先月25日夜に鹿児島県指宿市内で起きた現職市議によるタクシー運転手暴行事件を巡り、鹿児島県警指宿署の「怠慢」とも取れる対応に、市民から疑問の声が上がっている。
■暴行・傷害事件を事実上の放置
顔を数十発も殴られた被害者男性は11月15日現在も入院中で、目がかすむなどの症状で、退院の目途さえ立っていない。指宿署は事件当夜、流血し手当を受けたばかりの男性を署まで連れ出し、1時間以上にわたって事情聴取。一方、加害者の市議にも事情を聴きに行ったが、酔っていたため聴取できなかったという。「普通ならば身柄を取る事案」(元鹿児島県警刑事)と指摘する声もあるが、指宿署は20日以上たった現在も事件処理を行っていない。
市議は暴行事件の責任を取るとして28日に議員辞職したが、10月31日の衆院選投開票日に地元の投票所入り口で夫婦で立ち、投票に来た有権者に頭を下げるという非常識な行動をとっていた。来年2月6日に投開票が予定される市議選への出馬を見越しての活動との見方が出ている。地元の会社役員男性(63)は「警察がしっかり事件化しないから選挙運動まがいの行動ができる」と憤る。元市議が警察から警告を受けたという情報が寄せられたが、ハンターの取材に指宿署は「捜査しているかどうかも含めコメントできない」と言う。
事件対応に疑問の多い同署だが、今回同様に「怠慢」が指摘されるケースは過去にもあった。ハンターは2018年11月、鹿児島県指宿市の豊留悦男市長陣営に公職選挙法違反の疑いがあることを報じた。同年2月の市長選で選挙事務所において「炊き出し」を提供したというもので、その後も違法性があるとみられる地熱発電業者側からの資金提供問題を掘り起こした。
地熱発電の関係者が、豊留市長を支援する政治団体「いぶすきを豊(ゆたか)にする会」の代表者に、選挙期間中に10万円、投開票後に10万円の計20万円を献金したという事案。選挙期間中の10万円については、「いぶすきを豊(ゆたか)にする会として受け取った」とした上で、代表者自身が受け取りの事実を認めていた。しかし、「いぶすきを豊(ゆたか)にする会」が解散に伴い鹿児島県選挙管理委員会に提出した政治資金収支報告書には、該当する寄附の記載はなく、市長の選挙運動費用収支報告書にも該当する寄附の記載はなかった。明かに違法性が疑われる問題だったが、指宿署が捜査した形跡はない。
■市長の選挙違反もスルー
豊留市長は規範意識が薄いのか、2019年4月の鹿児島県議選では、指宿市区(定数1)に立候補した無所属新人候補を応援するため、選挙カーとは異なる車の拡声器を使い街頭演説を行っていた。公職選挙法は、選挙期間中に立候補者が使用するものを除く“街頭宣伝車”や“拡声器”による選挙運動を禁じており、市長の行為は明らかに違法。この様子を目撃した市民が当日、公選法に抵触するとして指宿署に通報したというが、市長は何の処罰も受けていない。警察がスルーしたということだ。
県議選から2か月後の指宿市議会6月定例会の一般質問でこの件が質疑され、豊留市長は事実確認を求めた市議に対し「その通り」と選挙カー以外での街頭演説の事実を認めている。「公職選挙法に触れるような行為ではないという認識の下でやった」と強弁したが、市長を追及した市議がいみじくも言う。
「知らなかったとか、勘違いだったとかいう後付けの言い訳で、違法行為が免罪されるのか。通報を受けた警察は何をやっていたのか!」
指宿在住の50代主婦は、警察の姿勢に疑問を投げかける。
「警察は、市長や市長派の市議に忖度して、本来なら立件すべき問題を、わざと逃がしているのではないですか?そうとしか思えない。普通の市民なら警察署に引っ張っていかれるはずの犯罪行為が、こうも次々と見逃されるのはおかしいでしょう。暴行を受けたタクシーの運転手さんの入院先の病院には、事件直後に市長が来ていたそうです。市長が事件に介入したんですよね。警察が動かないのは、そのせいとしか思えない。税金泥棒なら、ないほうがまし」
ちなみに、現職市長による違法な街頭演説問題については今月、鹿児島県内に住む男性が、明白な公選法違反に当たるとして鹿児島地検に告発状を提出している。その男性の話。
「例えば、一方通行違反で摘発され、警察官に対し『知らなかった』と言えば許してもらえるのか。法を犯せば処罰されるのが法治国家であり、我々市民は法を犯さないように注意して生活している。市長は市民の代表であり、最も規範意識が求められる存在だろう。その市長自らが法を犯しても、そのつもりはなかったといえば許される世の中でいいわけがない」
ところで、豊留市政は看板の「地熱発電事業」がとん挫するなど失政続き。今年7月には約7千万円を投じた温泉掘削工事で、温泉が出ないという失態を演じている。この件については、近く詳しい内容を報じる予定だ。