兵庫県・出直し知事選で問われる西村元経産相と維新の責任

兵庫県議会から全会一致で不信任決議を可決され、失職を余儀なくされた斎藤元彦前知事が、失職表明と同時に「出直し選挙」に出馬すると語った。10月27日に総選挙の投開票が予定される中、兵庫県知事選は10月31日告示され、11月17日に投開票となる。斎藤氏を知事の座に据えたのは自民党と日本維新の会だが、両党に反省するそぶりはない。

■「お友達」擁立の西村元経産に厳しい批判

2021年の知事選で斎藤氏を推薦したのは自民党と日本維新の会だ。自民党側で、斎藤氏を引っ張り出したのは安倍派の元事務総長で裏金議員の西村康稔衆議院議員。党員資格停止1年の処分を受けており、総選挙では兵庫9区から無所属での出馬となる。自民党からの「刺客」はない模様だが、維新に加え立憲民主党も立候補者をたてる予定だという。

斎藤前知事が失職を表明する前日の夜だった。旧安倍派のある衆議院議員がハンターの記者にこんなSNSのメッセージを見せてくれた。「西村は裏金でも責任を十分にとっていない。1年たって復党なんてありえない。それに、斎藤を自民党に連れてきた張本人だ」、「解散総選挙と知事選は同時期。自民党から知事選に候補を出さないわけにはいかない。裏金でボロボロになった自民党から出たいという人もいない。西村が出馬して、兵庫9区は不戦敗にすればいい。西村は責任を果たせ」――という内容だった。

西村氏が斎藤知事を熱心に応援していたのは既報の通り。下の写真がすべてを物語る。西村氏の政党支部が斎藤氏に選挙資金として500万円を提供していたこともわかっている(既報)。このSNSは複数の議員にまわされ、斎藤氏の会見当日は、多くのメディアも知るところとなっていた。

それを知ったのか、「西村さんは、言い訳ができるように代理の候補を用意していたそうです」と自民党の兵庫県議。それが元経産相の官僚で、兵庫県の産業労働部長を経験している中村稔氏だという。

「中村氏は2021年の知事選でも『出たい』と西村さんに相談している。この2人は灘高校3年1組の同級生。大学も東大で同じなら、官僚としても経産省という同じ道を進んでいます。前回も知事選に出たいと中村は頼んでいたが、西村さんに人望がなく結局は維新が連れてきた斎藤となった。西村さんは責任問題が浮上すると急に中村の名前を出し、水面下でアピールするようになった。要は西村さんの責任逃れ。だから人望がないのです」(前出の兵庫県議)

ちなみに中村氏は、人材派遣会社「パソナ」の顧問だったこともある。パソナは、本社機能の一部を兵庫県の淡路島に移転させ、多くの社員を異動させている。ハンターは、中村氏が「パソナ自慢」を語っている音声を入手。その中で同氏は、「淡路市に2,000人を勤務させているパソナは素晴らしい会社。私は顧問でした」と語っている。

淡路島には三つの市があるが、パソナの関連施設があるのは、ほとんどが淡路市(既報2)。「淡路市にパソナが来てが、恩恵があるのは不動産や建築、リフォーム業者くらい」、「淡路市以外の2市は、パソナに来てほしくない。悪の島のように思われる」――そんな市民の声が度々寄せられる。淡路島のある市議は、次のように話して中村氏に拒否反応を示す。

「中村が万が一知事になったら、淡路島が本格的に乗っ取られ、パソナ市になりかねません。普段は東京にいる中村氏が知事になりたいがため急に兵庫県に来ても無理でしょう。それに裏金議員の西村と同級生で、同じ経産省というのはあまりにイメージが悪く、どちらの選挙にとってもマイナスにしかならない。お友達二人で兵庫を牛耳るのは問題でしょう。そもそも、自民や維新に知事選の候補を擁立する資格があるのでしょうか」

自民党兵庫県連はいったん、知事選には独自候補を出さないと決め公表した。しかし、解散総選挙が近いことで翻意を求められ再度、検討するというドタバタ劇だ。

■粗製乱造の果て

一方、自民党ともに斎藤氏を推した維新は即効で見切りをつけ、清水貴之参議院議員を知事選に擁立することを決めた。清水氏は地元民放局のアナウンサーから参院議員に転身して現在2期目。解散総選挙では衆院にくら替えして兵庫8区から出馬予定だった。「不祥事の維新」と言われるほど、問題議員が多い維新の内情は何度もハンターで追及してきた通り。実績、知名度で有力視される清水氏だが、「政治とカネ」など問題を抱えており、地元での評判は芳しくない。

2022年4月、神戸学院大学の上脇博之教授は清水氏と政治団体の会計責任者を神戸地検に刑事告発した。2017年に200万円、2020年に100万円を受け取りながら、政治資金収支報告書に記載しなかったという政治資金規正法違反の容疑だ。清水氏は政治資金収支報告書を訂正したこともあって、不起訴となっている模様だ。

ハンターが入手した告発状によれば、「清水貴之後援会」は「日本の維新の会国会議員団」から2017年6月20日に100万円、同年9月29日に100万円の計200万円の寄附金を受領したにもかかわらず、兵庫県選挙管理委員会に提出した政治資金収支報告書に記載せず、同様に2020年12月10日に受領した100万円の寄附金も不記載にするなど虚偽の報告をしていたと断定。《2017年の計200万円は、裏金として支出された可能性が極めて高い。もし200万円が金融機関の口座を通じて受領していれば、会計責任者がそれを見逃すはずはないし、現金で受領していれば事務所の金庫で保管しているはずであるから会計責任者がそれを何年も見逃すはずはないからである》と厳しい言葉で指弾していた。

維新の県議によると、斎藤氏の内部告発問題で想定される知事選で候補に挙がっていたのは、清水氏と掘井健智衆議院議員だったという。掘井氏についてはハンターでも既報の通り、斎藤氏を公益通報している元県民局長の個人情報を一般市民に漏らしたとして維新から「厳重注意」を受けている。「裏金」の清水氏、「情報漏えい」の掘井氏が知事選候補として有力だったというから維新の人材難は深刻だ。

「斎藤のおかげで支持が激落ちしており、次の総選挙はやばそうというのがもっぱらです。大阪以外では、ほとんど衆議院議員がいなくなるという話さえ出ている」と話すのは兵庫県選出の維新国会議員。「粗製乱造」のツケが、大きくのしかかる現状だ。

この記事をSNSでシェアする

関連記事

注目したい記事

  1.  新聞記者として長くアジアを担当したので、インドやパキスタン、アフガニスタンから東南アジアまで、この…
  2. 北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で、教員らのパワハラが原因で自殺したという男子学生(…
  3. いわゆるヤジ排除国賠訴訟で全面勝訴判決を得た札幌市の女性が北海道の各機関に謝罪などを要請していた件で…
  4. 10月27日投開票の衆議院選挙で自民党は単独過半数を大きく割り込み、連立を組む公明党も敗北を喫したこ…
  5. 「信なくば立たず」――政治家がよく使う言葉だ。正確にいえば「民、信なくば立たず」。漢文なら「民無信不…




LINEの友達追加で、簡単に情報提供を行なっていただけるようになります。

ページ上部へ戻る