山口県政界に銃撃事件の波紋

6月16日に公表された衆議院の小選挙区の新たな区割り改定案「10増10減」。調整に困難が伴うのは言うまでもないが、二階俊博自民党前幹事長の地元・和歌山と並んでもめるとみられていた山口県の状況が、安倍晋三元総理の命を奪った銃撃事件のせいで大きく変わる可能性が出てきた。

◇   ◇   ◇

山口には、安倍元首相や林芳正外相、岸信夫防衛相ら重鎮クラスがひしめきあってきた。これまで小選挙区は4つだったが、1つ削減され3となる。「また、安倍家と林家の対立がはじまるのか」とこぼしていた自民党の地元議員らも、区割りの先行きに不安を隠せない。新しい区割り案では、安倍氏の地盤だった現在の山口4区と林氏の山口3区が、一つに集約されるような恰好で新しい山口3区になっているからだ。つまり、どちらかが離れなければならなかった。

安倍家と林家、どちらも下関市が一番の地盤だ。だが、中選挙区から小選挙区になった際、安倍家が下関市を中心とする山口4区を得、林家の先代である林義郎元大蔵大臣が比例中国ブロックにまわった経緯がある。芳正氏に代替わりしてからは衆院比例から参議院山口選挙区に。そして昨年10月の総選挙、総理総裁を目指すと公言している芳正氏は、衆院山口3区にくら替えし大勝していた。

今回の区割り案では、現在、林氏の地盤である山口3区内の宇部市などが新しい山口1区に編入される予定。そこで、林氏が新しい1区にお国替えして安倍氏が3区ならスムーズに話が進むでのはないかと地元や永田町はみていた。

「しかし、そう簡単に収まる話ではなかった」として、3区内の自民党県議会議員が解説する。
「安倍元総理も林さんも、牙城である下関は譲れない。安倍元総理はこれまで通り、下関を死守して手放さないはずでした。林さんは、逆に今回こそ下関を返してもらうんだと鼻息も荒かった。そうなると3区の奪い合いです。林陣営には『安倍氏と新しい3区で勝負しても勝ち目がある』として、保守分裂を主張する地方議員や林派の市長がいたほどです」

今回の参院選で、山口選挙区からは自民党前職の江島潔氏、立憲民主党から安倍元総理の元秘書・秋山賢治氏が立候補した他、国民民主党から大内一也氏、共産党からは吉田達彦氏らが出馬してしのぎを削った。当選した江島氏は、安倍元総理が会長の安倍派=清和会の所属。参議院議員の前は、安倍元総理のバックアップで下関市長を4期務めた人物だ。そうした背景もあり、今回の選挙中、安倍元総理は江島氏の応援に秘書らに、山口県内をくまなく回らせていたという。熾烈を極めてきた山口の政争について、ある自民党幹部がこう話す。
「安部陣営は、『新しい3区は安倍でお願いします』と、サバイバル競争に打ち勝つために躍起でした。林氏は岸田文雄首相のサミットに同行せず、国際会議もオンライン出席。ロシアのウクライナ侵攻があって安倍さんのように自由が利かない立場でしたが、昨年の総選挙で地元の首長や有力者をかなり味方に引き込んでおり自信を深めています。参議院の選挙でしたが、安倍、林両陣営とも衆院選同様の戦闘モードだったんです。先が読めない状況でしたが、元総理が亡くなったことで、どうなっていくのか……」

林氏がすんなり新3区の支部長になれるかどうかは安倍陣営の動き次第だ。安倍陣営が「林はダメだ」と別の候補をたててくれば、どうなるか分からない。仮に林氏が3区をあきらめて1区に回るとしても、1区には現職の高村正大氏がいる。高村氏の父親は、外相、法相、自民党副総裁などを歴任した大御所・高村正彦氏。こちらも、「はいどうぞ」と選挙区を譲り渡すわけにはいかない。

山口県は、安倍元総理や林氏、高村氏の父、岸氏など数々の大物を輩出してきた。しかし、安倍氏が8年も首相を務め、林氏や岸氏、高村正彦氏が何度閣僚入りしても、山口県の人口は一向に増えていない。実は発展していないという実態が、そこにある。

「いくら大物議員がいても、地元が衰退じゃあ1減もしょうがない。この現状は、いくら騒いでもどうにもなりません。安倍さんが亡くなったことで選挙区調整が楽になったかというと、そうとも言えない。安倍家の動向次第でしょう。最後は党本部が判断するしかない」(前出・自民党幹部)。

 

この記事をSNSでシェアする

関連記事

注目したい記事

  1. 「来てもらうとますます票が減りそうだ」と嘆いていたのは、自民党の島根県議。岸田文雄首相が21日、衆議…
  2. 北海道警察の方面本部で監察官室長を務める警察官が泥酔して110番通報される騒ぎがあった。監察官室は職…
  3. 裏金事件で責任を問われて派閥を解散し、3月に政界引退を発表した二階俊博元幹事長の後継問題に大きな動き…
  4.  三つの衆議院補欠選挙がはじまった。最も注目されるのは東京15区。柿沢未途氏の公職選挙法違反事件を受…
  5. 二階俊博元自民党幹事長の「政界引退」記者会見から約1か月。同氏の地元である和歌山県にさらなる激震だ。…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る