自治体のプロポーザル方式による業者選定では、審査員と関係業者の接触を禁じることで公正・公平を担保する。もちろん、プロポーザル参加業者の提案内容が事前に漏れるなどということは絶対にあってはならないことだ。しかし、業者によるプレゼンテーションという最終審査より1カ月も前に、業務提案書の外部持ち出しを許していたケースがあった。不正が疑われるのは言うまでもない。信じられない業者選定を行っていた自治体とは、昨年市長が交代したばかりの福岡県うきは市(権藤英樹市長)である。
■疑惑の発端は「採点個票」
結論を先に述べるが、このプロポーザルはいったん白紙に戻すべきである。プロポーザル最終審査までの過程に、著しく公平公正を欠いていたからだ。以下、同市への情報公開請求で入手した文書に基づき、問題点を報じていく。
うきは市が行った市営団地整備事業の業者選定プロポーザルに疑問がある――。匿名の情報提供を受けて同市の公式サイトを確認したところ、問題のプロポーザルについての一連の経緯は、時系列できちんと公表されていた(⇒コチラ)。何もおかしいところはないと思ったが、念のため今年1月、同市に対し事業費19億円を超す「うきは市営西隈上団地等整備事業」に関連する文書の開示請求を行った。
記者がこだわったのは、プロポーザル審査の採点個票(*審査委員が審査会場で手書きした採点文書)と審査委員の顔ぶれ。業者選定プロポーザルに疑念が生じたケースで役所側が隠そうとするのが、採点経過が分かる「個票」や審査委員である場合が少なくないからだ。審査委員は公表済みだったが、残念なことに、うきは市への開示請求でも「個票」から疑惑が浮上することになる。
下は、うきは市が“最初に”開示した採点表=「個票」。業者のプレゼンテーション後に手書き採点するのが一般的だが、なぜかこの個票には先に評価が「印字」されている。このプロポーザルではAからEまでの評価基準が定められており、Aは評価項目ごとの配点×1,Bは配点×0.75、Cは配点×0.5、Dは配点×0.25、Eは0点と決められている。それが先に印字されているわけがない。個票に書き入れた点数を書き直すプロポーザル審査の事例があるにはあるが、あってもせいぜい1~2か所、これほど大量に書き変えられた個票は見たことがない。“おかしい”――そう直感した。
“先に採点が印字されているのはなぜか?”――情報開示の場で担当職員に確認したところ、「先に業者から提出された提案書を審査委員に渡し、いったん採点してもらった」と、とんでもないことを言い出した。しかし、書き変え前の個票は開示されていない。隠したと判断してもおかしくない状況だった。情報開示が不十分だとして再開示を要求したのは言うまでもない。その結果、後日郵送されてきたのが下の個票である。確かに、書き変えられていない。
■持ち出されていた「業務提案書」
では一体、どの段階で提案書を審査委員に渡したのか――。その疑問に対する答えは、「うきは市営西隈上団地等整備事業 事業者選定基準」の1ページ目に残されていた。
5人の審査委員に業務提案書を渡したのは昨年10月25日。それから1か月後の11月26日に最終審査を行っていたのが分かる。この1か月の間に「仮採点」という聞き慣れない行為があった。つまり、10月25日に提案書が審査委員に渡された後の1か月の間に、追加開示で出てきた“手書きによる書き変えがない個票”が作成されたことになる。
ここで次の疑問が浮上する。5人の審査委員がパソコン上のデータに個票の採点を記入したのが「いつ、どこで」だったのかだ。普通に考えれば市役所の建物の中、つまり10月25日に開かれた第二次審査会の会場内だ。この点について市側に確認すると、あっさり「それぞれの委員が持ち帰った」と明言する。考えられない展開だった。業務提案書が市役所の外に持ち出されていたのだ。次の配信記事で詳述するが、これが何を意味するのか、プロポーザルや総合評価に関わったことのある関係者ならわかるはずである。
もう一点、疑問が残る。外部に持ち出された採点個票は、どのような形でうきは市に戻されたのか、だ。この問いに対する市側の答えも明快で「メールで送ってもらいました」。記者は当然、そのメールの記録も請求することになった。
(つづく)