【風力発電汚職の背景】容疑者・秋本真利衆院議員とは・・・

今月7日、東京地検特捜部は秋本真利衆議院議員を受託収賄の容疑で逮捕した。洋上風力発電事業を手がける「日本風力開発」(東京都千代田区)の塚脇正幸元社長から約6千万円の「賄賂」を受け取った容疑だ(既報)。塚脇元社長は逮捕されず、在宅での捜査が続くという。

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秋本容疑者は当選4回。千葉県富里町の町議会議員から国政に転じ、2012年の衆院選で千葉9区から出馬して初当選した。『自民党発! 「原発のない国へ」宣言 2050年カーボンニュートラル実現に向けて』(東京新聞)という反原発・脱原発の著書を出すなど、原発推進の党内では異端児。一方で、河野太郎デジタル相を「アニキ」、法政大学の先輩である菅義偉前首相は「オヤジ」と呼ぶ関係だった。

そんなバックもあってか、秋本容疑者は国交政務官や外務政務官を歴任するなど実績を重ね、再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長に就任する。特に力を入れてきたのが洋上風力発電力で、そこが贈収賄の「ネタ」になった。

秋本容疑者は、国会質問で塚脇元社長の洋上風力参入を後押ししたが、象徴的なケースが、2022年2月17日の衆議院予算委員会で展開された。同容疑者は「運転開始時期に重きを置いての評価が必要、運転開始時期はオープンにするべき」と発言。洋上風力発電に参入を希望する者を評価する際には、“いつ運転を開始できるか”という点を重視し、早期に稼働できる計画を優先して高評価すべきだと主張した。早期の運転開始が可能だったのが、塚脇元社長の日本風力開発だったという。

この質問に対し、萩生田光一経産相(当時)は、「選定の基準や開示情報の在り方も含め、外部有識者の知見もいただきながら検討する」と検討開始を示唆。同年10月27日、新しい評価基準に改定された。その翌日、塚脇元社長は、現金1,000万円を日本風力開発の社員にも持たせ、議員会館の秋本容疑者に届けさせたとされる。「賄賂」である。

塚脇元社長から「請託」を受け、国会議員の職務、権限を使ってそれに応える見返りにカネを受け取る――まさに受託収賄の構図だ。

秋本容疑者が代表を務める「自民党千葉県第九選挙区支部」の2021年分政治資金収支報告書をチェックすると、100万円、150万円という金額がずらりと並ぶ。2016年に洋上風力など再生可能エネルギーに関連している業界からの献金は30万円にも満たない。それが2021年には業界からの献金が500万円。2019年と20年は約900万円、2018年と19年には塚脇元社長や日本風力開発の創業にかかわった人からの献金もある。2017年に秋本容疑者が国交政務官、議連の事務局長になってから急激に増えているのがよくわかる。

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秋本容疑者と親しかった自民党の国会議員がこう話す。
「秋本容疑者の名前が、反原発、脱原発で知られはじめ、議連の事務局長になると再生可能エネルギー業界と頻繁に接触するようになっていた。そのうち、業界の人が群がると言ってもいいくらい、秋本容疑者の事務所を訪れるようになった。政治資金収支報告書を見ると、業界がタニマチのようになっている。閣僚経験もなければ世襲でもない秋本容疑者に、企業、個人で100万円単位の献金がずらりと並ぶなんて、いくら自民党でもまずいないでしょう」

近寄ってきた多くの業界関係者がいた中で、塚脇元社長とだけは“どっぷり”の関係になっていく。キーワードは『競馬』だ。塚脇元社長は馬主歴20年以上でJRAや地方競馬で100頭ほどの競走馬を所有しており、大の競馬好きである秋本容疑者と意気投合した。贈収賄の約6,000万円はすべて競馬を介してのものだった。

2019年に秋本容疑者はJRAの個人馬主に登録。目安となる「資産7,500万円」のハードルをクリアするため塚脇元社長から3,000万円を調達したことで馬主になれた。

半年後、秋本容疑者は3,000万円に利息100万円とワインを付けて返済したがJRAの馬主というステータスを得たのだった。

そして2021年には秋本容疑者は他人名義を使って、塚脇元社長ともに馬主組合「パープルパッチレーシング」を設立。法人登記が不要で匿名性が高い馬主組合に、塚脇元社長が3,000万円の資金提供をしていた。

2022年の秋本容疑者の資産公開資料によれば、株式はメディネット500株、星野RR14株、神戸製鋼所3千株、新日本電工690株、古河機械金属3千株、弁護士ドットコム100株、トヨタ自動車1千株、SBIホールディングス20株、京成電鉄200株、日本航空500株、ANAホールディングス2,800株、東京電力ホールディングス1,500株と数多くの銘柄を保有。それ以外に貸付金2,200万円、1,000万円、軽乗用車など6台を保有とある。

神戸製鋼所や古河機械金属は洋上風力発電システム構築や機械部品などを手掛ける会社。秋本容疑者は、2019年3月4日にX(旧ツイッター)に「公園から沖合にある2枚羽バージ型浮体風車を双眼鏡で確認」などと画像を添えて投稿しており(*下、参照)、洋上風力発電のシステムに詳しいことがうかがえる。

  秋本容疑者が国交政務官時代に関与した法整備によって洋上風力発電が増加してきたのは明らかで、神戸製鋼所や古河機械金属の業績がアップしてゆくことは十分想定できた。

同容疑者が衆議院に提出した資産公開の資料には、JRAや地方競馬で所有する競走馬についての報告はない。競走馬がレースで得た賞金などが公開された形跡もない。塚脇元社長一時的にが用立てたカネを資産計上してJRAの馬主登録するなど、秋本容疑者が洋上風力発電や競馬をネタに、狡猾な資産形成をしていた側面がうかがえる。それが、特捜部の捜査ですべてばれてしまったということだ。「競馬を隠れ蓑にしての蓄財にも驚いたが、6,000万円もの不透明なカネをよく隠し通せたものだ」と自民党の大臣経験者は驚く。

今週13日、岸田文雄首相は内閣改造と党人事を行う予定で、解散総選挙も見えてきた。そうした中での秋本容疑者逮捕。党内からは、「秋本はまだ議員バッジを外していない。これほどの悪行がばれてしまった以上、政権の支持率は下がる。逆風だ。よほどのサプライズでも用意しない限り、内閣改造の効果が期待できなくなる。いま解散総選挙をやれば、過半数割れも十分に考えられる状況だ」(自民党の中堅議員)などと、事件の影響を懸念する声も上がっている。

 

 

 

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