政治家の「覚悟」~山崎拓元自民党副総裁に聞く~

付き合いの度合いは別として、山崎拓という政治家を認識してから30年近くになる。
山崎氏は、旧中曽根派内で頭角を現してから、内閣官房副長官を皮切りに防衛庁長官や建設大臣を歴任。自民党内では平成13年に幹事長、15年には副総裁にまで上り詰めた。
平成10年には政策集団「近未来政治研究会」を結成し会長に就任。以来「山崎派」の領袖として党内に一定の影響力を保持し続けている。
筆者はこの間、ある時は政治の現場で、またある時は記者として山崎氏の動きを見続けてきた。
山崎氏が毀誉褒貶の激しい政治家であったことは確かだが、いま、残り少なくなったベテラン党人派の中で、その去就が最も注目される存在となっている。
謦咳に接したのは初めてと言っても良かろうが、今月中旬、福岡市内で取材に応じた山崎元副総裁の政治にかける「覚悟」は、若い議員のそれとは比較にならないほど確固たるものだった。

なぜ山崎拓氏か
山崎氏に話を聞きたくなったのには理由がある。
格差社会を生んだのは紛れもなく小泉純一郎元首相だったが、在任中は高い支持率を保ち、郵政選挙で大勝したあとも、数年間は熱が冷めることはなかった。

ところが、平成21年夏の総選挙で圧勝し、政権交代を果たした民主党への期待が怒りへと変わるのに、さほど時間はかからなかった。マニフェスト放棄、党内のゴタゴタ、コロコロ変わる首相。言行不一致を絵に描いたような民主党の姿勢に、支持が集まるわけがない。
鳩山、菅は罵声を浴びて政権を投げ出し、野田現首相は希代の詐欺師であることを露呈した。財務省のパシリと言われる安住財務相に代表されるように、官僚依存の政権体質には呆れるばかりだ。
もはや民主党一党にこの国の舵取りを任せようという有権者は皆無に近いだろう。

一方、野党第一党の自民党も、解散を迫りながらも消費増税に賛成して、「国土強靭化」のために200兆円などとはしゃぐ始末。票とカネのために国民の税金を搾り取るという発想は、野党になっても変わっていない。政権を奪われた原因が分かっていないのだろうが、これでは民主党以上にタチが悪いと言っても過言ではあるまい。

若い政治家の見識のなさ、レベルの低さに加え、国家・国民のためと言いながら、選挙のことしか考えない各党の政治家たち・・・。政治家から威厳が失われて久しいが、あまりのお粗末さに辟易していたのは事実だ。

もはや現職の政治家に期待を持つのは無理だとあきらめていたが、前回総選挙で一敗地にまみれながらも、なお議席奪回に執念を燃やすベテラン政治家に、ふと興味が湧いた。
日ごろ、政治家の悪行を暴いてばかりいるHUNTERだが、山崎氏を支えているのは何か?なぜ議席にこだわるのか?どうしても話を聞いてみたくなったというわけだ。

山崎氏を取り巻く状況
戦後の政治史の中では極めて稀なことだと思われるが、福岡県には自民党の派閥領袖が3人もいる。
麻生太郎元首相(麻生派「為公会」)、古賀誠元幹事長(古賀派「宏池会」、そして山崎拓元副総裁(山崎派「近未来政治研究会」)である。

山崎氏の地盤が県都である福岡市であったことの意味は大きく、県政界をはじめ財界にまで大きな影響力を有してきたのは事実だ。
反面、都市型選挙区(現在は福岡2区)であるため有権者の出入りが激しく、選挙結果が時々の“風”に左右されるという苦労にも苛まれてきた。その結果が、平成15年と21年の総選挙における落選である。

福岡藩・黒田52万石の藩校を前身とする修猷館高校を卒業。早稲田大学から会社員を経て県議、衆院議員と階段を上り、政権政党のナンバー2から総理・総裁を狙う位置までたどり着きながら、落下傘候補(民主・稲富修二衆院議員)に敗れた山崎氏の悔しさは察するに余りある。

ちなみに、前回総選挙で山崎氏を破った稲富議員は、初当選後、平成19年4月の福岡県知事選で政党交付金を原資とする約1,900万円の選挙余剰金が使途不明になっていることが判明し釈明会見に追い込まれるなど、政治資金がらみのスキャンダルが絶えない。
一連の金銭疑惑を取材していた当時、稲富氏本人に、「あなたに政治家の資格はない」と言ったことがあるが、この3年間の彼の活動を見ていて、間違いではなかったことを確信した次第である。

