戦後の日本を蝕んできたのは“政・官・業” の癒着である。政治家と業者が票とカネで結びつき、役人は政治家の言うことをきくフリをして恩を売り、それぞれが我が世の春を謳歌してきた。「鉄の三角形」とも称される、汚れた国家構造だ。
政官業のうち、「業」は主に土建屋。残念なことに、悪事を働く土建業者の中には暴力団のフロントや親交者が数多く含まれている。
指定暴力団の数が日本一の福岡県では近年、暴力団との関係が明るみに出て、事業停止や社名変更を余儀なくされるケースが続出。そうしたマル暴企業が、地域社会にしっかりと根を張り、たくさんの公共事業を請負っている現実に驚かされることが少なくない。
問題は、暴力団を背景にした土建屋と政治家が、公然と親密な関係を築いていること。自民党とヤクザのつながりが垣間見える“事件”が相次ぐ、福岡県の現状をまとめた。
■菅首相とマル暴企業の接点
今年5月、福岡県久留米市の土木工事業「滉王(ひろたか)」の代表者らが、建設業法違反(虚偽申請)容疑で福岡県警に逮捕された。6月には、県警が滉王の役員を暴力団親交者と認定し県内の自治体に通告したことで、同社は事業停止に追い込まれている。
永田町関係者の間で滉王が注目を集めたのは、安倍晋三の突然の退陣を受け、官房長官だった菅義偉が新総理に就任してからのこと。暴力団との関係が明らかとなった滉王の関係者が、菅首相と親しい“永田町のタニマチ”だったことが分かったからだ。
滉王が2018年に久留米市内で開いた忘年会に「特別ゲスト」として出席していた、民間のシンクタンク「大樹総研」の矢島義也(本名:義成)会長である。忘年会には大樹総研の社長と矢島会長が出席。社長が乾杯の発声をし、矢島氏が閉会の挨拶を行っていた。下がその時の式次第だが、矢島会長が滉王の「顧問」に就任していたことが分かる。
大樹総研の創設は2007年(平成19年)。資産家の矢島氏が、静岡で昔からの友人関係にあった鈴木康友氏(元民主党衆院議員。現・浜松市長)が選挙に落選して浪人中だったため、同じように落選して充電中の政治家が、しっかり勉強できるようなシンクタンクを作ろうということで立ち上げた組織だ。設立時のこうした経緯から、旧民主党の政治家たちとの関係が深い。
設立当初は、鈴木のSと矢島のYで「S&Y総研」。日銀を辞めて政界に転じ、落選した経験のある池田健三郎氏(2000年に石川3区から民主党公認で出馬し落選。2003年には神奈川県大和市長選挙に出馬し落選)が2009年に入社したことで飛躍のきっかけをつかみ、熊谷弘元通産相、山口敏夫元労相など矢島氏の父親とつながりのあった政治家との縁で永田町や霞が関へと人脈を広げたという。
2010年頃には政治・経済がらみの発言や著述で活躍していた徳川宗家19代・徳川家広氏と接点が生まれ、同氏が大樹総研の役員に就任(その後退任)。社名を徳川宗家のことを表す「大樹」と変更したのはその頃だ。
矢島氏本人は高卒だが、スタッフには東大卒の財務省キャリア官僚出身者から元法務大臣、辣腕弁護士まで一流ブランドをそろえるようになる。ちなみに、かつて客員研究員として名を連ねていた若田部昌澄氏は、現在の日銀副総裁である。
矢島氏と友人関係にあった野田佳彦氏が総理になるや、さらに人脈が拡大。政策立案や選挙対策で評価を上げ、さらには政局における縁の下の力持ち的存在として知られるようになる。
■存在感増すフィクサー・矢島義也氏
一部の関係者だけが知る存在だった大樹総研が注目されるようになったきっかけは、2017年10月に行われた総選挙の際、細野豪志衆議院議員に渡ったとされる5,000万円の裏金問題。裏金を提供したとされる「JC証券」の親会社「JCサービス」と、細野氏への資金提供を斡旋したとみられていた大樹総研が、東京地検特捜部の捜査対象となり関係先の家宅捜索が行われてからだ。立件は見送られた模様だが、細野氏はその後、矢島氏が親しいとされる二階俊博自民党幹事長が率いる「志帥会」に入会している。
特捜部の捜査対象となっていた大樹総研の矢島氏は、今年になって大物ぶりを見せつける。菅首相は、地銀再編の仕掛人であるインターネット金融大手SBIホールディングスの北尾吉孝社長と昵懇の仲だといわれているが、両人を引き合わせたのが誰あろう矢島氏。マル暴企業「滉王」の顧問だった矢島氏が、国の金融政策に影響力を及ぼした格好だ。
フィクサーとしての存在感を増す矢島氏と関係を深める菅政権――。危険な臭いがつきまとっているのは確かだ。
(以下、次稿)