鹿児島県薩摩川内市(岩切秀雄市長)が24日、新型コロナウイルスの影響を受けている市内の事業者に対し、それぞれ10万円、計3億円に上る支援を行うことを決め公表した。全国的な流れとなった公的な経営支援の一つだが、その支給方法を巡り、多くの市民から「おかしい」「不公平だ」と厳しい批判の声があがる事態となっている。
■支援金10万円は商議所・商工会の加盟者のみ
批判が集中しているのは、市の独自策「中小・小規模事業者事業継続応援金事業応援金事業」。同市の担当課によれば、民間の任意団体である「川内商工会議所」(以下、商工会議所)に2億円、「薩摩川内商工会」(以下、商工会)に1億円を補助。両団体を通じ、5月1日から“当該団体加盟業者に限って”1事業者あたり10万円の応援金を支給するのだという。たしかに、おかしい。不公平だ。
市の方針に従えば、商工会議所か商工会に加盟していなければ、支援金10万円万円はもらえないことになる。税金を原資とする公的資金を配るのに、民間団体への加盟を条件にしたケースなど聞いたことがない。(注:一般的には市域が商工会議所、町村域が商工会ということになるが、薩摩川内は旧川内市と樋脇町、入来町、東郷町、祁答院町、里村、上甑村、下甑村、鹿島村が合併して誕生したため、いまも会議所と商工会が並立している)
確認したところ、市内の事業者は約4,300。そのうち、商工会議所に加盟している事業者は約1,600、商工会が約800で、いずれの団体も個人が月額500円、法人が同750円の会費を徴収している。
つまり、薩摩川内市の支援金を交付してもらうためには、商工会議所か商工会に加盟し、毎月の会費を払わなければならないということだ。これでは非加盟業者に選択の自由がなく、形を変えた“強制”に他ならない。
なお両団体は普段、非加盟業者の経営相談にも応じているというから、今回の団体加盟を条件にした公金支給には通常業務との整合性もない。
■市の事業丸投げで無駄な経費支出
問題はまだある。両団体は、市が補助する3億円の中から、人件費などの経費を受け取ることになっているのだ。その額について市は「調整中」としているが、両団体が10万円を利用した組織拡大の機会を得たうえ手数料までとるとなれば、市民から疑問や批判の声が上がるのは当然だろう。重ねて述べるが原資は税金。こんな不公平なことが許されていいはずがない。
団体への加盟を条件にした理由を市の担当者に聞いたところ、「国からの『持続化給付金』は事業全般に幅広く支給される。市からも給付を決めたが、一時的な給付以外に継続的な経営相談などに対応できるよう専門家のいる2団体に決定した」と説明する。もっともらしい主張だが、前述した通り、両団体は普段から非加盟業者の経営相談に応じており、「加盟」を給付の条件にしたことへの説明にはならない。
薩摩川内市がやっていることは、公金支給を餌にした商工会議者や商工会への加盟促進策。両団体への便宜供与が疑わわれるのは、当然と言えるだろう。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、安倍政権は非常事態宣言の対象を当初の7都府県から全国に拡げた。政府や地方自治体が、国民への外出自粛や事業者に対する休業を要請したことで、人々の暮らしは激変し、民間事業者は先の見えない苦境に立たされている。
自治体ごとに独自の支援策を打ち出しているが、経営の苦しい多くの事業者は、将来の見通しが立っておらず、公的支援に頼らざるを得ない。
新型コロナ対応で、各地の役所が多忙を極めているのは確かだ。しかし、商工会議所や商工会に入る手数料は、市役所が業務を行っていれば発生しない費用。公金支給という公平性が求められる業務を民間の団体に丸投げすることは、あらゆる意味で地方公共団体の自殺行為になる。
「コロナ不況」といわれる現状にあって、事業者にとってはありがたいはずの公的支援。そこに市民の疑問や批判が出るケースは極めて稀だ。岩切秀雄市長は、施策の間違いを認め、支給方法を見直すべきだろう。
薩摩川内市のある男性市民は、次のように話している。
「商工会議所と商工会の2団体に非加盟の事業者には支給しない、欲しければどちらかの団体に会費を払って加盟しろというんですから、とんでもない話です。不公平というより不適切。税金の使い方としては、間違いだというしかありません。市長と商工2団体の癒着を疑うべきかもしれません」