腐臭漂う鹿児島教育界|無視される「いじめ防止対策推進法」や「重大事態ガイドライン」

令和元年に鹿児島市立伊敷中学校で起きた“いじめ”が、いじめ防止対策推進法が定めた「重大事態」にあたるかどうかを検証していた鹿児島市教育委員会の第三者委員会(正式名称:鹿児島市いじめ問題等調査委員会)に、いじめを受けていた生徒の保護者が検証辞退を申し入れた。同法の規定に従って設置された第三者委員会が被害者側から“三くだり半”を突き付けられるのは異例。いじめを受けた子供ではなく、いじめを隠蔽した元伊敷中校長や教師、隠蔽に加担した市教委幹部を守ろうとする鹿児島教育界の腐敗ぶりに、嫌気がさした結果だろう。

「いじめの重大事態」と認められ、市教委第三者委員会で検証作業が進められている案件は9件あるというが、他のいじめ事案の検証過程でも、被害を受けた子供やその保護者を落胆させるような動きが目立っている。

■加害者側が「自宅教えろ」の非常識

危険な“いじめ”にあって子供が大変なけがを負い、県外の学校への転向を余儀なくされた事案の保護者は、最近になって信じられない電話を受けた。

電話をかけてきたのは、加害者側の弁護士を名乗る人物。加害者の母親が「まいっている」として、文書を送りたいから「住所を教えろ」という申し出だった。

電話を受けた母親の子供が受けたいじめは、上半身を力いっぱい揺すられ、頚椎に大変なダメージを負うという「暴行被害」。暴行現場を教員が見ていたことで発覚したが、刑事事件が妥当なケースであり、恐怖にかられた被害者とその家族は県外の学校に転校する道を選んでいた。

伊敷中のいじめが隠蔽されていたことを報じたハンターの記事がきっかけとなり、被害者家族が「重大事態ではなかったのか」と申し出たため第三者委員会での検証対象となったが、結論がいつ出るのか定かではないという。

「いじめた子供が素直に謝ってくれれば、それだけでうちの子供は救われる」――そう考えていた被害者の保護者は、いじめた元クラスメートとその親に謝罪を求めたが、先方の母親は事実上の拒否。加害生徒は「会って謝りたい」と打ちあけてくれたというが、いじめや暴行を認めようとしない親の態度に呆れていたところに、前述した「弁護士」からの電話だった。

暴行被害にあって県外への避難を余儀なくされた家庭に、加害者側が「住所を教えろ」という非常識。電話してきたのが本当に弁護士だったのかどうか判然としないが、被害者側の心情を無視した動きは到底理解できない。

弁護士を名乗る人物からの電話を受けた被害者の保護者は、ショックを受けて寝込んだといい、その後も恐怖におびえる毎日を過ごしている。
「なぜ被害者である私たちが、加害者の弁護士に、隠している住所を教えなければならないんでしょうか。うちの子供が暴行を受けている現場は、学校の先生が見ているんです。いじめは争いようのない事実で、重大事態として認定もされています。“謝ってもらいたい”と伝えたことで、『こっちの方がまいっている』などと言われるなんて信じられない。弁護士さんというのは、依頼を受ければ被害者の心情など無視して相手を威嚇するものなのでしょうか?」

■「いじめで転校」―重大事態のはずが・・・

別のいじめの被害者家族であるAさんは、第三者委員会のメンバーから、耳を疑うような言葉を聞かされている。第三者委の検討対象となった自分の子供に対するいじめについてやり取りしていた際のこと、ある委員がAさんに申し向けたのは「病院の診断書が出ても、(あなたの子供さんのケースは)重大事態にはならない」という無情な一言。聞かされたAさんは、息が詰まりそうになったという。

何のための検証なのか?どのようなケースなら「重大事態」になるのか?呆れたAさんの問いかけを受けた委員が発したのは、「例えば、転校したとか」という答えだった。

では、被害生徒が転校を余儀なくされた令和元年に起きた伊敷中のいじめは、何か月も経っているのに、なぜ「重大事態」になっていないのか?伊敷中の被害者家族と交流を持つようになっていたAさんが、市教委だけでなく、第三者委員会にも強い不信感を抱くようになったのは言うまでもない。

