国会議員が活動の拠点とする衆参両院の議員会館には、大小さまざまな会議室や面談室が整備されている。衆議院第一議員会館だけでも300人規模から20人程度まで収容できる会議室や応接室が38室あり、参議院議員会館にも10を超える会議室がある。政党の部会、政策勉強会、国際会議など、国政に関わる公務を支えるために設けられた公的施設であり、利用料は無料だ。しかし近年、その運用実態は本来の目的から大きく逸脱している。
■「選挙目的」が濃厚な利用実態
会議室は2か月前から予約可能だが、人気の部屋はすぐに埋まり、なかには一人の議員が朝から夜まで終日予約している例も多い。会議室を確保するために早朝から並んで、議員会館のサービスセンター予約受付前で立っている秘書がいることもある。
その一方で、利用目的が国政活動ではなく、国会見学の小学生・修学旅行の昼食会場や地元支援者との懇談会など、事実上の選挙活動に近い用途に使われているケースが少なくない。
典型的な例が、議員が自らの選挙区の小中学校に国会見学を斡旋し、議員会館の会議室を昼食会場として提供する事例である。「国会を案内してくれた先生」「国政の場で歓迎された」という印象を与えることで、地元での好感度や支持を高める効果を狙っている。中には、毎週のように修学旅行団体を受け入れている議員もいるという。さらに、地元後援会や支援団体を招いた昼食会や懇談会に利用する例も後を絶たない。
これらの行為は、明らかに公的施設の私的利用であり、政治倫理上看過できない。議員会館は国民の税金で維持される国の施設だ。選挙区の有権者や支援者を優遇する形で利用することは、公私混同に他ならない。しかも無料で利用できるため、実態としては「公費による選挙活動支援」とも言える。
■国会の責任で実態調査を!
さらに問題なのは、こうした利用実態がほとんど公開されていない点である。どの議員が、いつ、どの目的で利用しているのかについて、国民がその情報を知る手段はない。透明性が欠如したままでは制度が一部議員の既得権化し、結果として政治への信頼を損なう。国民から見れば、政治家が「自らのために特権を使っている」と映るのは当然だ。
公的資源の適正利用を確保するには、制度的な見直しが不可欠である。第一に、会議室利用の目的・日時・利用者の公表制度を導入すべきだ。利用実態を透明化することが、不適切な使用を抑止する最も効果的な手段である。第二に、選挙活動・地元支援目的での利用禁止を明文化し、違反した場合には使用制限などの措置を設ける必要がある。第三に、有料化や時間制限制度を導入し、一部議員による占有を防ぐことも有効だろう。
また、国会事務局などが所管する現行の予約管理だけでは限界がある。政治的中立性を保つため、第三者的監視機関を設置し、定期的に運用状況を点検する仕組みも検討すべきだ。こうした制度改革は、議員自身の「説明責任」を果たす第一歩となる。
政治への信頼は、日常の一つひとつの行動の積み重ねで築かれる。議員会館の会議室は、国民の代表である国会議員が政策論議や国際対応のために使うべき公的空間であり、地元への利益供与や選挙活動の場ではない。議員一人ひとりが自覚を持ち、公私のけじめを明確にすることこそ、政治倫理の基礎となる。
国民の税金によって支えられている施設が、選挙区への「サービス会場」と化している現状を放置してはならない。国会は速やかに会議室利用の実態を調査し、透明性と公平性を確保するための制度設計を行うべきである。
国会議員には、国民の代表としての自覚と、公私を峻別する姿勢が求められる。多くの問題を抱えている議員会館の会議室利用ではあるが、情けないことに、誰もこの問題に言及しない。やはり現職特権を手放したくないという議員心理からだ。政治家の倫理と制度運用の両面から、今こそ是正の手を打つべき時である。
(国会議員秘書)















