決まらぬ後継会長|不透明な安倍派の先行き

狙撃事件で亡くなった安倍晋三元首相の一周忌にあたり、事件現場の近鉄西大寺駅前には献花台が設置され、朝から多くの人が手を合わせた。

殺人容疑などで逮捕された山上徹也被告は、旧統一教会(現在の世界平和統一家庭連合)に母親が多額の献金をしたため一家が崩壊したと供述。旧統一教会にビデオメッセージを贈るなど、親しい関係あった安倍元首相を狙ったと動機を語っている。

裁判ははじまっておらず真相解明には至っていないが、長年にわたって旧統一教会とどっぷりの関係だった自民党や安倍元首相への「恨み」が、事件への引き金になったことは間違いない。そうした中、領袖を失った「安部派」が、後継会長選びで迷走を続けている。

◇   ◇   ◇

「安倍元首相を失ったことは、あまりに大きすぎる。うちはまったく展望が開けない」と話すのは、安倍派の衆議院議員だ。安倍元首相がこの世を去ってから迷走が続く安倍派。岸田文雄政権下で萩生田光一氏や、松野博一氏がそれぞれ政調会長や官房長官といった主要ポストは押さえているが、派閥の新会長が決まりそうな気配はない。

当初は、6月に予定されていた安倍派のパーティーまでに新会長を、という声が高まっていたがお披露目はなかった。

パーティー当日、安倍派の「ドン」である森喜朗元首相が途中退席するなど、一致結束とはいかないお家事情も垣間見えた。

「一周忌までになんとか新会長を、ダメなら直後の会合で決めようという意見がかなり出た。しかし、5人も候補がいて、まとまる気配はまったくない」(前出・安倍派の衆議院議員)

森元首相が「安倍派5人衆」と名付けたのは、萩生田氏と松野氏に加えて、西村康稔経産相、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長。安倍派は、塩谷立氏と下村博文氏が会長代理としてたばねている。ある自民党の大臣経験者は。こう指摘する。
「要は、トップになりたい船頭が、5人衆に加えて会長代理の2人まで入れて7人もいる。だが、いずれのも実績も格、トップとしては不足。派閥のトップとは総裁候補であるべきだが、7人の中で幹事長や財務相、外相といった重要ポストの経験者は誰もいない。安倍元総理の存在があまりに大きすぎたこと、後継者を育ててこなかったことが、よけいに混乱を招いている」

そこで浮上しているのが「5人衆」による集団指導体制なのだが、5人が横並びになって何を指導していくのか、どう派閥を引っ張っていくのか、まるで分らない。

安倍派の「会長」と「総裁候補」を分けるという「分離論」。「会長」候補には萩生田氏か世耕氏、「総裁」候補には西村氏という意見があったが、まとまる気配はない。派閥はトップを総裁にすることが最大の目標だからだ。総裁候補になりえない人物が派閥のトップというのでは、示しがつくまい。かくして森喜朗元首相の発言力が増し、「森一強」と揶揄される状況となっている。

そんな安倍派の状況を見て、ほくそ笑むのが岸田首相だ。安倍派は100人を超すダントツの最大派閥。同派の会長が決まれば、その人物は総裁選に出馬してくる。つまり岸田首相の座が危うくなる。岸田派のある国会議員が苦笑交じりに語る。
「安倍派の会長が永遠に決まらず、集団指導体制でやってくれることを最も歓迎しているのが岸田首相。森一強、バンザイですよ」

岸田首相は、8月下旬から9月上旬とされる内閣改造、党役員人事でも安倍派に揺さぶりをかけるとみられている。最大の注目は、茂木敏充幹事長の去就。岸田首相の「後」を狙う茂木氏だが、次期総選挙を巡って公明党と対立。公明が東京小選挙区で自民党候補を推薦しないと表明したことで両党の関係がこじれており、責任者の茂木氏は「幹事長失格」の烙印を押されている。その点について、茂木派の国会議員が反論する。
「幹事長失格なんて、誰も思っていませんよ。茂木さんは岸田総理より年長。来年9月に予定される自民党総裁選には絶対出るでしょう。茂木派を率いているので推薦人には困ることはありません。総理は、茂木さんが自由に動けないように幹事長を交代させ閣内にとどめる人事を目論んでいるのではないでしょうか。その場合、茂木さんの格からすれば財務相か外相しかないですね。茂木さんはすでに外相を一度務めていますが、新型コロナウイルスの感染拡大で海外に出ることができなかった。外相をもう一度という思いが茂木さんにはあるようです」

茂木氏が入閣すれば幹事長の椅子が空く。そこに誰を就けるのか――。仮に安倍派がその座を射止めるとすれば、同派の次の新会長争いにつながるとの見方がある。

その場合、幹事長争いから真っ先に外されるのは参議院議員の世耕氏と「パンツ泥棒」の異名がついて回る高木氏だろう。残る3人の中で、最有力視されるのが岸田首相と親しい萩生田氏である。

「総裁の座を勝ち取った岸田総理が人事について誰を起用するか相談したのが萩生田。岸田首相はアドバイスに従って、当初は相手にしていなかった西村氏を経産相にすえた。安倍派から幹事長となれば萩生田ということになるだろう。対抗の松野は閣内に入れれば恰好がつく。萩生田が安倍派の新会長なら岸田総理も話がしやすい。次の総裁選を安倍派で応援してくれれば将来的には譲る、などという具合に裏で『にぎりやすい』ことになる。萩生田は安倍元総理と同様に、旧統一教会と深い関係にあるのは周知の事実。旧統一教会の解散請求も出ている中で総理・総裁になるには、それなりの時間が必要だ。すぐに岸田総理の対抗馬に化けることはないだろう」(前出・大臣経験者)

だが、最大派閥ゆえ分裂した過去もある安倍派。もとは安倍元首相の父、安倍晋太郎氏と福田赳夫元首相の2つのグループでしのぎを削っていた。今も「安倍系」と「福田系」で色分けする派閥の議員もいる。「正直、次の内閣改造や党人事いかんでは分裂の可能性もある」(安倍派の衆議院議員)。安倍元首相が亡くなって1年、安倍派の先行きは不透明だ。

 

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