閑話休題。普通なら“引退”という道を選択してもおかしくなかった山崎氏だが、様々な声の中、次期衆院選への出馬を明言している。
多忙と聞いていたが、取材要請には快く応じてくれた。以下、山崎氏とのやり取りを中心に稿を進める。

山崎氏の「覚悟」
政権交代後の3年間、この国の政治状況は激しく動いてきた。出馬への意思は揺るがなかったのだろうか?そのあたりから話を聞いた。
山崎:派閥のこともありますが、政治家としてやり遂げなければならないことが数多く残っています。もちろん、これ以上民主党に日本を任せるわけにはいかないという危機感も強い。引退を考えたことは一度もないですね。

山崎氏と話して一番驚いたのは、呆れるほどざっくばらんだったことだ。こちらの質問には淀みなく答える上、終始笑顔。困らせるような問いにも躊躇することなく言葉を発する。いまだに引退を勧める人たちも少なくないのでは、と聞いてみた。
山崎:私のことを心配してくれているんですよ。ありがたいと思っています。しかし、政治家がやると言った以上、逃げてはいけないと思っています。

後継者に指名しろとうるさく言ってくる地方議員がいるはずで、名前が取り沙汰される数人は「帯に短し」と言うしかない。自分を過信しているのか勘違いなのか分からない人もいるが、と水を向けてみた。
山崎:それぞれに長所がありますよ。後継指名を、と名乗り出た人がいるのは事実ですが、今度の総選挙は引くわけにいかない。先ほども話したとおり、『やる』と言った以上、この段階で後継がどうのという話をするわけにはいかないでしょう。もう走り出しているんですから。

永田町や地元福岡もが最も注目しているのは、山崎氏の去就である。今国会中に解散がなければ引退するとの話は本当なのか、核心の質問をぶつけてみた。
山崎:9月7日解散、10月7日投・開票ということで選挙に向けての動きを粛々と進めています。事務所予定地もメドがつきかけていますし、このまま選挙に向けて走るだけです。それ以外のことは何も考えていない。ただ、今国会中の解散がなければ進退を考えるということを言ったことも事実ですから、そうなったら、真剣に現実と向き合わなければなりません。政治には流れというものがありますからね。

これが一番聞きたかったことなのだが、現職に返り咲くという決意は何を目的としたものなのか。単刀直入に聞いてみた。
山崎:昨年の3月11日に東日本大震災が発生しました。そして福島第一原発の事故。原発の怖さを思い知らされたわけですが、北朝鮮による核開発も日本への大きな脅威であることは疑う余地がないでしょう。核爆弾の恐ろしさは一発で数十万人の人を死に追いやることです。しかし、北朝鮮はこの選択肢を捨てようとしない。
じつは、先ほどの質問に対する答えにも関係するんですが、私には北朝鮮の核開発を止めさせる責任があると思っています。というのは、中曽根内閣の官房副長官時代からずっとこの問題に関わってきたという経緯があるんですね。北の暴走を止めるのは、今を生きる政治家の義務です。北の脅威をなくして次の世代に平和な世の中をバトンタッチしたい。これは私の信念でもあり、政治家であり続けることを支えてくれる理想なんです。だから現職に復帰しなければならない。そのためなら、どんな批判を受けようと甘んじて受け止めていきますよ。

山崎氏が一番長く語ったのがこのくだりだったが、それまで柔和だった顔が引き締まったのが印象的だった。「覚悟」を持った政治家は強い。一瞬、気圧されるほどの迫力を感じたのは事実だ。私利私欲を超越したということだろう。
山崎氏との話は、政局から党首会談の裏話、選挙区内の出来事や数十年前の永田町のことまで多岐にわたったが、強く感じたのは星霜を経た政治家の“重み”、そして経験に裏打ちされた政策実現への説得力である。いずれも口先だけの若い議員には求めることがかなわぬものである。

政治家を選ぶ基準に、若さや見てくれを重視するのは間違いである。口が達者というのもいけない。若さを選んだ結果が現在の日本であることを考えると、この主張に納得する人は少なくないだろう。
政治家にとって必要なのは、見識や経験、そして何より大切なのが身を捨てて国民のために尽くす「覚悟」である。

山崎拓氏、75歳。この政治家の「覚悟」に、自分の一票をかけてもいいと思った。

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