個人情報保護を理由に情報公開請求を拒む事例が後を絶たない。不必要な黒塗り非開示は増える一方だ。これの状況を放置すれば、行政機関にとって都合の悪い情報や不祥事の隠蔽が常態化する。ここ数年、鹿児島県警や福岡県大任町の闇を暴くための記事を数多く配信してきたが、「捜査情報」や「個人情報」を盾にとった理不尽な情報隠しは酷くなる一方だ。他の自治体でも傾向は同じ。数年前まではあり得なかった“公表資料の黒塗り”に走る自治体まで出てきた。
■公表資料を黒塗り非開示
公職選挙法は、当該選挙を所管する選挙管理委員会に提出された「選挙運動費用収支報告書」について、「何人」であっても閲覧できると規定(第百九十二条4)。全国の自治体にある選挙管理委員会は、閲覧を申し出た人に、請求のあった報告書を無条件で見せる義務がある。情報公開条例を制定していない自治体であっても、閲覧を拒むことはできない。つまり選挙運動費用収支報告書は公表資料であり、情報公開請求があれば黒塗りなしで開示するのがルールだ。その“当たり前”が理解できていないことを示す事例が、続けざまに起きた。
【豊前市選管】
まず福岡県豊前市選管の例。ハンターは先月、豊前市長選挙における当選者の選挙運動費用収支報告書を開示請求したが、当初開示された報告書は、下の画像のとおり、一部(18か所)が黒塗りされていた。
【大任町選管】
同様に、田川郡の大任町の町長選挙で当選した候補者の選挙運動費用収支報告書も、当初は一部が黒塗り(12か所)となった。これもやっていけない非開示処分である。
両自治体の選管には「間違い」を指摘して黒塗り処分を撤回させたが、かつて、こうしたミスを見た記憶がない。確認すると、不必要な黒塗りを行った理由は、いずれの選管も「個人情報だから」というもの。公表資料を非開示にするというバカげた忖度が、いかに非常識なものであるか理解できていない証拠だ。
【福岡市選管】
一番酷かったのは福岡市選管。正直、当初開示された選挙運動費用収支報告書を見た時は愕然となった――「福岡市はここまでレベルが下がったのか」。九州を引っ張る政令市として他の自治体の模範となるべき福岡市の、異常なまでの個人情報保護だった。
まず、豊前市や大任町でさえやっていない報告書の表紙の一部を黒塗り(*下の画像参照)。報告書の中の黒塗り個所は300か所を軽く超えた。
これまで、何十回と同市選管に対する選挙運動費用収支報告書の開示請求をかけてきたが、黒塗りにお目にかかったことは一度もない。抗議してようやく報告書の全面開示という“まともな情報公開”になったが、選管は謝ろうともしなかった。小役人のプライドゆえか、「役所は間違いを認めない」という歪んだルールゆえか分からないが、福岡市の行政機関としてのレベルが著しく低下しているのは確かだろう。
問題は、ハンターが指摘しなければ、間違った情報開示がまかり通っていたという点。開示請求者が役所の行為を頭から信用してしまえば、支払った手数料が無駄になるからだ。役所が個人情報保護を理由に意味のない黒塗りをしないよう、監視の目を光らせなければならない。
もう一点、豊前市、大任町、福岡市の選管が考えられないミスを犯したということは、それまで同様の開示請求が行われていなかったことを意味している。それぞれの自治体を担当する大手メディアの記者たちは、首長や議員の選挙運動収支に興味がないのだろう。
■見直し急務の「個人情報保護」
情報公開は、住民の知る権利を保障するための重要な制度だ。役所の権力行使が妥当なのかどうかを評価するためには、可能な限りの情報開示が必要となる。選挙結果に関する情報開示についても然り。個人情報保護も大事だが、行き過ぎた判断が住民の不利益につながることを忘れてはなるまい。
2003年に個人情報保護法が制定された際、役所が過剰反応し、開示すべき情報を隠してしまうのではないかという懸念が示された。公表資料さえ黒塗りにする自治体が出てきたということは、事態の深刻さを物語っていると言えるだろう。
警察組織や役所が、個人情報保護を悪用する形で真実を隠ぺいする事例も増えた。一方で、ネット上では世界中に個人情報がばら撒かれているのが現状だ。「個人情報保護」について、立ち止まって考えるべき時期が来ているのではないだろうか。
(中願寺純則)