鹿児島地裁民事二部「でっち上げ」の証明|鹿児島・強制性交事件の民事訴訟判決に重大な瑕疵(下ー2)
2021年秋に新型コロナウイルスの宿泊療養施設などで強制性交に及んだとして、被害を受けた女性から損害賠償を求める訴えを起こされた鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)。原告女性とその雇用主の前で強制性交を認めながら態度を一変させた男性は、「合意に基づく性行為」であったことを印象づけるため、最初の陳述書から今年1月の法廷における尋問まで、犯行を認めた際の自分の発言やその後に作成した文書の内容を否定する主張を繰り返していた。
「原告を強姦したことを認めたことはない」「『自身の当該行為は強姦罪にあたるものであること』という発言はしていない」――そうした被告男性の主張は、裁判の最終局面で原告側から提出された「録音データ」によって“ウソ”だと証明されることになる。
常識的に考えれば、主張の肝となる供述内容がウソだと分かった以上、女性の訴えが認められるのが普通。しかし、鹿児島地裁民事二部(前原栄智裁判長)が下した判決は、原告側敗訴となる「請求棄却」だった。驚いたことに地裁は、それまで被告男性がただの一度も主張していなかった「ウソをついた理由」をでっち上げ、判断材料に使ったのである。
■強制性交を否定した一連の主張
以下に、22年5月の「陳述書」から昨年4月の「準備書面6」までに、被告側から地裁に提出された書面の主な該当部分を抜粋する。赤い字の箇所は、のちに「確たる証拠」によって虚偽であることが明らかになる部分である。以下に記載の「B」は女性の雇用主側が運営する施設。「C氏」が雇用主である。




繰り返し主張されたのは、原告女性の雇用主から以下のような暴力的な扱いを受け、やむなく前掲の画像文書を書いたとする筋書きである。
・「ダウンの首を捕まれ」
・「ダウンを脱げ、携帯置いて、土下座しろ」
・「両方の頬を両手で同時に叩かれた」
・「訴えてやる。お前、俺が誰か分かっているだろ』とヤクザのような口調で言われ・・・
女性の雇用主からこのような仕打ちを受けたせいでやむなく作成したのが、前稿で示した「罪状」をはじめとする5点計10枚の文書だったというわけだ。それが以下の男性側主張の結論につながる。
《被告は原告と性的関係になったことを認めたに過ぎず、「原告の合意なく性交したこと、原告を強姦したことを認めたこと」については否認する。》
《この点、被告が「自身の当該行為は強姦罪にあたるものであること」という発言はしていない。》
■「録音データ」が暴いた被告のウソ
原告女性の雇用主が暴力的な言動で無理やり被告男性に「罪状」を認めさせていたのなら、確かに一連の文書の証拠能力は否定される。しかし、裁判の最後になって提出された、21年12月1日に被告の男性が被害女性の雇用主に呼ばれ“事件”の経過について自白した時の『録音データ』が被告人のウソを証明することになる。
ハンターが入手した録音データの反訳から、以下に冒頭部分を抜粋する。なお、原文は裁判所の正式な記録である。本稿では、解りやすくするため登場人物をそれぞれ「原告女性」「(女性の)雇用主」「被告男性」、会話の中での原告女性は「○○」などと一部を変えて表記する。
(ドアの開閉音)
原告女性:そっとしとけばよかった。やっぱり。ごめんね。
女性の同僚:てか俺、いないほうがいいんじゃない?(ドアの開閉音)
雇用主:座れよ。
被告男性:はい。雇用主:座れよ、もっと前へ。言いたいことはないか。
被告男性:あーいや。雇用主:警察官の息子が。
被告男性:そうですね。雇用主:なにをしてるんですか。
被告男性:はい。雇用主:全部やったことに。
被告男性:はい。雇用主:覚えてる。なんだってんだよ。
被告男性:すみません、失礼しました。雇用主: 何をしたんか、言えよ。(ドアの開閉音)
被告男性:○○さん(*被告女性)と……。雇用主:ほう、○○さんと何をしたの?
被告男性:セックスしました。雇用主:ほう、いつ。
被告男性:えー宿泊療養施設でお世話になっているとき。雇用主: 何月何日よ。 携帯見らんか。
原告女性:▲▲▲▲で 、ホテルで打合せをしてるとき。
被告男性:勤務していただいたときとご協力いただいたときなので 、9月でしょうか。9月20、23ぐらいだと記憶しています。雇用主:23?
