1年限定の「食料品減税」で上がらぬ支持率|立憲民主党の党内事情

「いきなり減税をぶちあげても、全然インパクトがないな」と苦り切った表情なのは、立憲民主党の衆議院議員A氏。

4月25日、立憲民主党の野田佳彦代表は7月とされる参議院選挙の公約として「1年間、食料品の消費税0%」を看板に掲げて戦うと表明した。会見で野田氏は「物価高で、トランプ関税の影響が世界経済に大きな影響を及ぼし、国難。民のかまどから煙が消えてしまう」などと“増税”から方針転換した理由を説明したが、あまりの豹変ぶりに「信用していいものか」と党内では疑問視する向きもある。

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2009年に旧民主党が政権奪取した際、首相に就任した鳩山由紀夫氏は、野田氏を閣僚に取り込まなかった。

前原誠司や原口一博ら松下政経塾の後輩が閣僚に取り立てられたことを見た小沢一郎氏の側近・藤井裕久財務相(当時)が、「後輩に先を抜かされて(野田が)かわいそうだ。財務副大臣ならまだメンツが立つだろう」(藤井氏の元秘書談)という理由で財務副大臣に登用。その後、鳩山政権と折り合いが悪くった藤井氏は体調不良もあって退任。10年6月に野田氏の出番が回ってきた。ところが……。

「閣僚ポストでは最上位ともいえる財務相になった野田さんは格好の餌食になった。財務省による『日本は借金大国でいずれ破綻する』『カネがない、増税だ』という理論を鵜呑みにし、シンパになった。その頃、党内では“財務省のイヌ”とか“洗脳された財務省の代弁者”と呼ばれていた」(前出のA議員)

2011年9月に首相の座についた野田氏は、社会保障費を確保するため消費税を増税する「社会保障と税の一体改革」をぶちあげ、財務省の傀儡となった。そのあげく、12年6月には5%の消費税を段階的に8%、10%へと引き上げる「消費税増税」を自民党、公明党と合意。その後の衆議院選挙では増税に反対の小沢一郎氏らが離党して分裂。国民からは「増税政権」と見放され、旧民主党政権は終えんを迎えた。

参議院選挙で各党が「減税」を打ち出す中、「我が党は、またしても分裂の危機だった」と何人もの立憲民主党議員が口をそろえる。確かに党内では、野田氏が「減税なんていうヤツは誰だ。俺が代表になったら減税なんてあり得ない」「減税だという議員は、俺に代表選で勝ってから言え」などと語っていたことが知られている。その野田氏は、財務省出身の大串博志衆議院議員をナンバー2のポスト代表代行に指名。同じ増税派の小川淳也幹事長より上に置くという増税シフトを敷いた。しかし、参議院選挙を念頭に、野党どころか連立与党の公明党までが「減税」を言い出したことで野田氏は外堀を埋められた。だが、ようやく出てきた「減税策」は目玉になるようなものではなかった。

「党内では、野田代表が増税路線でやるなら党を割ろうという勢力が複数あった。2012年に政権与党から転落した悪夢が蘇りかけていたからだ。さすがにまずいと増税派だった議員まで、野田氏に『減税』を働きかけるようになった。それほどやばかった。党の分裂となれば「増税」の印象がますます強まり、参議院選挙では勝ち目がなくなる。しかし打ち出したのは“食料品、消費税0%を1年間とし経済情勢によっては延長もありうる”という財務省主導としか思えない策。党分裂を避けるための一時しのぎでしかない」(前出のA議員)

増税派を自任してきた別の立憲民主党議員も、次のように話す。

「減税や103万円の壁で売っている国民民主党に、支持率で5~6ポイントもの差をつけられているのが現状。よほどのことをやらないと参議院選挙で戦えない。うちの党の議員の大半が『増税なら党が割れる』と思っていた。私は野田さんの増税を支持しているが、参議院選挙でそれを言えば党は沈没する。増税派の仲間からも、危機感から『今回は減税で』といった主張があり、野田さんは1年間限定の食料品0%を公約にした。当然、財務省におうかがいを立ててやっているでしょうね」

ある自民党幹部の見方はこうだ。

「立憲民主党の減税案は、まさに財務省の意のまま。自民党はそれを上回る公約を出せばいい。野田さんが財務省の操り人形で助かった。立憲がもし本気で減税策を打ち出してきたら、参議院選挙は惨敗で石破政権は吹っ飛んだはず。ある意味、本当に助かっている。不信任案提出への世論も高まらず、野党間をまとめきれない。野田さんが代表になったお陰で自民党は延命できている」

昨年10月の衆議院選挙で自民党と公明党は少数与党に転落した。野党がまとまれば内閣不信任案を可決できる状況にあるが、それ現実になる見込みはない。1993年の細川護熙政権誕生の時は、非自民・非共産の8つの党派がまとまって連立政権を樹立した。本来、立憲民主党が目指すべきは野党を束ねて政権を奪うこと。しかし野党第一党の同党が、不信任案を提出するような状況にはなっていない。

「野田代表や大串さん、幹事長の小川さんは口を揃えて『世論が盛り上がれば不信任案』というようなことを語っている。要するに自分たちは無力で何もできない、世論任せだと自白しているようなもの。やり方次第では政権がとれるのに、傍観しているだけ。これでは支持率は上がらない。野田さんの本音は、やはり増税じゃないのか。まあ、こうした状況では野党が不信任案でまとまるわけながないので安心。野田さんは、かつて二度も政権交代を実現させた剛腕の小沢さんを排除しているほどだから、大きな勢力をまとめることはできない。不信任案についてはまったく心配ない」(前出の自民党幹部)

6月の東京都議選、夏の参議院選挙と大型選挙が続く。少数与党を前に、要統制力をまとめて不信任案へと導くことのできない野田氏は、退場すべきではないのか?

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