永田町でスキャンダルをまき散らしてきた元衆議院議員の後藤田正純氏が今月6日、今年4月に予定されている徳島県知事選への出馬を表明した。
昨年12月には自民党の三木亨参院議員も出馬の意向を示して同党徳島県連に推薦願を提出しており、保守分裂となることが確定的。しかし、当選5回の現職・飯泉嘉門知事は今も態度未定で、選挙構図は固まっていない。
自民党はこれまで、一貫して飯泉氏支持にまわってきたが、後藤田氏は2019年の知事選でこの方針に逆らい、飯泉氏の対抗馬として県会議員を「刺客」として立候補させた。6日の会見でも「多選の弊害を指摘してきたのは、徳島の政治家で唯一私だけ。県政改革を訴えてきた」と飯泉氏の多選を激しく攻撃。自身のSNSでも《5期多選の知事には、退職金約1億5,000万円が県民の税金から支払われる。ちなみに、国会議員には退職金はない。大阪府知事も退職金を辞退している。徳島がこれ以上ナメなれんよう、県民とともに正々堂々闘います》と綴っている。
「後藤田氏が自民党を割って出馬すれば、阿波戦争の再来ということになるんじゃか」と危惧するのは、自民党の大臣経験者。徳島県の保守陣営は、これまで何度も激しい分裂選挙を経験してきた。語り草になっているのは1970年代から80年代にかけての「戦争」である。
当時、永田町では三木武夫と田中角栄という大物二人が対立。三木氏の地元である徳島に田中氏が「刺客」を立てて、県政史に残る戦いを展開した。後藤田正純氏の大叔父、後藤田正晴元官房長官が三木派の候補と争った「阿波戦争」で、全国的にもクローズアップされた。
地元の自民党関係者が、こう振り返る。
「当時はカネがばらまかれるのが当たり前というような選挙だった。きょう田中陣営からもらうと、2日後には三木陣営からというように、議席のためなら法律など関係がないという時代だった。最初の争いとなった参議院の選挙は三木派が勝利し正晴先生が負けたが、終わってみれば100人を超す双方の支援者が選挙違反で摘発された」
正純氏は会見で、「自民党に推薦の要請は行わない」と述べて“保守分裂ではない”とアピールしたが、額面通りに受け取る人はいない。同氏は、長く石破茂元幹事長を支援をしていたが、2021年の総選挙後に古巣の茂木派に復帰した。茂木派は旧田中派の流れをくむ派閥であり、岸田政権を支える側だ。二階俊博元幹事長が率いる二階派の三木亨参院議員は非主流派。かつての阿波戦争を彷彿とさせる構図となりそうだ。ただし、後藤田・三木の一騎打ちになるのかどうか、ハッキリしない状況になっている。
「三木さんは参議院選挙区の合区で徳島県と高知県が一つになったことから、異例の優遇措置で議席を得た。知事選に出るのは説明がつかない。ただ、出馬するのが三木さんだけなら6期目という多選はさすがにまずいと、飯泉知事は簡単に身を引いていたはずだが、後藤田の参戦で状況が変わってきた」(地元県議)
これまで、飯泉知事を真っ向から批判してきた後藤田氏が相手となれば、知事自身が戦わざるを得ないというのだ。2019年の知事選では、告示直前の記者会見でも、自民党本部からの制止も聞かずに候補を立て、後藤田氏が口頭注意を受けたことについて聞かれると「党としての規律ある行動ということを求めて、出されたと。その規律をしっかりというのはどの組織においても同様のことで、やはりその組織の方針を決めるというときにはね、様々な意見を戦わせると。最終的にはこの時には多数決をとったとお聞きをしておりますので、それが41対1だったということですから」。別の記者会見では、後藤田氏が飯泉氏を「失政」と批判していることについて、「彼自身も政治家なんだから。これはどういう行動をとればいいのか悪いのか。そういった点については、ご本人のご判断。こういうことになるんでね」「ヘイトスピーチに近い部分もある」。後藤田氏の「不倫騒動」には、「やはり、常に政治家として襟を正していく必要があります」と批判を展開していた。
後藤田氏は会見で「すべてをわたしのルーツ、徳島県に捧げたい」と語ったが、後藤田氏は東京の出身。国政を目指すまで徳島とはあまり縁がなかったため「ルーツ」という言葉を使うしかなかったのだ。一方、三木氏は「地元、徳島で生まれ育った者として なんとか立て直したい」と言うように、徳島の生まれ育ち。徳島県議から国政に転身した経歴の持ち主である。ちなみに、飯泉知事は大阪府の出身。旧自治省の官僚として出向したのが徳島県だった。
「後藤田氏はもちろんのこと、三木氏も自民党としては応援できません。飯泉氏が出るというなら考えますが、6期目となると渋い顔をする人もけっこういます。ただ、選挙は4月なので時間はない。官僚を東京から連れてくるわけにはいかないし……。地元では一昨年の徳島市長選で自民党が割れ、後藤田氏自ら『令和の阿波戦争』と言い出しました。NHKがニュースでそう見出しをつけました。もうこちらでは収拾がつかない」と自民党の地元県議は嘆く。こうした状況をさらにややこしくする出来事が出来した。
新たに岸本泰治元自民党県議が知事選への参戦を決めたのだ。同氏は4年前の知事選に立候補して飯泉知事に敗れたが、実はこの時に岸本氏を担いだのが後藤田氏。飯泉氏への刺客として送ったはずの岸本氏が、後藤田氏の正式表明を待っていたかのようなタイミングで手を挙げたのだから、多くの関係者は「後藤田陣営の仲間割れ」と受け止めている。
ある自民党幹部は、ため息交じりにこう話す。
「阿波・徳島の政界は複雑怪奇というしかない。はっきり言ってぐちゃぐちゃ。阿波戦争というフレーズは政治の暗闘を表現するようなイメージでとらえられるから、統一地方選ではマイナスにしかならない。争いが拡大しないように、茂木幹事長と二階さんで事態を収拾してもらうしかない」
令和の阿波戦争がどう展開するのか注目だ。