失効している「米国公認会計士」の資格を市長選の選挙公報や名刺などの印刷物に掲載していたことで経歴詐称の疑いが持たれている鹿児島県指宿市の会社社長・米倉由晋氏の陣営が、政治資金規正法や公職選挙法に抵触する可能性の高い活動を展開し、違法とみられるポスターやのぼり旗を市内各所に掲示していることが分かった。
■市内にあふれる米倉氏のポスターとのぼり旗
任期満了にともなう選挙の場合、その任期が終わる日の6ヶ月前の日から投開票日までの間、選挙区内において公職の候補者または公職の候補者になろうとする者の氏名や氏名が類推されるような記載がある政治活動用ポスターを掲示することが禁止される(*以下、「公職の候補者または公職の候補者になろうとする者」を『立候補予定者』と読み替える)。事前運動を禁止し、選挙の公平性を保つためだ。
例外となるのがいわゆる「2連ポスター」と言われるもの。立候補予定者と別の人物の写真を並べ、面積の3分の1を政党もしくは政治団体のためのスペースとして使用すれば選挙区内での掲示が可能となる。脱法的な宣伝方法だが、政党もしくは政治団体のイベントを告知するための掲示物とみなされ、現行法上はセーフ。ただし、ポスターを作成する政治団体の「規約」に、“本会は○○○○を支援する”などと実名をあげて立候補予定者を支持する旨の記載があれば、掲示物は違法とみなされる。これも「売名」を許さないためだとされる。
下は、米倉陣営の2連ポスターとのぼり旗が林立する指宿市内の様子である。
■県選管も認める違法性
ポスターやのぼり旗は、いずれも「街頭演説会」の告知を目的とする内容で、主催団体は「わくわく指宿を目指す会」となっている。ポスターや旗を作成したのが「わくわく指宿を目指す会」で、当然この団体は総務省か都道府県の選挙管理委員会に「政治団体設立届」と「規約」を提出していなければならない。政治活動のイベント告知だからこそ、立候補予定者の氏名と顔写真の掲載が認められるからだ。当然ながら、任意団体が同様のマネをすれば事前運動(売名)とみなされる。
経歴詐称や運動員買収など、政治家としてのイロハが理解できていないとしか思えない米倉陣営のこと、念のため、鹿児島県選挙管理委員会に「わくわく指宿を目指す会」が提出しているはずの政治団体設立届と規約を開示請求した。規約に米倉氏の氏名を入れているのではないかと考えたからだ。しかし、結果は思いがけないものだった。
選管からの連絡は「政治団体としての届出は出ていません」。少なくとも鹿児島県選挙管理委員会には、「わくわく指宿を目指す会」の設立届は提出されていない。可能性があるとすれば全国団体としての総務省への届出だが、そちらも該当する政治団体は「ない」という回答だった。
米倉氏の資金管理団体「米倉よしゆき後援会」は鹿児島県選管に届けを出しており、「わくわく指宿を目指す会」だけが他の都道府県に政治団体の届出を出すのは不合理。それでもと東京都や周辺県の選管にも確認したが、やはりわくわく指宿を目指す会の届出はなかった。同団体は、無届けで政治活動を行っていることになる。
法律上、まず問題になるのは、わくわく指宿を目指す会が「政治団体」について定義した政治資金規正法第3条の規定に基づく団体か否かという点。これについては、前述したように同団体は政治団体の届出を行っておらず、政治団体としての要件を満たしていない。
そうなると、のぼり旗やポスターを大量に作成・掲示していることから、政治団体の届出をなさずに収入や支出を伴う行為を行ったことになり、《政治団体は、第6条第1項の規定による届出がされた後でなければ、政治活動(選挙運動を含む)のために、いかなる名義をもってするを問わず、寄附を受け、又は支出をすることができない》(同条第8条)という規定に抵触することになる。違反が明らかになれば、《5年以下の禁固または100万円以下の罰金》(第23条)という重い罰則が適用される。
違法な文書図画の掲示は、公職選挙法上もアウト。政治団体としての届出を行っていない任意団体が、公職の候補者になろうとする者の氏名や、氏名が類推される事項を掲載した印刷物等を選挙区内に掲示すれば、「事前運動(売名行為)」に問われる可能性が極めて高い。
13日、鹿児島県選挙委員会に指宿のケースについて現状を説明して見解を求めたところ、一般論としながらも、ハンターの見立てに「間違いありません」と明言。同日、ハンターの関係者が「米倉よしゆき後援会」の公式サイトにある事務所の住所を訪れ、玄関口に出てきた米倉氏本人に「届出の有無」について確認したが、「文書で質問内容を出して下さい」として即答を拒否した。
ちなみに、のぼり旗について言えば、米倉氏本人が自分のために作成されたものであることを自覚していることが、SNSへの投稿から分かっている。下は、数日前のものとみられる米倉氏本人が行ったインスタグラムへの投稿。添付写真の説明文では、「後援会で作って貰った私の大事な旗」となっている。
次が、上掲のインスタ投稿の翌日に、米倉氏本人がフェイスブックに投稿した内容。フェイスブックへの投稿では、作成者を“後援会”から“わくわく指宿を目指す会”に変えているが、「私の大事な旗」という認識は同じままだ。
米倉氏は、こののぼり旗が、県議選を目指す自分のためのグッズであることを自覚しているということだ。まったく同じ記載内容のポスターについても、『米倉よしゆき』自身のための印刷物であることは承知のはず。大量のポスターやのぼり旗の掲示が、売名を目的とするものであることは明らかだろう。
政治団体としての届出を「出している」か「出していない」かという、政治活動上のイロハに関する問いに、その場で答えようとしない米倉氏――。経歴詐称疑惑に対する無反省な姿勢と合わせてみれば、米倉氏に政治家を目指す資格があるとは思えない。