裏金事件を受けた岸田文雄首相が、総裁選不出馬という形で退陣を表明。麻生派以外の派閥が消滅した「派閥なき総裁選」が大詰めを迎えようとしている。
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過去最高の9人が立候補したが、実質的には石破茂元幹事長、高市早苗経済安保相、小泉進次郎元環境相の3人に絞られる情勢だ。下馬評の高かった小林鷹之前経済安保相や派閥のトップだった茂木敏充幹事長、岸田派のナンバー2・林芳正官房長官らは極めて厳しい。
総裁選は、1回目の投票で過半数をとった候補が当選する。しかし、出馬には20人の推薦人が必要で、“圏外”とみられる加藤勝信元官房長官を応援する議員は、苦笑いしながら「さすがに1回目の投票では、推薦した候補に入れますよ」と話す。
つまり、180人は推薦した候補に投じ、候補者本人と合わせ189票の行方が決まっているということになる。議員票は368票なので残るは179票。注目される党員票も1回目は368票で、上位の3人がいかに党員票を多く獲得できるかが焦点となる。
世論調査などから、党員票では石破氏が100票の大台に乗せる可能性がある。2位には高市氏。当初、党員票で圧倒し1回目での「決着」を練っていた小泉氏は、早々にメッキがはがれて急落し、3位に沈んでいる模様だ(既報)。しかし、議員票では小泉氏が強く、推薦人に加え60人前後を確保しているという。
石破氏も高市氏も議員間では「不人気」。石破陣営の議員は、「うちは40票あればいいところ、高市さんはうちより少し上の40票超程度じゃないか」と読む。
1回目の投票で「決着」がつかず、決選投票に持ち込まれのは確実。そうなった際の動きについて、泉氏陣営の大臣経験者は「決選投票になると、復活するのが派閥だ。麻生派に、旧派閥、みんな主流派につきたいのは当然。つかないと、ポストがもらえないからだ」と語る。
決選投票では、議員票368票に党員票ではなく都道府県連の47票が加わり、世論ではなく議員票の割合が勝者を決める仕組み。想定できるのは、小泉氏と石破氏もしくは高市氏、状況次第で石破氏と高市氏というパターンも可能性がある。
議員票に強い小泉氏が決選投票に持ち込めば、俄然「総理の椅子」が近くなる。小泉陣営では菅義偉元首相が街頭に立って支援を表明しているほか、旧安倍派の萩生田光一氏など派閥の中核にいた人物も同氏を推している。
安倍晋三元首相、菅氏、岸田首相と続いた政権で、キングメーカーとして君臨してきた麻生太郎氏の動向にも注目が集まるが、小泉陣営である前出の議員は、決選投票が小泉対石破という組み合わになった場合についてこう解説する。
「麻生さんが石破さんを嫌っていることは有名な話。旧岸田派も、麻生さんの意向が小泉となれば無視できません。非主流派に追いやられた菅さんと岸田総理の関係はよくない。一方、石破さんと総理は以前から良好な関係で、岸田総理続投なら石破さんを幹事長に、という声まであった。しかし総理が目指しているのはキングメーカー。勝ち馬に乗ろうと菅さんと手を組む可能性もある。残るは旧茂木派、平成研です。かつて石破さんが平成研に在籍してしていた関係から、参議院の旧茂木派に影響力を持つ青木さん(一彦・参議院議員)が推薦人になっている。そういうわけで旧茂木派の一部は石破さんに流れるでしょうが、小泉さんがやはり有利。もし石破さんが小泉さんに勝つとすれば、党員票で100票以上をとって『民意は石破』を印象付け、態度を明かしていない議員や選挙に不安を抱く議員を取り込むしかない。石破さんが、親しい岸田さんや昔の仲間である茂木さんに頭を下げれば、接戦になるかもしれません」
石破氏の党員票が伸びず、小泉氏と高市氏の組み合わせもありうる。その場合は小泉氏が有利とされている。
「麻生さんは前回の総裁選で、安倍元首相が高市さんを支援していた際にも派閥から推薦人を出さなかった。安倍政権で高市さんが登用されたが、菅さんは冷めた目でみていた。事実、菅内閣では大臣、党三役としての高市起用はなかった。2人が高市さんと距離を置いているのは確か。高市さんの推薦人も、旧安倍派が中心で広がりがない。極端な右寄りの高市さんに勝ち目はない」(前出の小泉陣営議員)
総裁選の論戦を通じ、空虚で具体性のない話を繰り返して化けの皮がはがれてしまった小泉氏。前回2021年の総裁選では、河野太郎デジタル相が党員票で圧勝ムードだったが結果的に落選。麻生派の議員がその時のことを振り返る。
「前回は河野が絶対に勝つと見込まれていたため、それに乗ろうとする議員が多くいた。しかし、討論会などで失態が続き、安定感がある岸田のほうがまだマシという状況になって河野は敗れた。小泉さんもそんなパターンにはまりつつある。党員票で石破さんに差を付けられ、決選投票に残れない可能性がある」
小泉氏がこのまま支持を失い続けた場合、最後は石破氏と高市氏という戦いになる。どちらも議員票では「不人気」であることは述べた通り。ある自民党議員は、「麻生さんはまず石破さんには乗らないだろう。ただ、菅さんは確実に石破でいくはず。そして、1回目で小泉や河野に投じた議員も、小石河連合の再来とばかりに石破支援に回るはずだ。旧岸田派、旧茂木派、旧二階派もほぼ石破さんに流れるはず。高市に乗るのは、保守を強調する小林氏の陣営くらいだろう」と予測する。
ただ、高市氏は総裁選に入って「政治とカネ」の問題が噴出している(既報)。30万部超のリーフレットを全国の党員にばらまいて、回収に追われるという不手際もあって他陣営からの攻撃対象になっていることもマイナスだ。
裏金事件を暴いてきた神戸学院大学の上脇博之教授は、「岸田総理は、政治とカネの問題で事実上の退陣に追い込まれた。今回の新総裁で最も大切なのは、政治とカネの問題がないことだ」と話している。
これまで、アッと驚く大逆転劇など数々のドラマを生んできた総裁選。権謀術数渦巻く政界で、誰が総理・総裁の椅子を勝ち取るのだろうか?