昨年7月の参院選で、地元広島の県議、市議、首長や自身の後援者にまでカネを配って歩いた公職選挙法違反(買収)の疑いで、前法相で衆院議員の河井克行容疑者と妻で参院議員の河井案里容疑者が東京地検特捜部に逮捕された。案里容疑者を当選させるため、90人以上にばら撒かれた額は2,500万円超。前代未聞の買収事件である。
■連座で終わる河井夫妻の政治生命
克之氏は安倍晋三首相や菅義偉官房長官の側近で、参院選に立候補するのが妻という状況下、負けられないというプレッシャーがあったことは容易に想像がつく。しかし、「この時代、地方議員や後援者、運動員にカネを配るなんて信じがたい」という自民党の幹部の言葉が示す通り、常軌を逸した選挙運動だったのは確かだ。
逮捕されて間もない河井容疑者夫妻だが、事態は慌ただしく動いている。案里容疑者の公設秘書を務めていた立道浩被告はすでに公職選挙法違反で逮捕・起訴され、広島地裁で有罪判決を受けている。立道被告が公職選挙法の「組織的選挙運動管理者」に当たるとして、連座制の対象になっているのは周知の通りだ。
一方、克行容疑者は案里容疑者の夫であり選挙を主導した「総括主宰者」。克之容疑者夫妻の逮捕時、東京地検特捜部は「今後の捜査に支障がある」として克之氏を連座制の対象にするかどうかについて回答しなかったが、東京地検特捜部OBで検事長経験のある弁護士は、「典型的な連座制対象、百日裁判。これがならなければ、他でも連座制にならないよ」と話す。もし、克之氏が連座制の対象となれば、河井容疑者夫妻の政治家生命はジ・エンドとなりそうだ。
■待ち受ける過酷な裁判闘争
刑事事件で検察と被告の主張や意見が乖離する場合、争点を整理するため「公判前整理手続き」が実施され、集中して審理が行われる。だが、公判前整理手続きの実施は刑法が改正された平成17年からで、昭和25年から導入されている連座制に絡む百日裁判では、公判前整理手続きがとれない。
膨大な証拠が出される一方、審理期間は百日と限定。検察は、作業を急ぐ必要に迫られる。「わしゃ、30万円を克行容疑者からもらった。その後、返したが94人がもらった模様だ。検察から連絡があってまた事情聴取をしたいという。終わったはずなのにというと『次、裁判が控えているから準備があって』と話していた」(自民党の広島県議)
百日裁判は、起訴された日からカウントがはじまる。一方、買収された側は94人もいる。1人で2通の供述調書を作成したとして、200通近く。関係者が多数いて、そちらの供述調書もあれば捜査報告書もある。検察は、検事や事務官を大量に投入して、事に当たるはずだ。
前出の弁護士も「おそらく検察は500とか600くらいの証拠を出すのではないか」と話しており、河井容疑者夫妻は、短期間でこれらの証拠を読み込み、公判に臨まなければならなくなる。容疑を否認する場合、証人も多数必要となり、公判の回数が増す。とても数人の弁護士で対応できるものではないが、それが現実なのだ。政治生命を断たれた河井容疑者夫妻を待っているのは、過酷な裁判闘争だ。
克行容疑者は、2,500万円を超えるカネの供与すべてに関与したとみられており、渡された側のほとんどが授受を認めている。また案里容疑者の当選後もカネを渡し続けていたことが分かっており、いわゆる「事後買収」も明らかになった。極めて悪質な事件と言えるだろう。
「党内では、克行容疑者は実刑確実という声しきりだ。案里容疑者は仮に執行猶予がついても、連座制で失職。何を言ったところで、結果的に2人はカネで議席を買ったということだ。自民党が守ることもないし、次の候補者を選定している。今からでも遅くないので、反省の意を示すべく辞職してバッジを外すことの方が、今後のためになると思うね。その方が刑期も軽くなるでしょう」(前出・自民党の幹部)
(山本吉文)