「無錫旅情」の尾形大作氏、出馬表明から2カ月で自民支部長クビ

2021年の衆議院選挙、2022年の参議院選挙、そして今年春の統一地方選と日本維新の会に連敗続きの自民党大阪府連。今年8月、党本部主導で「大阪刷新会議」を設立し新しい支部長を選任したが、大阪18区には歌手の尾形大作氏が選ばれ、話題になっていた。それからたったの2か月。自民党は10月17日、茂木敏允幹事長らが協議して、尾形氏の支部長解任を決めたという。一体に何があったのか?

■やる気がなかった元人気歌手

福岡県出身の演歌歌手である尾形氏は、「無錫旅情」などのヒット曲で知られ、NHKの紅白歌合戦にも出演した経験がある。知名度のある候補者として、自民党も期待を寄せていた。

尾形氏は8月2日、茂木幹事長が同席した記者会見で「応援をいただいた皆様方にご恩返しをと思っていました。歌で大ヒットを出して恩返しと思っていたが、自民党から、日本一厳しい大阪の選挙区をなんとかしたいと言われ決断した。1期では時間が足りない、ぜいたくなことですが3期、5期とやって政策をやっていきたい。歌の仕事で政治のことはほとんどわかりませんが命がけでやりたい」と挨拶していた。

しかし、支部長就任後、新しい地元の大阪18区に入ったのは3回ほど。大阪18区の自民党関係者が、苦り切った表情でこう話す。
「尾形さんがやってきたのは、地元での新しい事務所や住居探しのためですね。やってきても、日帰りか1泊ほどで、『歌の仕事があるから』と帰っていきます。そんなことが3~4回続きました。地元の要請があっても、ぜんぜん来るような気配がない。あまりにやる気がないのでさすがに我慢できず、大阪府連に早く手を打ったほうがいいと報告を入れました」

ところが、当の尾形氏は、そうした声を無視して開き直ったらしい。
「俺は最初、維新から誘われた。福岡か東京で出れば、何もしなくとも比例で当選できるとのことだった。それを聞きつけて自民党から誘われて、政権与党だからこっちにきてやった」、「何もしなくてもいい、歌の仕事を優先してくれればいいと言われている。政治のことはよくわからないし、頻繁に行くことはできない」――尾形氏は今年9月に地元に来た際、そう言い残して去っていったという。

■西村経産相の責任問う声も

尾形氏の「後ろ盾」となっていたのは、西村康稔経産相だ。西村氏は、自身の事務所から秘書も派遣して尾形氏をサポートしていた。しかし、その秘書T氏も9月末で辞めてしまったという。

「解散総選挙が近いともいわれ、秘書のTくんはよくやっていた。しかし、支部長として出馬する尾形さんが地元にいないとなれば、挨拶回りしても意味がない。Tくんは尾形さんのヤバさを危惧して身を引いたと聞きました。肝心の尾形さんは顔も見たことないし、挨拶にも来ない。いつ本人が来るのかと思っていたら『地元には入らない』。こりゃ、あかんわなとなりますわ」(前出・大阪18区の自民党関係者)

尾形氏自身、「政治のことは何もわからない」と語っていたように政治の素人。そうなると、尾形氏の「後ろ盾」である西村氏に責任の一端があるのではないかと地元では声があがる。自民党のある大臣経験者が、次のように解説する。
「西村さんは大阪15区が地元の加納陽之助を岸田派から引き抜き、安倍派に入れたそうだ。今回、加納は大阪10区から15区に国替え。ただし、15区には維新の現職である浦野靖人氏がおり強敵だ。大阪10区は立憲民主党の辻元清美さんの地元だったが選挙で敗れ、参議院議員に転身した。10区は常に辻元さんや自民党候補、維新が三つ巴で戦ってきており、今回はチャンスありとみて転出したんだろう。実は最初、ここを狙っていたのは参議院の松川るいだったが、エッフェル塔で炎上し、おじゃんになった。15区には地元の河内長野市長だった島田智明さんが支部長になっている。そこで空いた18区に尾形を押し込んだということ」

大阪では、加納氏の伯父にあたる竹本直一元IT担当大臣をはじめ岸田派が優勢だった。そこに西村氏が手を突っ込んだというわけだ。

「西村さんは自らの手で派閥の人数を増やせば、安倍派5人衆から抜け出し、会長の座が近くなると考えたんだろう。それもあって知名度だけを考えて尾形を擁立し、秘書まで送り込んだ。しかし、地元の反発までは計算できずに沈没。大阪刷新会議の責任者である茂木幹事長も激怒しているらしいよ」(前出・自民党の大臣経験者)

新しく選んだ支部長が地元にすら来ないという情けない自民党の惨状。笑うのは、維新なのか?

 

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