【森友学園問題】情報公開制度をあざ笑う財務官僚の所業

 森友学園では幼稚園児に毎朝、君が代を歌わせ、戦前の教育勅語を復唱させていた。安倍晋三首相の昭恵夫人が2014年春に訪問した際には、籠池(かごいけ)泰典理事長が「どんな首相ですか」と問い、園児が「日本を守ってくれる人」と答えると、昭恵夫人は「ちゃんと伝えます」と感涙にむせんだという。(*下が安倍昭恵氏のフェイスブック投稿。昭恵氏と一緒に写っているのは、森友学園の元理事長とその妻)

 その森友学園が小学校の建設を計画し、昭恵夫人は名誉校長を引き受けた。学園が9億円余りの国有地を格安で払い下げてもらったのは2016年、その疑惑が表面化したのは翌2017年の2月だった。

 メディアが「森友疑惑」と大々的に報道し、国会も大騒ぎになった。おさらいしておくと、一連の報道や調査で明らかになった事実は以下の通りである。

・2015年9月3日 安倍首相が財務省の岡本薫明官房長と迫田英典理財局長と面会。

・同 年 9月4日 国会が安保法制の法案審議で紛糾する中、安倍首相は大阪に出張し、公明党の冬柴鉄三・元国交相の次男でコンサルタント会社を経営する冬柴大(ひろし)氏と会食。

・同 年 9月5日 明恵夫人が森友学園経営の塚本幼稚園で講演。

・2016年6月20日 国が森友学園と大阪府豊中市の国有地の売買契約を締結。

・2017年2月8日 木村真・豊中市議が国有地売却に関して情報公開を求める訴訟を起こし、直後に記者会見。森友学園疑惑が表面化した。

・同 年 2月17日 衆議院予算委員会で安倍首相が「私や妻がこの国有地払い下げにもし関わっていたのであれば、総理大臣をやめる」と言明。

・同 年 2月23日 安倍晋三事務所が森友学園に昭恵夫人の名誉校長辞任を伝える。

・同 年 2月24日 衆議院予算委員会で佐川宣寿理財局長が「記録は廃棄した」と答弁。2月下旬から4月にかけて、財務省は関係文書を改竄。

・2018年3月2日 朝日新聞が「森友文書 書き換えの疑い」と報道。

・同 年 3月7日  国有地売却文書の改竄に関わった近畿財務局の赤木俊夫氏が自死。

・同 年 5月31日 大阪地検、背任罪などで告発された迫田、佐川両氏らを不起訴処分。

・2020年3月18日 妻の赤木雅子氏が国と佐川元理財局長を相手に損害賠償請求訴訟を起こす。

・2021年12月15日 国側が請求を認め、損害賠償請求訴訟を終結させる。

・2023年9月14日 森友関連文書の改竄に関する行政文書の開示を求める訴訟で大阪地裁は請求棄却の判決。

・2025年1月30日 大阪高裁は地裁の判決を覆し、関係文書の開示を命じる。石破政権は最高裁に上告せず、開示を決定。

 こうした経過を振り返って、あらためて思うのは「安倍首相とその意を体して動き回った財務省の幹部たちは、何と姑息で卑劣なのか」ということだ。安倍首相は自らと妻の関与が明らかになっても、首相の座を退くことはなかった。「乗り切れる」と見ていたのだろう。

 実際、財務省の幹部たちはあらゆる手を尽くして、疑惑が事件になるのを防いだ。財務省の佐川理財局長に至っては、自らの関与について国会で証言を求められると、「捜査に関わることなので答弁を控えさせていただきます」と証言を拒み通し、国税庁長官に栄転した。背任罪や虚偽公文書作成罪などで告発を受けた検察当局は、佐川氏を含む全員を「嫌疑不十分」あるいは「嫌疑なし」として不起訴処分にした。

 確かに、財務省は不都合な文書を削除して、丸く収まるような文書に改竄しただけだ。「虚偽の内容の公文書」を作ったわけではない。背任罪に問うためには、「故意に国庫に損害を与えようとした」ということを立証しなければならない。これはハードルが極めて高いので、背任罪にも問えない。財務官僚たちは「法律のプロ中のプロ」である。どのように立ち回れば、犯罪にならないか、十分に検討したうえで対処している。

 それでも、文書の改竄を命じられた末に命を絶った赤木俊夫さんの妻雅子さんはあきらめることなく、事実を明らかにするために闘い続けた。そして、今年の1月、森友疑惑の発覚から8年たって、ようやく関連文書の全面開示を勝ち取った。開示対象の文書は、紙の資料が17万枚以上、電子データファイルが数万件とされる。4月に第1弾として約2200枚が開示された。これから順次、残りの文書が公開される。

 だが、闘いはまだまだ続く。第1弾の開示文書ですら、肝心の部分は欠落している。「なぜか」という問いに、財務省は「廃棄したためない」と答えた。すでに2018年の段階で、国会で「一部廃棄した」と答弁している。「廃棄しているため文書はない。従って公開できない」というわけだ。

