注目された東京都知事選は、現職で3期目を目指した小池百合子氏が早々に「当確」。広島県安芸高田市長だった石丸伸二氏、立憲民主党や共産党が支援した蓮舫前参議院議員の戦いは、投票締め切りと同時に終わった。
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小池知事の選対幹部は、圧勝の内幕をこう語る。
「自民党から組織票と資金で支援を得た。しかし、選挙期間中はそれを表に出さずに戦い抜いた。街頭演説の回数を減らしたのも、自民党が万が一、露出するようなことがあってはまずいという考えがあった。それと、60歳以上の高齢者については小池支援が圧倒的であることが情勢調査などでハッキリしていた。負学歴詐称などのスキャンダルが噴出しないように徹底できたことも大きかった」
2016年の初当選時には、「崖から飛び降りる覚悟」、「自民党のしがらみ政治から、ガラス張りの政治に」と訴えて新鮮さを打ち出していた小池知事だったが、今回の選挙戦では「公務優先」と称して、平日は街頭演説をしない日さえあった。
また、4月の衆院補選では「つばさの党」の悪質な選挙妨害があったことから、街頭演説会場はフェンスで囲まれ、大量の制服、私服警官が配置されていた。演説を聞くには、ボディチェックを受けなければ、中に入れない物々しい雰囲気。「小池知事、落選」のビラを撒く人を、小池知事の陣営や警官が取り囲むという、まさに自民党の選挙風景そのものだった。
裏金議員でありながら自民党東京都連会長を続けている萩生田光一元政調会長は、小池氏支援を前面に押し出したかったようだが、世の中は甘くなかった。「グレーなイメージを払拭しようと、応援に入りたそうにしていた。だが、小池知事はまったくそれを許さなかったそうです。萩生田さんと一緒に街頭に立てば、票が逃げるのは間違いないですから」(自民党の東京都連幹部)
その評価通り、萩生田氏の地元である八王子市の都議補選では自民党の候補者が惨敗。関係者からは、「敗戦の原因は、萩生田氏の裏金問題だ」と公然と批判があがっているという。
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一方、敗れた蓮舫氏は「まあ、本人の勘違いでしょう」と立民幹部は呆れ顔だ。5月26日、静岡県知事選で野党候補が勝利した直後、出馬表明した蓮舫氏は、「チャレンジャーとして頑張る」と言いながら、選挙戦の内情はまったく違ったらしい。ある立民の幹部がため息まじりにこう話す。
「蓮舫さんは勝つのは自分とずっと信じていた。だが、情勢調査で、小池知事と差を詰めるどころか離されていることを知る。やがて、石丸氏よりも下回りそうだと分かり、あわてて街頭演説の回数を増やしたり、朝立ちに出たりとやり始めた。しかし、時すでに遅しだった。蓮舫さんは参議院の東京選挙区で当選4回ですが、圧倒的な知名度があり、選挙もほどほどの運動量で勝てた。あまり選挙に本腰を入れず、他の候補を応援しながらやっていても当選できたのです。何を言われようが、何があろうが絶対勝つという小池知事とは根性が違う。街頭演説でも、自分のお気に入りである辻元清美参議院議員や枝野幸男元代表など決まった人にしかマイクを握らせなかった。泉健太代表ですら、マイクを持てずにビラ配りってこともあったほど。敗因はうぬぼれ過ぎですよ。石丸氏に負けて当然です」
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安芸高田市長の任期途中だったにもかかわらず、果敢に挑戦した石丸氏。小池VS蓮舫という、与党自民党と野党の戦いという構図に一石を投じ、選択肢を広げた功績は大きい。石丸氏陣営の発表では、選挙のボランティアだけで5,000人以上が集まったといい、関心がない有権者の掘り起こしにも貢献した。
だが、いかんせん政治キャリアが少なく、選挙期間中には候補者個人の宣伝ができない「確認団体」の活動であるにもかかわらず、平気で石丸氏の名前をあげてみたり、SNSでは子供が応援する動画を流すなど「違反」と思われても仕方ないシーンが何度もあった。
「素人の寄せ集めで、公職選挙法がなんたるものかよく理解できていない。勝てる見込みがなかったからよかったが、もし勝負になるほど支持を集めていたなら、とんでもなく叩かれた。まあ、石丸さんにすれば、いきなり広島県の田舎からやってきて、これだけの票をとれたなら次のステップにつながるのは確実で、笑いが止まらないでしょう」(石丸陣営の幹部)
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都知事選で、まったく「番外」に置かれたのが日本維新の会。当初は、音喜多駿参議院議員が維新から出馬かと思われたが、立候補はなし。維新の区議が苦々しげに話す。
「音喜多さんは都知事選は勝てないと早々にあきらめていた。そこで音喜多氏ら党幹部が石丸氏に会って支援を打診したが『無所属で』とはねつけられ、候補者擁立を断念。おまけに石丸氏に断られ、恥をかいた幹部が『都知事選では誰も応援をするな』と指示をした。それが余計に反発を招いて党内は大混乱しました」
この話を裏付けるように、都知事選のさなか、維新所属のひえしま進区議(世田谷区)は記者会見して維新からの離党を表明。「都知事選では石丸氏を応援します」と宣言し、自身のSNSでも《期日前投票に行ってきました。石丸伸二と書きました。気分爽快。ワクワクします》とポストした。
「候補者を出せない維新の執行部が悪いのに、責任を取らずに、『応援はご法度』というばかり。身を切る改革なら、責任をとって幹部が自ら出馬するなり、辞めるなりすべきですよ。ひえしま氏に続けと、こっそり石丸氏を応援する地方議もがいましたよ。投開票まで残り3日となったあたりで石丸氏支援という話もあったが頓挫。まったくセンスがありません。維新がこれまで掲げてきた古い政治との決別どころか、古いを実践しているようなもの。維新は大阪だけではなく、東京でも分裂しつつあります」(前出・維新の区議)
小池知事の「圧勝劇」は、自民党や立憲民主党、維新など、与野党を問わずどうしようもない「政治屋」に助けられた結果かもしれない。