議長室で5千万円|前那覇市議会議長逮捕が沖縄自民党に与える衝撃

沖縄県警は今月15日、那覇市が所有する土地の所有権を巡り、便宜を図津見返りに現金5,000万円を受け取ったとして前那覇市議会議長の久高友弘容疑者(75)と村山末子容疑者(71)を収賄容疑で逮捕。贈賄側として、鹿児島県の小池隆一容疑者(80)と東京都の小原健司容疑者(70)を逮捕した。沖縄を舞台に起きた贈収賄事件の裏を取材した。

◇   ◇   ◇

久高容疑者と村山容疑者は、那覇市が所有する土地約1万7,000平米について「先祖が所有しており那覇市に売却していない」と主張する市民から依頼を受けたとして、所有権を取り戻すと約束。2020年12月と21年2月に議長室であわせて5,000万円の現金を賄賂として受け取った。

ちなみに、5,000万円を手渡したという小池容疑者は、1995年前後に当時の第一勧業銀行(現在のみずほ銀行)から不正融資を受け、野村證券、大和証券、日興証券、山一證券の4大証券に「VIP口座」を開設。証券各社から損失補填を受けていた大物総会屋として知られる人物だ。

今回の事件で舞台になった土地は、那覇市の新都心と呼ばれる一番の繁華街に位置しており、元は米軍住宅などがあった場所だ。日本に返還された後、再開発され沖縄のニュータウンとなっている。

新都心の中心にあるのは、日本銀行やホテルなどの複合施設とそこに並ぶ那覇市上下水道局。現状は駐車場となっているその隣接地が、贈収賄事件の発端だ。

不動産登記などによると、1961年に那覇市の土地として登記されたことが分かる。しかし、「家や墓から、昔、土地を所有していたという古い書類が発見された」として、ある市民が那覇市を相手に、所有権確認を求める民事訴訟を起こした。

確かに、沖縄戦があり、その後米軍の住宅地などになっていたので、土地の所有権管理が十分ではなかったという時代背景がある。しかし裁判は最高裁まで争われたが認められず、所有権は那覇市のまま。その話に飛びついたのが、久高容疑者らだった。

「所有権を取り戻すには、市議会で働きかけるのが得策だ」などと村山容疑者や、ネタを持ってきた地元の不動産業者、N氏(在宅で捜査中)と手を組み、市議会で追及をはじめたのだ。

久高容疑者は、「あの土地の所有権が戻り、売却できれば200億円の価値がある」と周囲に語っていたという。同容疑者は、議長になってからも那覇市への追及を止めなかった。

那覇市議会の議事録によれば、那覇市は、所有権争いの裁判でも勝訴していることから市への土地帰属は正当なものと主張。しかし久高容疑者は、2018年11月の市議会で、「あんたたちは信頼が損なわれると言うけど、もともと損なわれているよ。信頼ないことをしないで、法律違反をするんだのに、当たり前じゃないか」、「(那覇市は)今までたくさんやってきた、悪いこと、あんたたちやってきた、違法行為たくさんやってきた。もの言わない市民がたくさんいるんだよ」と発言。

議長に就任してからの22年3月には「あなたたちは嘘つくだろう、そしてごまかしていくだろうと、こっちは分かってるから、ちゃんと証拠を出して見ようね」、「司法だけじゃなくて、百条委員会というのがあるわけだから、これで真実をちゃんと話しするように。要するに、嘘がつけない、百条では」などと那覇市に「圧力」をかけ、百条委員会設置を示唆していた。

市議会における一連の追及を受けた那覇市は、問題の土地について再度調査。同年12月に『下水道局土地取得から現在に至るまで』という中間報告書を市議会に提出した。那覇市は戦争などで焼失している資料が大量にあるにもかかわらず、明治時代にまで遡り、県立公文書館、国立国会図書館などで「可能な限り調査研究をした」(同市)と報告。118ページにもわたる膨大な資料を提出した。ある那覇市議会の関係者はこう話す。
「カネをもらっている久高は強気一辺倒だったが、市の調査があまりに詳細で説得力があるものだったので、びっくりしたそうだ。これでは、いくら議長の権力を使っても勝てないと思ったのか、静かになった」

これまでN氏をフリーパスで議長室に出入りさせていた久高容疑者だったが、報告書の提出以降、居留守を使うようになったという。

小池容疑者らは、「200億円はくだらない」という評価額から10%の20億円を受け取る約束をしていたので、「どうなっているんだ」と久高容疑者を攻め立てた。言い訳ができなくなった久高容疑者は、とうとうN氏らと連絡を絶つ。前出の那覇市議会関係者が、次のように解説する。
「Nや小池は激怒。Nは大病を患って体調不良が続いていた。そこで、怒りをぶちまけようとマスコミに情報を流し始め、沖縄県警の捜査にも協力をはじめた。追い込まれた久高は3月に議長を辞職。警察の任意の取り調べ段階で、趣旨は別にして5,000万円の現金を受け取ったことを自供した。人工透析をしている関係で逮捕が遅れただけです」

久高容疑者は市議会10回当選。議長を3年余り務めるなど自民党だけでではなく、地元政界の大物として知られる。野党系のオール沖縄が優位な政治情勢の中で、苦戦する自民党の那覇市議が沈痛な表情で語る。
「久高さんは、市議会で那覇市を追及するのに一人では難しいと、他の自民党市議に100万円渡して質問させていたのではないかと言われている。議長室であれだけ世間を騒がせた小池などという人物から、5,000万円も受け取るなんて信じられない。おそらく、那覇市の追求はかなり以前からはじまっていたので、総額はもっとあるんじゃないかとみられています。退潮気味だったオール沖縄が勢いづいて、解散総選挙となれば本当にヤバイ」

自民党の大物議員逮捕は、沖縄県政界に大きな影響を与えそうだ。

 

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