兵庫県洲本市「ふるさと納税」に重大疑惑|返礼品購入で不正

昨年、兵庫県洲本市にある淡路島の中核病院「兵庫県立淡路医療センター」で、パソコンの不正調達が行われていたことが判明。本サイトで、速報を流し(⇒既報)、その後一連の取材結果を報じた。兵庫県は報道内容を認め、同病院がノートパソコンを購入した際に入札をしていなかったこと、ミスを隠ぺいするために入札実施を装う公文書を偽造していたことなどが明らかとなり、関係者が処分されている。その洲本市に、ふるさと納税を巡る大きな疑惑が浮上した。

■市議会無視して返礼品発注

ふるさと納税制度で、2021年に全国7位となる約78億円の寄付を集めた洲本市。年間約55億円の市税を大きく上回るものだった。ところが「返礼品の調達費は寄付額の3割」という総務省の基準を無視したものが少なくとも300品目以上あることが発覚。同市は2022年5月から2年間、ふるさと納税から除外された。そうした中、「まもなく刑事告発になる」(洲本市民)という事案が浮上している。

市は21年10月1日、大手旅行代理店JTBの関連会社「JTBパブリッシング」にふるさと納税の返礼品に使用するため正月用のオリジナルおせちを発注した。ハンターが入手した内部資料(*下の画像)によれば、おせち料理の一段重と三段重がそれぞれ1万2,000円と3万6,000円。1,000セットずつの2,000セットで合計4,800万円が支出されていた。市議会の承認は、「あくまでも返礼品としての認識で」(洲本市)ということで、得られていない。

地方自治法第 96 条第1項第8号が規定する政令で定める基準では、「2,000万円以上の財産の取得又は処分は議会の議決に付すべき」とされている。洲本市は、この規定を無視して発注したことになる。

仮にこれがすべてふるさと納税の「返礼品」として利用されるなら、調達費として支出理由が成り立つ。しかし、前掲の内部資料には「配布予定 一段重400個、三段重400個の計800個は、医療従事者へのお礼として寄附」と記されていた。金額にすれば一段重480万円・三段重1,440万円、合計で1,920万円が返礼品以外の目的に使われることが決まっていたのに、これも市議会には諮られずに支出されていた。

■公印偽造の疑いも

問題をさらに複雑にしているのは、《『洲本市オリジナルおせち』の開発納品に関する申し込み書》という洲本市がJTBパブリッシングに出した公文書だ(*下の画像)。《申込者 洲本市長 竹内通弘》となっているが、その横に押されているハンコの陰影は、《洲本市魅力創生課 印》となっている。洲本市でふるさと納税を担当する課の印鑑であって正式な市長の公印ではない。

ある洲本市議が、不満そうに語る。
「これは洲本市の公印かと聞くと『公印ではありません』と市当局は説明しています。さらに調べると、魅力創生課が2020年5月に地元の文房具店に印鑑を発注して作成させていた。特に必要がない印鑑をなぜ作るのか明確な回答がない。洲本市の
公印が使えないようなふるさと納税の取引が多々あったので、このような偽造とも思える印鑑を作ったのではないか」

そこで、入手した文書の中にある、洲本市が「洲本市魅力創生課印」を文具店に発注した際の伝票を見ると(*下の画像)、印肉がなくとも繰り返し使用できるいわゆる「シャチハタ印」であることが明確にわかる。とても「公印」として使用できるものではあるまい。

■実際の「返礼品」は発注分の1割以下

疑惑はこれだけに止まらない。おせち料理は、医療従事者以外にもばら撒かれていたのだ。洲本市議会での質疑から、問題のおせち料理が、ふるさと納税に返礼品を提供する業者、新成人、消防関係、さらには洲本市職員や市議会議員にも配布されていたとことが明らかになっている。
「医療関係者へ157個、返礼品として174個、成人式においては360個、返礼品業者へは153個、後は移住イベント等のシティプロモーション活動として1,066個、予備77個ということで、合わせまして1,987個という調査結果となっております」(洲本市側の説明)

ふるさと納税の返礼品として購入されたはずのおせち料理2,000セットのうち、実際に返礼品となったのは1割にも満たないたったの174個。「シティプロモーション活動」という意味不明なものに半分以上の1,066個が費消されていた。

一連の騒ぎを受けて洲本市は3月、ふるさと納税の返礼品だった「商品券」でパソコンとプリンターを購入、さらにおせち料理の代金を議会の承認を得ずに支出したとして、魅力創生課の担当課長を懲戒処分とした。その後、処分をうけた課長は退職している。

パソコンとプリンターの購入先は、『洲本市魅力創生課印』を納品した文具店。ふるさと納税の返礼品の決裁資料を見ると、元課長の印鑑が押されている。『洲本市魅力創生課印』の印鑑購入も、元課長が決裁権者の一人だ。返礼品納入業者の一人はこう話す。
「ふるさと納税に関しては、元課長が一手に仕切っていた。うちにも交渉にきたのですが、普通ではない取引内容を持ち出し、不審に思ったことがあります。案の定、様々な疑惑が噴出した。一人の課長にそんな権限はあると思えません。多くの市民が、もっと上のほうがかかわっていると思っているのです。うちにもおせち料理が届きましたが、写真で見るほど豪華でも、おいしそうでもなかった。もらった理由を洲本市に問い合わせても『食べとってください』というばかり。変に思って捨てました」

■「おせち」ばらまきは選挙利用?

2022年3月当時、洲本市では市長と市議のダブル選挙が予定されていた。当時市長だった竹内通弘氏は上崎勝規現市長を後継指名し、退任した。前出の納入業者は、こう疑問を口にする。
「おせち料理のバラマキは、選挙向けの買収ではなかったのかという声が高まっている。また、ふるさと納税で総務省から除外されるほど高額な返礼品を出したのは、地元業者に対する形を変えた買収ではなかったのか」

現在、洲本市のふるさと納税については市が設置した第三者委員会で調査が進められており、同委の資料には、“総返礼品数1,195 品のうち、基準違反は373 品”、“不適切”、“違反”、“大きな問題”などと、「不正」を示唆する文言がいくつも並ぶ。今年夏には第三者委員会の結論が公表される見込みだが、洲本市民の有志の中からは、刑事告発を模索する動きも出てきた。

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