■守られぬ「ガイドライン」

いじめにあった子供たちの保護者が一様に訴えているのは、文部科学省が平成29年に策定した「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)が守られていないということ。ガイドラインは、いじめ防止対策推進法の施行後も、学校や教育委員会が、いじめの重大事態への不適切な対応を繰り返していることを受けて作成されたものだ。いじめを受けた子供に学校や教育委員会が二次被害を与えたり、保護者等に対して大きな不信を与えたりした事案が多発したという背景がある。

そのガイドラインは、いじめの重大事態に関する『学校の設置者及び学校の基本的姿勢』について、次のように規定している。

・学校の設置者及び学校は、いじめを受けた児童生徒やその保護者(以下「被害児童生徒・保護者」という。)のいじめの事実関係を明らかにしたい、何があったのかを知りたいという切実な思いを理解し、対応に当たること。

学校の設置者及び学校として、自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し、被害児童生徒・保護者に対して調査の結果について適切に説明を行うこと

・学校の設置者及び学校は、詳細な調査を行わなければ、事案の全容は分からないということを第一に認識し、軽々に「いじめはなかった」、「学校に責任はない」という判断をしないこと状況を把握できていない中で断片的な情報を発信すると、それが一人歩きしてしまうことに注意すること。また、被害者である児童生徒やその家庭に問題があったと発言するなど、被害児童生徒・保護者の心情を害することは厳に慎むこと

これまでの鹿児島市教委や第三者委員会の対応を見る限り、ガイドラインは無視されているも同然だ。例えば伊敷中のケースをはじめハンターが報じてきた3件のいじめは、いずれもいじめが解決せず「転校」「転学」を余儀なくされたという事例だったが、市教委に残されていた「いじめの実態報告」では、どの事案も「いじめが解消」したことになっていた。

虚偽報告だったことは明らかなのに、市教委や学校側は、いじめの被害者や保護者に説明や謝罪を行っていない。「自らの対応にたとえ不都合なことがあったとしても、全てを明らかにして自らの対応を真摯に見つめ直し、被害児童生徒・保護者に対して調査の結果について適切に説明を行うこと」という項目は、これっぽっちも実践されていないのだ。「被害児童生徒・保護者の心情を害すること」甚だしい、というのが現状だろう。

次に『重大事態の定義』については、こう記されている。

・いじめの重大事態の定義は「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」、「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」とされている。改めて、重大事態は、事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、「疑い」が生じた段階で調査を開始しなければならないことを認識すること。

・重大事態については、いじめが早期に解決しなかったことにより、被害が深刻化した結果であるケースが多い。したがって、「疑い」が生じてもなお、学校が速やかに対応しなければ、いじめの行為がより一層エスカレートし、被害が更に深刻化する可能性がある。最悪の場合、取り返しのつかない事態に発展することも想定されるため、学校の設置者及び学校は、重大事態への対応の重要性を改めて認識すること。

だが、いじめの発生と同時に重大事態を申し立てたケースでさえも、「いじめは解消」として処理され、報道によって問題が表面化してから市教委があわてて第三者委員会を設置したというのが実情だ。「『疑い』が生じてもなお、学校が速やかに対応しなければ、いじめの行為がより一層エスカレートし、被害が更に深刻化」したのが、転校・転学を余儀なくされた3件のケースだった。

重ねて述べるが、鹿児島市では「いじめの重大事態に関する調査のガイドライン」は一切守られておらず、いじめの被害にあった子供や保護者ではなく、保身に走った学校側や市教委の都合に合わせた調査しか行われていない。その象徴が、伊敷中のいじめ事案なのである。

最初にいじめの隠ぺいが発覚した伊敷中は、鹿児島大学教育学部の代用附属という格式の高い学校。さらに、“いじめの隠蔽”を行ったとみられる令和元年当時の寺園伸二校長は県教委の次長を務めていた人物で、元担任も鹿児島教育界のエリート教師だという。同校のいじめが、隠蔽発覚から9か月経ったいまも「重大事態」して認められていないのは、伊敷中の関係者と隠蔽に加担した市教委が「重大事態」の認定に抵抗しているからに他なるまい。鹿児島の教育界は、いじめ防止対策推進法やガイドラインが、子供のために制定されたのだということを再認識すべきだ。

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