4月25日に東京などで発令され、5月7日に延長が決まった3度目の緊急事態宣言は、その後福岡や広島、北海道にも発令され、9都道府県が対象となった。緊急事態宣言下の都道府県では酒類を提供する飲食店は休業、ノンアルコールでも午後8時までの時短営業が要請されている。事実上の「禁酒令」だ。都内で、その実態を取材してみると……。
■「営業自粛」の都内は・・・
街の人出は多少減ってはいるものの、1回目の緊急事態宣言とは比較にならないほど多い。「緊急事態」も三度目ともなると慣れが生じているらしく、通勤電車も混雑している。
政府や東京都が、飲食店に対して厳しく営業時間の短縮と禁酒を求めるているため、宣言に対する共感よりも、いら立ちや敵意の方が多いような感じだ。
ただし、時短要請に応じず深夜まで開いている「もぐり酒場」は、数えきれないほどある。なかには要請に従っているフリをして、店の外側の電気を消したまま営業を続け、給付金の申請を行うといった店も存在する。
今回の措置を受けて、これまで時短や休業の要請に応じながら真面目に営業を続けてきた店からは、不満の声が聞かれる。客側からも「正直者がバカを見る」今の状況を作った国や自治体への批判が噴出しているのが実情だ。
東京都の小池百合子知事は関係各団体に対し、午後8時以降は街灯を除いて店頭などの照明を消すよう要請した。これには、「都知事は都民を灯りに寄ってくる蛾で、電気を消したら寝るインコとでも思っているのだろうか」との声が上がるなど、非難が殺到した。
路上飲みを抑えるために、都は「路上飲み見回り隊」を出動させ、帰宅を促すべく通行人に呼びかけているが、効果があるのかどうかは疑問だ。プラカードを持って繁華街を練り歩く職員たちを見ていると、政治家の思いつきに付き合わされているように見えて、気の毒に思えてくる。
その一方で、20時を過ぎて周辺を歩くと「お酒飲めますよ」と女性の呼び込みから声がかかる。酒を提供する飲食店の様子を見に行くと、店内は満席だった。
■酒販店にも深刻な打撃
実質的な「酒類提供禁止要請」で大打撃を被るのは、飲食店だけでない。メーカーから仕入れた酒類を飲食店などに提供する酒販店も、同様に苦しい状況だ。飲食店には協力金の支給が徐々に拡充されてきたのに対し、酒販店など卸売業者への対応はいまだ手薄で、行政の支援から取り残されている。
また国税庁からは、飲食店で酒の提供を禁止することを「周知徹底しろ」という文書が業界に送られてきているという。「酒屋に飲食店から酒の注文が来たら断れ」ということだ。ある関係者はこう憤る。
「コロナの感染拡大を酒のせいにしたことに、非常に腹立たしい思いをしている。酒を飲んで騒ぐことが悪いのであって、酒そのものが悪いのではない」
■本当の感染源は?
新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、営業短縮を求められるなど飲食店が何かと「標的」にされている。だが実は、「感染拡大リスクが最も高いのはスーパーマーケットと電車内」だとする調査結果もある。データ分析を専門とする東京大学大学院工学系研究科の大澤幸生教授の調査によると、場所ごとの感染拡大リスクを算出した結果、「数字の上ではスーパーと電車内が圧倒的に数字が大きい。次いで飲食店と居酒屋、そしてオフィスと続く」という。
新型コロナに関する政府の感染症対策分科会は「感染対策のとられている店舗での買い物や食事、十分に換気された電車での通勤・通学での感染の可能性は限定的」としているが、「潜在リスクが非常に高く、気が緩むなどして感染対策がおろそかになれば、最も危険な場所になり得ます」ということだ。
別の研究では「トイレ周辺で新型コロナウイルスが多数検出」とし、意外な落とし穴として公衆トイレ周辺での対策がおろそかにされているとの指摘もある。「飲食店」を主要な感染源としてきた従来の見方について、再検討する時期が来ているのかもしれない。
■禁酒命令に違法の疑い
厚生労働省がは4月23日「まん延防止等重点措置」では、知事が酒類提供やカラオケ機器使用を禁止する命令を出せるよう告示を改正した。だが、この点については違法の疑いがある。
新型インフルエンザ等対策特別措置法は、「重点措置」として取りうる対策として、「営業時間の変更その他国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置として政令で定める措置」(31条の6)と定めているが、「営業時間の変更」が例示の筆頭に上がっていることなどから、それ以上の措置はとれないと考えられるからだ。
カラオケ店でカラオケ装置を使用禁止とする、あるいは居酒屋で酒類提供禁止をするというのは、事実上は営業停止であるとも言えるため、政令・告示で定めることのできない措置を規定した疑いがある。事実上の営業停止という強力な規制であるだけに、委任の範囲は限定的に解釈しなければならないという最高裁判例があるからだ。
3月には、東京都から新型コロナウイルス対応の改正特別措置法に基づく時短営業の命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が、命令は違法だとして、都に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。
時短営業や酒類提供の禁止に従わなかったグローバルダイニングは、2021年1月から3月の売上が好調で黒字となっている。これには賛否両論あるかもしれない。
国や東京都は、しっかりと感染症対策を行えばオリンピックを開催できると主張している。その論理を用いるのであれば、きっちりと感染症対策している飲食店は通常営業してもよいのではないか。
禁酒を求める措置によって閉店に追い込まれるおそれがある点は大きな問題であり、大規模な訴訟が起きたとき、自治体や政府は対応できなくなるおそれがある。そうなった時、一体誰が責任をとるのか?
■コロナを理由の選挙忌避は間違い
「ワクチンは遅延、病床は不足、酒は禁止」という菅政権の無為無策に国民はもっと怒っていいはずだ。今こそ政府に抗議する時なのだが、野党からはとんでもない発言が飛び出した。
立憲民主党の枝野幸男党首は5月10日、今国会での内閣不信任決議案について「提出したら、衆議院を解散すると(政府・与党幹部が)明言しているので提出できない」と記者会見で語ったのだ。コロナ感染が深刻な事態なので、感染拡大につながりかねない総選挙を今やることは不適切だとアピールしたつもりなのだろう。しかし、「緊急事態ならば選挙はやらなくていい」という考え方は危険だし、間違いだ。そもそも、失政を糾す機会を否定するような野党に、政権奪取などできるわけがない。
外での飲酒を禁止しようというくらいなのだから、候補者が大声で歩いたり、握手したりといった行為は禁止にすればよかろう。その上で、インターネットを使った選挙運動や「投票」を全面的に解禁するような選挙改革を、今すくにでもやればいい。多くの有権者は、従来型の騒がしいばかりで中身のない選挙戦に嫌気がさしているのだから、広範な支持が集まるはずだ。