開票速報をネットでみながら、「参議院選挙も危ないな」と渋い表情で話すのは自民党の大臣経験者。6月22日投開票の東京都議選で自民党は大惨敗、獲得21議席(前回33議席)と過去最低の結果となった。
連立与党の公明党も19議席(前回23議席)と敗北。一方、小池百合子都知事率いる都民ファーストの会は31議席(前回26議席)で第一会派に。立憲民主党も17議席(前回12議席)と躍進した。高い支持を誇っていた国民民主党は9議席とはじめて議席を確保。以下、共産党は14議席(前回19議席)、前回1議席を得ていた維新はゼロとなった。昨年の東京都知事選で小池知事に次ぐ2位となったことで注目されていた石丸伸二元安芸高田市長が立ち上げた「再生の道」も議席獲得に失敗した。政局に及ぼす影響は……。
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この結果は、12年に1度、都議選と重なる参議院選挙に大きく影響することが確実だ。石破茂首相は、参院選の公約に全国民に2万円給付という「バラマキ」を打ち出したが、効果がないことを証明した格好だ。
「都議選前に2万円給付を表明して勝つ。そして、参議院選挙もその勢いでというのが石破首相の目論見だった。しかし、都議選でNOを突き付けられたのは痛い」(前出の大臣経験者)
もう一つ、都議選の目玉だったのは小泉進次郎農相の「備蓄米放出」。コメ不足の中、全国に5kgで2,000円以下の備蓄米が都議選に合わせたように出回り、自民党の支持率も回復傾向にあった。
「正直、小泉人気も下降線に入ったんじゃないか。都議選では小泉さんの声でオートコール作戦を大量にやったが、その効果がなかったということ」(同)
自民党が持つ2枚のカードが色あせていることがはっきりしたというわけだ。ただ、自民党都連には別のマイナス要因があった。本サイトでも報じてきた「都議会自民党」の裏金事件である。
安倍派などの裏金事件と同様に、パーティー券をノルマ以上に販売した都議が、政治資金収支報告書に記載せずに「裏金」としていた事件。都議会自民党の会計担当者が略式起訴され、罰金100万円、公民権停止3年の略式命令が確定している。自民党は都議選に立候補した裏金議員17人のうち6人を非公認としており、そのうち5人が落選した。
自民党は、昨年10月の衆議院選挙でも「裏金議員」を非公認とした。対象となった下村博文氏や武田良太氏などの“大物”が落選したのは記憶に新しい。裏金問題は終わっていないのだが、同党の政治家たちに「反省」する姿勢は見られない。
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例えば、江東区元職の山崎一輝氏。父親の孝明氏は江東区長を4期も務めており、一輝氏典型的な世襲のボンボンだ。同氏は非公認とされたが、なぜか自民党は“刺客”を擁立しなかった。
選挙前、6月8日のこと。地元の神社で開催された「交通安全講習会」に出席した山崎氏は、主催者から「山崎氏を最適任者として認め、推薦します」「投票日は6月22日、山崎氏にはお祭りのことで3年間、いろいろ援助してもらっています。地元から都議会議員を出さなきゃいけない」として「推薦状」を手渡された。選挙の告示前に選挙活動することはご法度。この会合後《〇〇八幡宮神輿総代連合会 交通安全講習会及び〇〇説明会》という文書が地元で出回り「事実上の選挙活動だ」と山崎氏を批判する声があがった。
交通安全講習会は地元の警察や自民党の大空幸星衆議院議員が同席している場だったため問題はさらに大きくなったのだが、山崎氏は“我関せず”。X(旧ツイッター)に《自民党の朝日健太郎参議院議員を迎え、大空こうき衆議院議員に激励をいただきました》とポストした。(*下の画像参照)
選挙中、非公認のはずの山崎氏には自民党の大物が何人も応援に入り、「我々自民党全員が応援している山崎一輝」などと言い出す始末。なりふり構わぬ戦いを展開し、最下位の4位に食い込み当選を果たした。
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一方、現職7期の三宅茂樹氏(世田谷区)、4期の小宮安里氏(杉並区)などベテランの裏金議員は落選。三宅氏の陣営では「自民党の公認がなくなり、カネも応援弁士もなし。裏金議員というマイナスイメージばかりが強調されて、これまでの支援者が離れていった」と悔やむ。
過去9回の都議選で立候補者全員の当選が続いていた公明党は3人が落選。ある公明党の国会議員は「大田区では現職2人が落選。それより、創価学会本部がそびえたつ新宿区で現職が落ちたことが最大のショック」と落胆する。
選挙前は出馬させた18人が「全員当選か」とまで評価をあげていた国民民主党は、結果9議席で終わった。これまでゼロだったことを思うと大躍進ともいえるが、同党のある国会議員はこう話す。
「山尾ショックのおかげで、支持がジェットコースターのように落ちていることを痛感した。定数8の世田谷区は2人出したが当選は1人だけ。これまで調子に乗っていた。参議院選挙では足立康史さんや須藤元気さんという“訳あり”の候補者もいるし、幹部の不倫疑惑もある。大風呂敷を広げず、しっかり足元を見て戦った方がいい」
確かに、山尾しおり氏の公認問題を巡る「山尾ショック」を引きずったままでの選挙は厳しいだろう。
今回、ゼロから3議席を獲得した参政党の関係者は、「自民党右派の票をうまく取り込めたことが勝因ではないか。この調子が参議院選挙まで続けば、全国比例で議席がとれる」と鼻息が荒い。
「自民党の望みは、第一会派になった小池百合子東京都知事の都民ファーストの会と自民党を応援する有権者が保守系として重なるところ。都民ファーストは参議院選挙に候補者を出さないが、国民民主党と近い関係。都議選の勢いで小池知事がしゃしゃり出てくると、そちらに票が流れかねない。いずれにしても、石破総理は土俵際に追い詰められた」(前出の大臣経験者)