【ススキノ殺人】母親が有罪(執行猶予)で即日控訴|判決では調書「歪曲」に裁判所が苦言

一昨年夏に札幌・ススキノ地区で起きた殺人・死体損壊事件で5月上旬、実行犯とされる女性の母親が死体遺棄幇助などに問われた裁判の判決公判があり、札幌地方裁判所(渡邉史朗裁判長)が懲役1年2カ月・執行猶予3年の判決を言い渡した(求刑は懲役1年6カ月)。起訴された2つの罪のいずれも有罪と認められた形だが、判決には検察の不適切な取り調べを問題視する指摘が盛り込まれ、捜査のあり方には苦言が呈された。

■父親にも執行猶予判決

事件は一昨年7月に発生。札幌市の女性(31)がススキノのホテルで知人男性(当時62)を殺害し、遺体の一部を自宅へ持ち帰って損傷したなどの疑いで逮捕された。捜査機関は女性のみならず同居する両親も逮捕し、娘の犯行に手を貸したとして死体遺棄幇助などでそれぞれ起訴した。

親子3人の中で最も早く公判が始まったのは、殺人幇助、死体損壊幇助、死体領得幇助、及び死体遺棄幇助の4つの罪に問われた父親(61)の事件。検察側は父親が娘の犯行計画を事前に知っており殺害などに協力したなどとして懲役10年を求刑したが、本年3月中旬に札幌地裁(渡邉史朗裁判長)=裁判員裁判=が言い渡したのは、求刑を大幅に下回る懲役1年4カ月・執行猶予4年の判決。起訴4罪のうち殺人幇助と死体領得幇助の2罪は事実上無罪となった。もとより全面無罪主張だった父親の弁護人らは判決後、殺人幇助などでの検察の公判請求を改めて批判することになる。

「検察はまったく証拠がない中で起訴し、時間稼ぎのために無意味な鑑定留置を請求しました。裁判所もその請求を認め、ようやく保釈されたのが去年の11月。典型的な人質司法と言ってよく、この長い留置を含め逮捕、起訴、保釈への抵抗、起訴の維持、すべて誤っていた。捜査側が世論をコントロールし、それを盾に人権を著しく侵害した事案として、多くの関係機関が反省すべきだと思います」(弁護人)

言い渡し後の3月下旬、被告人・検察ともに判決を不服として控訴し、事件は高等裁判所へ持ち込まれることとなった。

■実態は調書の「捏造」

この父親の事件の公判で、被告人ならぬ弁護側証人の立場で出廷した母親(62)が重要な証言を残す一幕があったのは、一審判決から1カ月あまり遡る2月上旬のこと。本サイト既報の通り、この時の証言では取り調べの録音・録画の内容と供述調書の内容とに少なからぬ喰い違いがあることが指摘され、捜査のあり方の適正性に疑問が示された。母親の調書には実際には発言していない言葉が複数記録されており、弁護人らは「虚偽公文書作成罪にあたる」と憤る。

5月7日午後に言い渡された母親の一審判決では、この調書の問題への苦言が盛り込まれることになる。同日付の判決要旨文には、次のようなくだりがあるのだ。

《同調書は、警察官が約7頁分の被告人の供述を記述したのに対し、被告人から同じ分量を費やすほど多数の訂正・削除が申し立てられており、全体として警察官が被告人の言い分を趣旨を歪曲することなく正確に記述したものか疑問がある》

全国的に耳目を集めた事件の供述調書に「歪曲」があった可能性を指摘した裁判所。「捏造」という言い回しを使わなかった点で検察への配慮が窺えるところで、弁護側は調書への言及を高く評価しつつ「もっと強く批判して欲しかった」と話す。

母親は死体遺棄幇助と死体損壊幇助の2罪で起訴されており、札幌地裁はいずれも有罪と判断、執行猶予付き判決を言い渡した。娘の犯行に手をこまねいていた両親の対応に「幇助」を認めた裁判所の判断を、弁護側は強く批判する。

「そこまでして有罪にしたいのか、と。娘さんが遺体の一部を持ち帰って自宅に置いたところで『死体遺棄』という犯罪行為は終了している。そこに『幇助』を認めるのはあり得ない結論です。『損壊幇助』についても、なかなか警察に通報できなかったことをあたかも犯罪であるかのように言っていますが、そんな法律がどこにあるのか…」

弁護側は判決を不服として即日控訴、こちらも父親の裁判と同じく判決確定が二審以降へ持ち越されることとなった。彼らの長女、即ち殺人などの実行犯とされる女性は現在、逮捕以来2度目の精神鑑定を受けているところで、公判の見通しは立っていない。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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