被告男性:はい。雇用主:はい、その23日。
被告男性:はい。雇用主:何曜日ですか。
被告男性:えー木曜日、しかも休みの日です。雇用主:休みの日、セックスをしたんですね。
被告男性:しました。雇用主:どういうセックスだったんですか。
被告男性:どういうセックス……。雇用主:どういういきさつでセックスに至ったんですか?
被告男性:二人で色々話をしてまして。雇用主:ほう。
被告男性:で、まあ、その流れというか。雇用主: 話をしたらセックスをするのか、お前。
被告男性:いえ、いえ。多少強引にというか。雇用主:多少強引に?
被告男性:そうですね。雇用主:多少ですか?
被告男性:いえ。多少でもないですね。雇用主:それ一般的に何というのよ。
被告男性:強姦罪です。雇用主:強姦罪だよな。
被告男性:はい。雇用主:レイプだよな。お前はうちの職員をレイプしたんだよな。
被告男性:はい。そういうことですね。雇用主:よくお前それで俺と普通に話ができてたな。
被告男性 : そうですね。先生の仰るとおりですね。雇用主:お前一体どういう人間なの。
被告男性:すいません、正直申し上げてもよろしいですか。雇用主: どうぞ。
被告男性:私、あの、救急、いいか悪いかは別としてですね。救急セミナーお世話になったころから○○さんに好意はあったのは確実です。ただやっていることは、先生の仰っているとおり、です。雇用主:好意があるやつ好意があるやつ襲ってたらお前、一生刑務所から出れんで。
被告男性:そうなんですよね、はい。雇用主:まずは土下座しろよ。
被告男性:はい。申し訳ございませんでした。○○さんすいません。大変申し訳ございませんでした。雇用主:この心の傷はどうしてくれんのお前。夜も眠れない、飯も食えない。どうしてくれんの。
被告男性:はい、はい ……(沈黙)雇用主: どう償うのよ。
被告男性:償う。やってしまったのは、真摯に○○さんにも、まずは改めてこんなことをしたことをきちんと謝りまして、そうですね、その自分のやれることは、まず先生にご迷惑をお掛けしたことをきちんと誠意をもって謝ることと、私ができることはすべて、その、沢山償わなければと思っております。雇用主:どうしたのよ、お前。かわいがってきただろう。
被告男性:はい、先生すいません。雇用主:誰よりもお前はかわいがってきただろう俺は。
被告男性:はい。先生すいません。あの、先生、言ってよろしいですか。雇用主:うん。
被告男性:怒られるの承知で言います。雇用主:うん。
被告男性:はい。唯一味方になってくれる方でした。ほんとに。雇用主:何の味方よ。
被告男性:その看護士のその■■■■■作ったりとか、もう最初から結構、相談してて。本当に頼りにしてて。で、ま、それは駄目だと分かってます。雇用主:俺はな。別にお前が○○を好きになることを悪いって言ってるわけじゃないわけよ。人を好きになるのは感情だから。好きなら好きで別にいいよ。俺が好きなヤツを好きなのはありがたい話で、うれしいと思うわさ。
被告男性:そこに合意はなかった、です、先生が仰るとおり。雇用主:でも合意がないのにやってしまえば。
被告男性:はい。雇用主:それはもうレイプだよ。
被告男性:犯罪です。雇用主:犯罪だよ。
被告男性:はい、そうです。仰るとおりです。雇用主: 犯罪を起こしてしまった後、お前はどういうことを思っていたのよ。この1か月、2か月。どういう気持ちでいたわけ。原告Aに対して俺に対して。家族に対して。
被告男性:○○さんに対しては、本当にずっと心残りがありつつも、あの、ただ先生には申し訳ございません。もう、知られなければ、もうあの○○さんが話さなければ問題……。雇用主:バレなければいいと思うわな。そうだな。
被告男性:申し訳ございません。雇用主:まあ言えないだろうなと思ったと思うし。
被告男性:言えないだろうとは、先生、そこは……。雇用主:じゃ、お前言われたらどうしようと思ったのよ。
被告男性:もう言われたら、やってしまったことですので。雇用主:まあ謝るしかないと。
被告男性:もうすいません、もうすいません。もうそのときにはほんとに、その後は後悔しましたけれども。もうそのときには。〈以下、略〉
入室から犯行を認めるまでの過程がハッキリ聞き取れる録音データだ。原告女性の雇用主の声は静かで、怒声を浴びせた箇所は最後まで出てこない。《「訴えてやる、お前、俺が誰か分かっているだろ」とヤクザのような口調で言われ》が作り話であることは明白だ。
