求。不祥事続きの同県警について、上級庁の警察庁に寄せられた告発や抗議の件数と内容を知るためだったが、一部開示された各文書の受け取り日付から確認した限りでは、本田氏が郵送した文書は含まれていなかった。

次いで10月、同庁に対し「令和6年1月以降に警察庁に送付されたすべての内部通報」を開示請求したが、一部開示された4件の文書の日付から、本田氏が郵送した内部通報文書に合致するものが対象から外されていたことが分かっている。警察庁は、告発自体を「なかったこと」にしたというわけだ。

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前置きが長くなったが、「本田尚志元生活安全部長が井上昌一元刑事部長の名前を使って発出したとされる文書。(*県警が会見で事実関係を公表したもの)」の開示請求に対する鹿児島県警の答えが下の「公文書不開示決定通知書」。県警は、対象文書が鹿児島県情報公開条例の「適用除外」であり、その根拠は「弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は(略)訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があって特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない」という刑事訴訟法の規定だとした。要は、刑事裁判の証拠書類だから開示できないということ。つまり、対象文書が「ある」ということを、県警が証明した格好だ。

一方、同じ対象文書であるにも関わらず、警察庁の「行政文書不開示決定通知書」にある不開示理由は、まったく違うものとなった。それが下、対象文書が「個人情報」だから存在するか否かも回答できないという理由が綴られている。

県警は刑事事件の証拠書類であることを不開示理由にして対象文書の存在を認めているのに、警察庁は個人情報だとして存否応答拒否。同じ警察組織の対応がこれほど違うとは驚きだ。すり合わせができていないことは明白で、国家公務員法違反という重大事件に関係する文書の扱いとは思えない。

振り返ってみると、県警は記者会見で――“唐突に”――送り先と内容を秘匿したまま、本田氏が井上前刑事部長の名前を使って文書を送ったという事実のみを公表した。わざわざ井上氏の名前を使ったという部分に興味が向くよう仕向けたのは、本田氏を貶める狙いがあったと見るべきだろう。

しかし、報道関係者が文書の内容や送り先を探り当てようとするのは当然で、その結果、キャリア警察官が主導した非常識な宴会の実態が報道されることにつながった(*既報2)。警察庁としては、同庁出身のキャリア警察官に傷がつく事態が面白いはずがない。

だが、鹿児島県警は告発内容が表に出ても非難される度合いが小さいと判断していたはずだ。宴会を強要したのは九州管区警察局長。告発文書は、県警側が上位者に逆らえず、宴会に“参加させられた”という趣旨になっていたとみられている。県警は被害者、管区警察局長が加害者――そうした構図が表面化することを拒む警察庁の姿勢が、「存否応答拒否」につながったという見立ては十分に成り立つ。

西日本新の報道によれば、同紙記者の取材に応じた岡部前九州管区警察局長は、「監察ではなく巡視。不適切とは思わない」「目的は懇親」などと述べたという。完全に開き直った形だが、巡視であろうが監察であろうが、能登で災害復旧にあたっていた全国の警察官や被災地の住民が、警察幹部の宴会を良しとするはずがない。宴会を開いて“懇親”しなければ機能しない組織なら、税金で支える必要などはあるまい。

同一文書の開示請求を巡り、食い違う鹿児島県警と警察庁の対応――。共通しているのは、被災地を無視した宴会を「問題なし」と強弁する傲慢な態度だけだ。

 

 

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