9月12日にスタートした自民党の総裁選。小林鷹之前経済安保相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、茂木敏充幹事長、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、高市早苗経済安保相、加藤勝信元官房長官、上川陽子外相と過去最多の9人が立候補した。派閥解消がもたらした乱戦だが、最後に笑うのは……。
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8月24、25日に毎日新聞が実施した世論調査では、石破氏が29%、小泉氏16%、高市氏13%、小林氏7%、上川氏6%、河野氏5%、林氏、茂木氏、加藤氏がそれぞれ1%。日本テレビは、9月3日と4日に行った自民党員に限っての世論調査の結果を報じており、石破氏28%、小泉氏18%、高市氏17%、上川氏7%、小林氏5%、林氏4%、河野氏3%、茂木氏2%、加藤氏2%という結果だった。
総裁選は、党員票と議員票によって決まるため、一般の有権者が投票することはできない。だが、毎日新聞の有権者の調査と、日本テレビの自民党員の数字はほぼ一致している。ある自民党の大臣経験者は、「毎日新聞と日本テレビをみて、おおよその結論が見えてきた。党内はそこに走りはじめている」と話す。
1回目に党員票と議員票で過半数をとれば当選が確定する。しかし、候補者が乱立しており、石破氏も小泉氏も過半数を制するのが困難な情勢だ。その大臣経験者はこう読む。
「最初の勢いは小泉だった。6日に記者会見し、そのあと銀座、横浜で街頭演説をしたが、すさまじい人が集まっていた。小泉が1位で石破が2位という声も高まっていた。ただ、例えば上川は静岡県、加藤は岡山県、茂木は栃木県がそれぞれの地盤。各県連で党員票も確実にとってくる。小泉、石破は1回目で党員票の20%前後をとるのがやっとではないか。当初のまま進めば、おそらくその2人の決選投票になる予定だったが、女性で保守派の高市が割って入る状況だ。スタートダッシュを決めた小林氏だが、いかんせん党員票はとれそうにない」
茂木氏を応援する旧茂木派の議員は、次のように内情を明かす。
「(茂木氏は)勝てないが、出馬しないと政治生命が終わる。茂木派はグループに変わったが、総裁選で様子見していれば、出馬した加藤さんが率いることにもなりかねない。決選投票で旧茂木派をまとめあげて、小泉さんか石破さんのどちらかに乗るしかない。その際、岸田政権で主流派を形成してきた岸田派や麻生派とうまく連携がとれるかどうか。乗る船を間違えなければ高く売れる。新政権発足後に希望のポストがまわってくる可能性が高くなる。もっといえば、キングメーカーが引き続き麻生さんになるのか、菅(義偉)さんにとってかわるのか、それとも2人が手を組むのか――。キングメーカーが誰になるのかを見極めて動けるかどうかだ」
岸田政権で麻生氏と菅氏は明暗を分けた。安倍政権以降、常にキングメーカーとして権勢を誇った麻生氏。一方の菅氏は2021年の総裁選で河野氏を応援したことから、政権中枢から遠ざかる。
その菅氏、今回は一番の人気者で自分と関係の深い小泉氏を支援。麻生氏は、派閥の一員である河野氏の支援に乗り出した。河野氏は21年の総裁選で、岸田文雄首相に次ぐ2位。しかし、今回は小泉氏や小林氏の若さに押されてか、世論調査の支持率が低迷しており、決選投票まで進むのは難しいとみられる。
麻生派のある議員は「麻生さんはもう河野では勝てないと踏んでいる。なら、決選投票でどうすれば主流派に、キングメーカーになれるか、そこに腐心している」と話す。想定される最有力の決選投票は小泉氏VS石破氏。麻生派の議員が続けてこう話す。
「麻生さんが石破さんを嫌っているのは有名です。菅さんと調整して小泉を推す可能性はある。そうなると岸田派も大半が小泉になびく。茂木派は、石破さんが平成研の出身だったこともあり、全員というわけにはいかないでしょうが半数以上が小泉でしょう。茂木派の票は、菅さんが総理時代に官房長官だった加藤さんにも流れるでしょうから。やはり、石破さんは苦しい展開ですね」
小泉VS石破以外にも小泉VS高市、石破VS高市というパターンも考えられる。その場合はどうなるのか――前出の大臣経験者は次のように予想する。
「小泉対高市なら、右寄り保守か否かという争いだ。ただ、麻生さんと菅さん、どちらも高市とは以前から距離がある。そうなれば、2人はタッグを組んで小泉。石破VS高市となれば、う~ん、難しいね。どっちに行くか。石破さんが菅さんに自分から頭を下げれば支持が得られるかもしれない。ただ、彼はそれをしない人。他人任せで誰かが調整してくれるだろうって人だから、これまで総理になれなかった。自分で動くだろうか?それは岸田総理に対しても同様で、石破さんが直接頼めば可能性は十分だ。高市は前回の総裁選で安倍さんの差配があって出馬し3位に躍進した。『安部元首相の高市』『石破だけはダメ』と麻生さんが考えれば、茂木らに声をかけ、高市に乗ることはあり得る」
総裁選出馬の記者会見までしながら、推薦人が集まらずに断念したのは野田聖子元総務相。同氏を支援してきた議員は、「推薦人が12、3人しかいなかったので出馬は無理。けど、ばらばらになるともったいないので勝てそうな小泉に大半がなびくでしょう。そうしないとポストがまわってこない」と肩を落とす。
意欲満々だった斎藤健経産相も出馬を断念した。斎藤氏は小泉氏と当選同期で「四志の会」というグループを結成している。斎藤氏支援で集まったメンバーは菅氏にも近い議員が多く、大方は小泉氏につくとみられる。斎藤氏は小泉氏からも評価が高く、菅氏もバックにいる。すでに官房長官か党三役という声さえある。
岸田首相の数少ない功績が派閥解消で、その結果が総裁選候補者が9人も出るという乱戦だ。ただし、派閥解消も今だけのことかもしれない。古参の国会議員は「決選投票はキングメーカーが暗躍する別世界。新たな派閥政治が幅をきかせ、また激しいポスト争いが起こる。実際、裏ではそういう動きになっている。自民党は旧態依然なんだ」と笑う。
残念ながら、自民党政権が続く限り、日本の政治は変わらない。