北海道警察、ストーカー事件など未発表|現職警官らの不祥事、なぜか懲戒に到らず

 北海道警察で昨年10月から12月までに記録された職員の不祥事に、刑事事件として捜査の対象となっていた複数の事案が報道発表を免がれていたことがわかった。当事者の警察官らへの制裁は、懲戒処分に到らない「監督上の措置」(訓戒・注意)に留まっていた。

■問われる処分の妥当性

 筆者の公文書開示請求に対して道警が一部開示した公文書によると、昨年10月から同12月までに処分があった不祥事は計20件。いずれも監督上の措置に留まり(訓戒5、注意15)、懲戒処分はゼロだった。このうち事件として捜査の対象となった事案は7件あり、処分日順に列挙すると以下のようになる(各事案名と概要は公文書『監督上の措置一覧』の記述)。

①暴行等事案(他人に暴行を加えるなどした)…10月14日付「警察本部長訓戒」
②異性関係不適切等事案(異性に対し、不適切な言動をするなどした)…10月17日付「方面本部長訓戒」
③異性関係不適切事案(卑わいな行為をした)…11月7日付「方面本部長訓戒」
④信用失墜等事案(不適切な行為をしたことにより、警察の信用を失墜するなどした…11月18日付「所属長注意」
⑤交通事故事案(警察車両を運転中、交通死亡事故を引き起こした)…11月22日付「警察本部長訓戒」
⑥交通違反事案(車両を運転中、速度違反をした)…12月19日付「所属長注意」
⑦暴行事案(家族に暴行をした)…12月27日付「所属長注意」

 警察庁の指針では監督上の措置は原則として報道発表の対象とならないが、7件のうち2件は事案が発生した時点で概要が公表されている。①の「暴行事案」と⑤の「交通事故事案」がそれだ。前者は函館西警察署の男性巡査部長(31)=当時、以下同=が泥酔して同僚(36)を殴った事件で、巡査部長は処分と同時に函館区検に書類送検された。交通事故のほうは、札幌白石署の男性警部補(61)がパトロール中に歩行者の男性(42)を轢ねた事案。被害者の男性は死亡、警部補は現行犯逮捕され、処分前の9月上旬に書類送検された。いずれも検察の処分はあきらかでない。

 残る5件は事案も処分も報道発表の対象とならず、完全に未発表だった。先述の通り、警察庁の指針では「訓戒」「注意」は公表の対象とならず、その点ではこれらを未発表とした判断は不適切ではなかったことになるが、問題は各事案が「訓戒」「注意」措置に見合う(懲戒処分とするまでもない)不祥事だったのかどうかだ。

 たとえば②の「異性関係不適切等事案」。道警の『一覧』には「不適切な言動」とあるのみだが、筆者が追加の開示請求で入手した『犯罪事件受理簿』や『事件指揮簿兼犯罪事件処理簿』などの公文書には、より具体的な事件名が記されていた。《ストーカー規制法違反事件》である。

 捜査の記録にストーカー行為と明記されている事案が、処分の記録では「不適切な言動」と言い換えられてしまう――。文書によれば、加害者の巡査部長は昨年5月7日から6月9日にかけ「被害者に対する恋愛感情を充足する目的で」「つきまとい等を反覆した」という。より詳しい犯罪事実を記録した「別紙」には「前後2回にわたり」「同人の(被害者の)性的羞恥心を害する物を送付し」との記載もあり、加害警察官の粘着的で悪質な犯行動機を読み取れる。捜査したのが函館方面本部の生活安全部で、事件送致先が函館地検だったことから、巡査部長は函館方面管内に勤務していた可能性が高い。

 深刻なケースは、ほかにもある。③の「異性関係不適切事案」では、追加開示された文書がことのほか広く墨塗り処理されており、道警の『一覧』にある「卑わいな行為」の詳細が確認できないが、隠れた部分の隙間には概要を知る手がかりとなるような文言が残っていた。以下に『事件指揮簿兼犯罪事件処理簿』に記録された事案概要を、墨塗り部分も含めて採録する。

《被疑者は、正当な理由がないのに、令和4年9月24日午後7時55分頃から同日午後8時までの間、■■■(約15字ぶん墨塗り)■■■において、同所を通行中の被害者に対し、■■■(約40字ぶん墨塗り)■■■もって、公共の場所にいる者に対し、著しく羞恥させ、かつ、不安を覚えさせるような方法で、卑猥な行為をしたものである》

 僅かな開示部分に「公共の場所」「通行中」などの文言があることから、おそらく現場は公道上。そこで行なわれたのが、被害者を「著しく羞恥させ」「不安を覚えさせるような」「卑猥な行為」。これ以上の詳細は、読者諸氏の想像に任せるほかない。調べにあたった北見警察署の生活安全課は11月7日付で事件を送検したが、送致先はあきらかでなく、起訴の有無も不明だ。

 繰り返すが、これらの事件はいずれも未発表で、当事者の警察官への処分も「訓戒」「注意」という軽い制裁に留まっていた。この事実が、2度の公文書開示請求を経ない限り地元市民の目に触れず、即ち「なかったこと」になっていたわけだ。

 重ねて読者に問う。この対応は適切だったと言えるだろうか――。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
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