斎藤元彦兵庫県知事のパワハラなどを内部告発した元県民局長の私的な個人情報が流出した問題で、兵庫県が設置した「秘密漏えいに関する第三者委員会」が最終報告書を公表した。それを受けた斎藤氏は「ひとつのご指摘です」と淡々とした表情で話し、調査委の報告を受け流した。
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5月27日、調査委の最終報告書が公表され、「(元)総務部長の井ノ本氏が少なくとも3人の県議に資料の一部を提示し、併せてその内容に一部を口頭で述べるなどして秘密を漏えいしたと認められる」と結論づけた。
井ノ本氏の情報漏えいについては、「井ノ本氏は、知事からの指示及びこれと同調する片山元副知事の指示により元県民局長の私的情報について、『根回し』の趣旨で情報開示(漏えい)を行った可能性が高い」として斎藤知事の指示であると認定している。
元県民局長の個人情報が流出したことは極めて重大な問題。すでに元県民局長は自死しており、流出が一因である可能性もある。しかし、斎藤知事はどこ風。「指示はしていない。漏えいに関する指示は一切していない」と抗弁した。
報告書を読み進めると、当初、否定していた井ノ本氏が突然、弁護士を通じて「弁明書」を提出し、漏えいと斎藤知事の指示を認めたことが分かる。また、片山安孝元副知事、小橋浩一前理事も井ノ本氏と同じ趣旨の供述をしており、知事が井ノ本氏に指示を出したとする報告内容には信憑性がある。
「ウソをついているのでは」と問われた斎藤氏は、「それぞれの認識の中で発言したのだと思う」と無責任な発言。自身の責任や辞職については「県政を前へ進めていきたい」「給与カットを考えている」と他人事のような発言を繰り返した。
元県民局長の内部告発を調査する文書問題調査特別委員会(百条委員会)と第三者委員会は、すでに知事によるパワハラなどを認定している。今回の報告書によって、さらに“知事の指示”が認められたことで、「不法行為」があったとする見方が大半となった。
斎藤知事はこれまで、パワハラなどの疑惑に関して否定しながら「百条委員会や第三者委員会で調査されており、そこで判断されるはず」と百条委員会及び第三者委員会の判断に従う姿勢を示していた。しかし、自分にとって不利な判断が下されたとたん、「ハラスメントは受けた人、当事者が司法の場に訴えるなどして民事などで対応してゆくものだ」と前言を翻した。20年以上の経験がある男性の県職員は、ハンターの取材にこう話す。
「知事の発言には、唖然とするばかりです。(私は)県職員ですから、知事のもとで結束して県民のために尽くすのが仕事。しかし、情けなくて、もうやる気も力も失せるばかりです。(報告書については)昨年夏くらいに週刊文春が井ノ本さんの漏えいについて報じました。その前から、県議会筋から『井ノ本が個人情報を見せびらかしている』『斎藤知事がウラで指示を出した』というウワサがずっと出回っていました。県職員なら、かなり多くが知っている話だったんです。井ノ本さんの責任は重大ですが、知事が指示しない限り、兵庫県が厳重に管理しなければいけない個人情報を持ち出すなんてことはできないはず。元県民局長は、個人情報が漏れたことを苦にして亡くなったと県庁内ではそう信じている人がかなりいる。それなのに、井ノ本さんにはたった3か月の停職処分、知事自身は給与カットで済まそうとしているんですから、とんでもないですよ」
井ノ本氏は弁護士を通じてコメントを出し、斎藤知事の指示を前提に「業務行為が情報漏えいと評価されたのは誠に残念」と述べている。
ある自民党県議は、「百条委員会と二つの第三者委員会で斎藤知事の問題が明確に認められた。普通なら、すぐに不信任案を突き付けたいところ」と息巻く。しかし、このカードは昨年11月の出直し選挙で、斎藤知事が圧勝してそう簡単には切れない状態だ。ただ、部下に不法行為とみられても仕方ない指示を出したことが人の死につながった可能性もあるため、このまま見過ごすことはできない。6月から県議会がはじまるので、斎藤知事が今のような態度で臨めば、再度の不信任案提出もやむをえません。事実、選挙区の有権者からも『いつまで野放しにするんだ、県政は前に進まず後退だ』と叱られており、なんらかの手を打たねばならない」と語る。
斎藤知事の“退場”が求められる状況だ。