「維新」の勢いが解散総選挙を早める

今年最大の「政局」とみられていた統一地方選と衆・参五つの補欠選挙が終わった。
各党、一休みとはいかないようで、自民党のベテラン議員は「こちらのほうが最も大きな政局だ。安倍元首相一周忌解散だ」と話す。どういうことか――。

◇   ◇   ◇

自民党の総裁任期があと1年半という岸田文雄首相。解散総選挙が最も警戒されるところだが、昨年7月8日に奈良県で銃撃された安倍晋三元首相の「一周忌」に合わせた日程が注目されている。これだと投・開票日が7月9日の日曜日。前日8日が安倍元首相の「一周忌」となる。

岸田政権の目下の懸案事項は、5月19日から始まる広島サミット。世界が注目する政治イベントを無事終えることができるかだ。岸田派のある国会議員が、こう打ち明ける。
「サミット後に大きな政治課題や政局となりそうなものが見当たらないことから、7月に解散総選挙ではないのかという見方が広がっている。この時期になやるなら、志半ばで凶弾に倒れた安倍元首相の命日に合わせる形となり、そうした見方が永田町を駆け巡っている」

統一地方選や衆参補選を見ても、自民党が最も警戒する相手は日本維新の会。勢いのない立憲民主党では、とても与党の牙城を揺るがすことはできそうもない。「やっぱり、警戒すべき相手は維新」と自民党幹部は言い、手元のデータを示す。

全国の市議選の獲得議席数を比較すると、自民党は710議席、立憲民主党は269議席で前回より72議席増えた。日本維新の会は154議席で108も勢力を伸ばしている。

市議選の候補者数では立憲民主党は302人、維新が292人とほぼ互角なであることから維新の伸びが際立つ。統一地方選で700議席越えを達成し、衆議院和歌山1区で自民党の元職を破る金星をあげた維新。前出の岸田派議員が、続けて話す。
「統一地方選以上に衆・参補選の結果が強烈だった。二階俊博元幹事長ら自民党の有力者が並ぶ和歌山1区で維新が勝った。一方、立憲民主党は接戦を演じた選挙区があったものの、全敗。維新の勝負強さが顕著にあらわれた。和歌山1区は、もともとの自民党の情勢調査では、圧勝と出ていたので維新がいかに勢いがあるかよくわかる」

勢いに乗る維新は4月末、解散総選挙に対応できるようにと公募を開始。同党の藤田文武幹事長はツイッターで、《来る解散総選挙に向けて、候補者を大々的に募集いたします。維新の政策に共感し、改革精神のある方にたくさんお会いできますように!》と呼びかけている。

確かに維新は、解散総選挙になった場合、確実に議席を伸ばす可能性が高い。これまで「大阪都構想」の関係で、維新は大阪と兵庫で公明党が有している6小選挙区で「取引」があり、候補者を擁立してこなかった。だが、大阪市議会で過半数を獲得した維新は一転して強気に――。馬場伸幸代表は「もう公明党にお願いすることがないので、原則、出す」と明言しており、6小選挙区で候補者を出すのが確定的だ。

前回の衆議院選挙で維新に敗れた自民党の元衆議院議員が、辛そうにこう話す。
「維新の勢いは奈良県知事選、衆議院和歌山1区を見ればわかるように関西から全国に広がろうとしている。大阪、兵庫の小選挙区に(候補者を)立てられると自民党も公明党も勝てない」

維新のある国会議員は、次のようにそろばんをはじく。
「小選挙区で議席が増えれば、比例枠もとれる。6小選挙区がとれると、3倍の12人がバッジをつけることができる。もうすでに党幹部は6小選挙区の候補者選定に着手している模様だ。有力な候補者の名前がちらほら聞こえてくる」

岸田首相も、和歌山1区の応援でも「和歌山のことは地元で決める」と維新を意識した発言をしていた。

統一地方選、大阪府議選では定数1が36選挙区あった。うち35を維新がとっている。唯一、維新が落とした選挙区も保守系無所属が勝利しただけで、自民党と公明党はゼロとぼろ負けしていることから、解散総選挙でも大阪の公明党の4小選挙区が維新の手にわたる可能性が強い。

公明党の兵庫の二つの小選挙区も大阪に隣接するエリア。中心となる尼崎市、西宮市の県議選でも、維新が圧倒的な得票で1位当選している。
「大阪と兵庫で維新が10議席以上を伸ばすことが確実視されるのなら、それに対抗するにはカリスマ的人気があった安倍元首相にすがるのも仕方ないところだ。自民党が政権維持のためには、岸田首相もなりふり構わない解散総選挙に打って出ることは十分ありうる。安倍元首相に解散総選挙の勝利を報告するということで、大義名分は十分だと党内でも歓迎する声が多い。維新が態勢を整えられない間に、早めに解散総選挙をやったほうが得策ではないか」(自民党幹部)

故人の「命日」とりわけ「一周忌」は静かに喪に服したいのが遺族の心情だろう。選挙に使うのは「禁じ手」ではないか。

 

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