 法律の専門家に意見を求めたら、「ないんだから、どうしようもないね」という。自分たちに都合の悪い文書を廃棄しておいて、「公開できません」と開き直っても、とがめようがないという。これでは、情報公開制度の意義が著しく損なわれる。「公開請求されそうな文書は早めにシュレッダーにかけてしまえ」というのがまかり通ってしまうからだ。

 「公務員が作った文書はすべて納税者のものであり、国家機密や外交、安全保障にかかわる機微な情報以外は、原則として公開しなければならない」という情報公開制度の根幹が崩れる。財務官僚たちの対応は天にツバする行為と言うしかない。

 そういう許しがたい行為は「厳罰をもって臨むべし」と思うのだが、刑法などで処罰することはできないのだという。虚偽公文書作成罪や背任罪は上述のような理由で無理だ。公務員職権濫用罪もしくは公用文書等毀棄罪を適用できる「可能性」はあるが、どちらも3年から5年で公訴時効が成立する。

 2018年の国会答弁で、財務省側は「関係文書の一部は破棄した」と明らかにしているので、どちらもとっくに時効が成立している。おそらく、この国会答弁も「時効の起算点」をはっきりさせておく、という意図があったのだろう。

 「行政文書を適正に管理するため」という名目で、2009年に公文書管理法が制定されたが、この法律には罰則がない。「だめですよ」と懲戒処分を下せるだけだ。刑法も行政法も「官僚に優しく、官僚が使いやすいように」できている。

 「公務員は全体の奉仕者である」という憲法15条も、「すべて職員は国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務しなければならない」という国家公務員法96条もどこ吹く風。彼らの本音は「権力を握る者への奉仕者として、自分の利益のために勤務する」といったところか。

 繰り言を重ねても意味はない。どんなに厳しい道でも、あきらめることなく、赤木雅子さんのように立ち上がり、「開かれた社会への道」を切り拓いていくしかない。官僚機構の中にも心ある人たちはいる、と信じたい。

長岡 昇:NPO「ブナの森」代表

長岡 昇(ながおか のぼる)
山形県の地域おこしNPO「ブナの森」代表。市民オンブズマン山形県会議会員。朝日新聞記者として30年余り、主にアジアを取材した。2009年に早期退職して山形に帰郷、民間人校長として働く。2013年から3年間、山形大学プロジェクト教授。1953年生まれ、山形県朝日町在住。

【森友問題に関する筆者のコラム】
▽森友学園問題のキーマンと疑惑の3日間(ブナの森「風切通信」 2017年3月10日)⇒こちら
▽森友学園問題で公明党が沈黙する理由(情報屋台 2017年3月14日)⇒こちら
▽森友疑惑は思想事件である、との卓見(2017年3月22日)⇒こちら
▽森友問題、8億円値引きの核心に迫るリポート(2017年4月12日)⇒こちら
▽中国の故事「天網恢恢」を思い起こさせる展開(2018年3月12日)⇒こちら
▽何罪で起訴可能か、検察の悩みは深い(2018年3月16日)⇒こちら
▽これこそ、森友問題の謎を解く補助線か(2018年3月26日)⇒こちら
▽嘘に嘘を重ね、一国の宰相が落ちてゆく(2018年4月12日)⇒こちら
▽卑劣な人間をかばい続ける国家(2022年11月26日)⇒こちら

≪参考記事&サイト≫
◎昭恵夫人が森友学園の幼稚園を訪ねた際のエピソード(産経新聞のサイト)⇒こちら
◎安倍首相、夫人が大阪の小学校の名誉校長を辞任(ロイター、2017年2月24日)⇒こちら
◎ウィキペディア「佐川宣寿(のぶひさ)」⇒ちら
◎ウィキペディア「森友学園問題」⇒ちら
◎大阪地検特捜部の不起訴処分についてのコメント(政府の公文書のあり方を問う弁護士・研究者の会)⇒こちら
◎服務の根本基準(人事院のサイト)⇒こちら
◎森友文書の不開示決定を取り消した大阪高裁判決の記事(2025年1月30日、日経電子版)⇒こちら
◎「森友開示文書に欠落」と報じた新聞各紙の記事(2025年5月10日付)⇒こちら

 

この記事をSNSでシェアする

関連記事

最近の記事一覧

  1. 石破茂首相は、参議院選挙の公約に物価高対策として全国民に一律2万円を給付するとした上で、子どもや住民…
  2. 田川市・郡8市町村のし尿処理やごみ処理を司る一部事務組合「田川地区広域環境衛生施設組合」の組合長とし…
  3. 町長の椅子をカネで買ったということだ。 福岡県警は18日、今年3月30日に投開票された大任町長…
  4. 今月11日、安倍晋三元首相の関与も疑われた森友学園の問題で、公文書改ざんを余儀なくされ自ら命を絶った…
  5. 北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメントで最悪の被害といえる、在学生の自殺事件。遺族が起こした裁…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る