犯行自供の医師会元職員、一転否認の裏|鹿児島・強制性交事件の民事訴訟判決に重大な瑕疵(下ー1)
鹿児島県医師会の男性職員(2022年10月に退職)から性被害を受けたとして女性看護師が損害賠償を求めた訴訟で、事件を担当した鹿児島地裁の民事二部(前原栄智裁判長)が下したのは大方の予想を裏切る「請求棄却」という驚くべき判断。根拠として地裁が挙げたのは、被告側でさえ主張していなかった“でっち上げ”の理由だった。その詳細を検証するにあたり、もう一度事件の経過と、残されていた「物証」について振り返っておきたい。
■犯行認めた10枚の文書画像
この訴訟の重要ポイントは二つ。ひとつは2021年12月1日に被告の男性が被害女性の雇用主に呼ばれ、それまでに起きた“事件”の経過を問い質された時のやり取りへの評価。もう一点が、12月1日のやり取りを経て被告男性から雇用主に画像送信された「罪状」と記された文書10枚をどう見るかだった。
まず、被告男性が同年12月5日に原告側に送信した「罪状」と題する文書、原告女性への手紙、「慰謝料」と題する一文など全ての画像を示す(*右から順に画像クリックで拡大)。
次に、被告女性の雇用主に送信された文書の画像。
被告男性は、21年12月1日に原告女性立ち合いのもと、女性の雇用主の前で自らの“犯行”とその動機などを白状し、4日後の12月5日、雇用主側に上掲10枚の文書画像を送信していた。自白の場で強要されたものでないことは確かだが、この文書送信は単なる時間稼ぎだった疑いがあり、その証拠に翌6日、同年3月まで鹿児島県警中央警察署勤務の警部補だった父親に付き添われて同署に出向き、事前相談していたことが分かっている。
男性被告側はその後、県医師会の聴取に対し「警察から刑事事件には該当しないと言われた」と報告していることから、中央署において「無罪」=「合意に基づく性交渉」を主張、県警もこの説明に同調する発言を行っていた可能性がある。
■もみ消し図った鹿児島県警
事態が動く中、原告女性は22年1月7日、告訴状提出のため弁護士に伴われ中央警察署を訪問する。しかし、マエゾノと名乗った同署の警察官は、『大丈夫ですから』と弁護士を騙して帰らせた後、女性に対して執拗に「証拠がない」「事件にならない」といった発言を繰り返し、告訴状の受け取りを拒否。いったんコピーした告訴状を、署の駐車場まで追いかけて突き返すという異常な対応をとっていた。被害者を欺き、事件をもみ消そうとしたことは確かだ。
その後弁護士にねじ込まれた県警は同月17日に渋々告訴状を受理したが、その後の経緯を見る限り、女性が中央署に出向いた1月7日の時点では既に、身内のために事件を闇に葬るという「警察一家」特有の動きが始まっていたと考えられる。
“警察は不起訴に持ち込むための捜査しかしない”――ハンターの予想が的を射ていたのは確か。独自に入手した「告訴・告発事件処理簿一覧表」(*下の画像にある赤と青の書き込みはハンター編集部)によれば、中央署強行班係が関係者の事情聴取に着手したのは告訴状受理から1年近く経った11月。被疑者への取調べ日が不明となっている記述があるなど、杜撰な捜査過程であることは明らかだった。

県警が鹿児島地検に事件送致するのは、告訴状受理からから1年半も経った2023年6月9日。それも、国会で立憲民主党の塩村文夏参議院議員が警察庁に対し、事件の問題点を追及したことを受けての対応だった。

■見限られた県警 事件は民事法廷へ
告訴状の受け取り拒否―。遅々として進まぬ県警の捜査―。性被害に苦しむ女性は23年5月、やる気のない警察の対応に見切りをつけ主戦場は民事の法廷だと確信、医師会元職員の男性に損害賠償を求めて鹿児島地方裁判所に提訴する。
一方、原告女性とその雇用主の前で不同意性交を認めながら態度を一変させた被告男性は、損害賠償訴訟を提起されたあと、「合意に基づく性行為」であったことを印象づけようと、今年1月の法廷における尋問まで同じ主張を繰り返すことになる。男性側の“言い訳”は次稿に示すが、裁判の最終段階、女性の代理人弁護士が被告男性の“ウソ”を証明する確たる証拠を提出。今年1月の法廷で、男性が追い込まれる事態となる。
(中願寺純則)

























