福岡高検管内の検察不祥事|昨年1年間で懲戒1件、監督上の措置8件    

 九州地区(福岡高検管内)の検察庁で昨年1年間に処分などがあった不祥事が計9件に上ることが、筆者の公文書開示請求でわかった。報道発表の記録が残っていた事案は那覇地検の戒告処分など2件のみで、ほか7件は未発表だった可能性が高い。

 ◆   ◆   ◆

 筆者は本年4月、福岡高検と管内8地検(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、及び那覇)の計9庁へ公文書開示請求を行なった。開示を求めたのは、各庁で昨年1年間に記録された懲戒処分と監督上の措置(懲戒に到らない軽い制裁)の概要がわかる公文書と、それらの報道発表の有無がわかる公文書。請求は4月7日付で、高検など8庁が同10日付で、那覇地検が同14日付でそれぞれ請求を受理した。

 各高検・地検から届いた請求書の写しによると、長崎地検のみ受理番号が本年第2号となっており、ほかはすべて第1号となっている。このことから、長崎以外の検察庁では本年4月まで地元メディアを含めて開示請求が1件もなかったことがわかった。なお、請求書写しの返送は長崎地検と鹿児島地検が配達証明郵便で、佐賀地検が簡易書留、また福岡地検が特定記録郵便だったが、ほか5庁は普通郵便だった。

 およそ1か月後の5月初旬、各庁から2通目の郵便が届いた。内訳は5庁が不開示決定で、残る4庁が開示期限延長通知。高検・地検ごとの対応をまとめると、次のようになる。

・不開示決定……福岡高検(5月7日付)、長崎地検(同9日付)、大分地検(同8日付)、宮崎地検(同8日付)、鹿児島地検(同9日付)

・開示期限延長……福岡地検(同8日付)、佐賀地検(同7日付)、熊本地検(同8日付)、那覇地検(同8日付)

 九州で昨年1年間に不祥事が記録された検察庁は、後者の4地検のみだったということになる。再び参考までに記しておくと、この時の通知は福岡高検、長崎地検、及び鹿児島地検の3者が配達証明郵便、佐賀地検と大分地検が簡易書留、福岡地検と那覇地検が特定記録郵便、残る熊本地検と宮崎地検の2者のみは普通郵便だった。

 期限延長となった4庁では5月下旬から6月上旬にかけて一部開示が決定し、請求人の筆者のもとへは6月中旬までに対象文書の写しが届いた。以下、開示決定の日付順に各事案の概要を採録しておく。いずれも例外なく複数個所が墨塗り処理されているが、開示部分を読み取る限りではそれぞれ下のような事案だったことがわかる。

佐賀地検(5月21日付開示決定)
所属不明職員…誤った訴因変更請求をした 2024年3月26日付『厳重注意』
所属不明職員…誤った訴因変更請求を看過した 同日付『注意』

熊本地検(5月26日付開示決定)
所属不明職員…不起訴記録を誤廃棄した 11月28日付『注意』

那覇地検(5月30日付開示決定)
検事…遁刑者一覧などの公文書を紛失した 8月2日付『戒告』
次席検事…上の事案の監督責任 同日付『注意』

福岡地検(6月3日付開示決定)
所属不明職員…なんらかの資料を誤廃棄した 1月17日付『厳重注意』
所属不明職員…誤った訴因変更請求をした 3月28日付『厳重注意』
所属不明職員…なんらかの書類を放置し、また隠匿した 5月17日付『厳重注意』
所属不明職員…酩酊して公用携帯電話を紛失した 11月21日付『訓告』

 まとめると、昨年1年間の不祥事は上の4地検で懲戒処分1件、監督上の措置8件、計9件だったということになる。このうち那覇地検の2件については、処分・措置と同日付で同事案が報道発表されていた。今回の決定ではその際の発表文とみられる文書も開示対象となり、こちらは墨塗りなしで開示された。少し長くなるが、事案概要を記した欄を全文採録しておく。これにより、当時の地元報道機関によるニュースがどこまで発表頼みでどこからが独自取材情報だったのかを検証できるだろう。

 《対象検事は、令和6年6月18日、在宅当番検察官に割り当てられていたことから、公用携帯電話並びに那覇地方検察庁職員93名の緊急連絡先一覧表及び自由刑とん刑者等91名の一覧表が含まれる在宅当番用携行ファイル在中のポーチを持ち帰った際、同ポーチを自転車の前籠に置き忘れたまま帰宅し、同月19日、第三者が同ポーチから同ファイルを抜き取って持ち去られ、同日に同自転車の前籠から同ポーチを回収するまでの間、同携帯電話機を紛失するとともに、同日に前記第三者から同ファイルを回収するまでの間、同ファイルを紛失した》

 故意でないとはいえ、重要な書類を紛失したことの結果責任は小さくない。当事者を懲戒処分とし、即日公表した那覇地検の対応はとりあえず真っ当な判断だったと評価できる。それをふまえて、報道発表の対象にならなかった不祥事の中にも類似の事案があった事実を確認しておきたい。福岡地検が昨年11月に『訓告』措置としたケースがそれだ。開示文書の墨塗り部分も含め、同件の概要を以下に採録する(※ 伏字部分の文字数は便宜上統一)。

 《■■■は、■■■頃、在宅当番■■■に割り当てられていたことから、公用携帯電話機及び在宅当番用携行ファイルほかを持ち帰り、警察等関係機関からの報告・連絡に対応するため自宅等に待機する必要があるにもかかわらず、■■■で夕食の際に飲酒した後、■■■のスナックを訪れ、同店内において引き続き飲酒の上酩酊し、自力での帰宅が困難な状態に陥り、■■■から■■■にかけての■■■、同店従業員に連れられ退店した後、付近の交番まで移動し、交番警察官によって■■■に連れられて帰宅したが、その頃、公用携帯電話機を遺失し、■■■に、■■■が前記スナック付近のコインパーキングにおいて回収するまで、公用携帯電話機を紛失し、また、その間、■■■の連絡があったにもかかわらず、その対応を一切行わなかったものである》

 那覇の不祥事で当事者が懲戒処分となり、事案概要が報道発表されたのに対し、福岡の件では当事者への制裁が監督上の措置に留まり、公表も免れた。前者が単に「自転車の前籠に置き忘れた」過失と読み取れるのに対し、後者の職員は「自力での帰宅が困難」になるほど泥酔していた――。当時の福岡地検の対応が適切だったといえるかどうかは、読者諸氏の評価に任せたい。

 以上のような事実は、検察への公文書開示請求を経ない限り確認できなかった。繰り返しになるが、本年に入ってからの各高検・地検への開示請求は、長崎地検を除く8庁で筆者の請求が第1号だった。大手報道機関は、検察の未発表不祥事にあまり関心がないようだ。

 なお検察庁職員の処分・措置の記録は今回のように各地の高検・地検が開示の窓口となっているが、裁判所職員の処分・措置については最高裁判所への開示請求のみで全国の記録の入手が可能となっている。筆者は現在、最高裁へ同記録の開示を求めているところで、こちらについても開示・不開示の結果が伝わり次第、追って本サイトなどで報告していくこととしたい。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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