雇用主の「座れよ」から始まったやり取りから、何度も出てきた被告男性の主張《部屋に入った瞬間にC氏からいきなり被告が来ていたダウンの首を捕まれ、原告と反対の場所に立たされた。C氏から「お前、原告に何をしたんだ。」「ダウンを脱げ、携帯置いて、土下座しろ。」と怒鳴られ、C氏から両方の頬を両手で同時に叩かれた》が真っ赤なウソであることも分かる。
《「原告の合意なく性交したこと、原告を強姦したことを認めたこと」については否認する。》も同様だ。被告男性は自ら罪を認め、ひたすら許しを乞うている。雇用主による証言の誘導も、強要もない。4月23日付準備書面で自信満々という感じで出てきた《「自身の当該行為は強姦罪にあたるものであること」と言う発言はしていない。》が虚しく響く。
この訴訟の重要ポイントが、2021年12月1日に被告の男性が被害女性の雇用主に呼ばれ、それまでに起きた“事件”の経過を問い質された時のやり取りへの評価と、その日から5日後に被告男性から雇用主に画像送信された「罪状」と記された文書10枚をどう見るかであることは前稿で述べた通り。であるなら、被告男性の主張がいかに信用できないものか、子供でも分かる話だろう。しかし、鹿児島地裁民事2部は、とんでもない理由をでっち上げ、女性側の請求を棄却する。
■地裁がでっち上げた判決理由
判決で鹿児島地裁は、原告女性と被告の間のメールのやり取りや二人で会うなどの接触を拒まず、複数回の性交渉を行ったと一方的に決めつけ、「同意のもとでの性交渉」と断定。2021年12月1日における女性の雇用主に対する被告男性の発言については、以下のように判断する。
“原告とC(*雇用主)は交際していると噂され、被告もそれを信じていたこと、Cと被告との間では主従関係ないし上下関係が形成されていたこと、Cが怒り口調であったこと等の背景や同日の状況からすれば、原告と性交渉をしたことは、被告からして弁明し難い事実であり、同日のやり取りについて、Cに追従せざるを得なかったと考えられる。
原告が同意の上で被告と性交渉をもったとすれば、それはCと交際している(と噂されている)原告にとっても不利な事実であるから、被告においても、原告に不利益が及ばないような説明をする必要があるという心理状態に置かれたことは否定し難い。
以上のとおり、同日のやり取りについては、被告がCに追従せざるを得ないことや、原告に不利益が及ばない説明をする必要があるという心理状態の下で行われたことを踏まえ、解釈すべきである。”
地裁は、被告男性が原告とその雇用主の前で犯行を認めたことを、“C(雇用主)に追随し、原告に不利益が及ばないような説明をする必要があるという心理状態”によるものだという。前提のひとつに挙げたのは、単なる噂に過ぎない「原告とC(雇用主)との交際」という具体的な証拠のない話。つまり地裁は、原告女性と雇用主が交際していたという不確かな「噂」を事実として認める形で、被告男性が原告に不利益が及ばないようにウソをついてやったというのだ。とんでもないでっち上げである。
被告男性が強制性交を認めたことを否定するにあたって、陳述書や準備書面で繰り返し訴えていたのは上掲の主張――「ダウンの首を捕まれ」「ダウンを脱げ、携帯置いて、土下座しろ」「両方の頬を両手で同時に叩かれた」「訴えてやる。お前、俺が誰か分かっているだろ』とヤクザのような口調で言われ」だ。一度たりとも『原告女性に不利益が及ばないように配慮した』などという趣旨の主張は行っていない。被告側が考えてもいなかった話を勝手に創作し、強制性交の否定に導いた地裁の判決。それを見た被告男性と代理人でさえ驚いたのではないだろうか。
判決は、それまでの積み上げられた証拠や証言を丁寧に検証して下されるべきもののはずだが、鹿児島地裁民事2部の判断は、そこから大きく逸脱し、「合意による性行為」という自分たちの見立てを通すため、無理やり確たる証拠である録音データの評価を貶めた可能性が高い。
コロコロ代わった裁判官。原告と被告を取り違えるなど間違いだらけの判決文。極めつけが裁判所によるでっち上げである。こんな判決を信用する国民がいるとは思えない。福岡高裁宮崎支部での控訴審は、年内にも始まる予定。「正義」の実現に期待したい。
(中願寺純則)















