福岡高裁、手荷物検査に年間7800万円|開示された仕様書は「のり弁」

2015年に全国3例目になる訪庁者手荷物検査を始めた福岡高等・地方・家庭・簡易裁判所が、丸10年が経過した本年度も検査の継続を決め、年間7,800万円の警備費用を支出することがわかった。先んじて同検査を導入していた札幌高・地裁の検査継続をめぐっては昨年、裁判所へ実施の見直しを求める地元弁護士会の報告が発表されたところだが(⇒コチラ)、福岡の弁護士会からは今のところ検査に否定的な声明などは出ていない。

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筆者は本年4月上旬、福岡の裁判所の庁舎管理者である福岡高裁に公文書開示請求(司法行政文書開示申出)を行ない、本年度の手荷物検査に携わる警備業者の選定などに伴って作成・取得された公文書の開示を求めた。同様の請求は地元・札幌高裁に対しても例年4月をめどに行なっており、本年は2カ所の高裁へ同じ趣旨の開示請求を試みた形。請求を受理した両高裁は5月上旬に対象文書(の写し)の交付を決定、このうち福岡高裁は『公示公告』や『入札説明書』など5種の文書、計35枚を開示することになった。

文書によれば、手荷物検査の業者は一般競争入札で選定。本年度の入札は1月10に公告があり、2月19日午前に裁判所庁舎1階の共用室で入札が実施された。名乗りを挙げた警備業者は3社あり、最低価格の7,099万2,000円(税抜き)を示した福岡市中央区の株式会社セノンが落札。契約金は消費税を加えた7,809万1,200円となり、単純計算で1カ月あたり650万円の予算が手荷物検査のために費やされることになる。

小さくない費用が発生し、かつ訪庁者に一定の不便を強いる取り組みであるにもかかわらず、今回開示された『仕様書』は墨塗り箇所の多い“のり弁当”状態。最も重要な「業務内容」を記した欄が全面真っ黒に塗り潰されているほか、現場の警備員の人数や配置を記した図面などもすべて非開示となった。

福岡の裁判所が手荷物検査を始めたのは、福岡市中央区城内にあった旧庁舎時代の2015年1月。東京、札幌に次ぐ全国3例目の検査導入だった。先行して2013年に検査が始まった札幌では、地元弁護士会が実施に猛反発、具体的な目的を明らかにせず国民のプライバシーを侵害する検査には大きな問題があるとして、直ちに中止するよう裁判所に求めていた。裁判所前で抗議演説に立ったり、弁護士バッヂを着けずに入庁して検査を拒否したりする弁護士の姿も見られた。当時の関係者らは、筆者の取材に「ここで札幌の弁護士が言うべきことを言っておかないと、なし崩し的に全国各地の裁判所で同じような取り組みが始まってしまう」と危機感を述べていたが、その危惧は現実のものとなり、2年後には福岡に検査が拡大、その後も大阪、仙台、横浜、千葉、名古屋、神戸、広島、京都、高松などの裁判所が後に続くことになった。

福岡で検査が始まった際にはもはや、札幌で起きたような抗議の声は上がらなくなっていた。当時の弁護士会関係者は筆者の取材に「時代の要請や地域性などもあり、とくに問題視する声は上がっていない」としており、その後もとりたてて抵抗の動きは起きなかったようだ。裁判所の新庁舎移転後も取り組みは継続し、手荷物検査は福岡で丸10年の実績を重ねることとなる。裁判所関係者、検察関係者、弁護士、司法書士、地元記者クラブ関係者などが「検査不要者」とされている差別的取り扱いについても、異議は唱えられていない。

年間7,800万円を費やして裁判官や裁判所職員の安全を(国民の安全ではなく)守る取り組みは適切といえるかどうか、その評価は読者諸氏に委ねたい。なお今回、同時に公文書を開示した札幌の裁判所では検査の予算が1億1,762万19円となっているが、これは昨年から契約期間が3年間になったためで、1年間の平均では3,920万6,673円と、福岡のおよそ半額となっている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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