ヤジ訴訟上告、鈴木北海道知事は判断放棄|「道警が検討すべき」と議会答弁

4年前に札幌市で起きた首相演説ヤジ排除事件で、当事者双方が上告した国賠訴訟について、一審被告・北海道の鈴木直道知事が地元議会で“警察丸投げ”を宣言していた。上訴の決裁に事実上関与していないことを認めたもので、7月上旬の議会答弁であきらかになった。

◇   ◇   ◇

ヤジ訴訟に関する知事答弁があったのは、国賠一審原告の大杉雅栄さん(35)が上告を表明した7月5日の午後に招集された北海道議会本会議。前月下旬の札幌高裁判決で大杉さんが逆転敗訴した一方、もう1人の原告・桃井希生さん(27)の全面勝訴が維持されたことを受け、質問に立った丸山晴美議員(共産、小樽市)が同判決への評価を問うと、鈴木知事は次のように答えた。

「本件については、警察官の職務執行を管理し事実関係を把握している道警察において、第一審から一貫して方針を判断し、対応してきたものであり、現在、今後の対応について道警察において検討しているものと承知しております」

道警が「一貫して方針を判断」してきたことを認める答弁で、つまりは札幌地裁判決後の控訴の判断にも知事は関与していなかったことを窺わせる。加えて、今回の高裁判決を受けての対応も「道警察において検討」するとしており、引き続き知事はノータッチを宣言した形だ。

丸山議員はこの日の質問で「高裁判決文は自ら読んだのか」とも尋ね、「被告として上告を断念すべき」と迫っている。鈴木知事はまず、判決に関する問いにこう答えた。

「このたびの判決については、担当部局から判決文などの報告を受け、その内容については把握をしております」

とりあえず判決文には眼を通したという知事。実際のところどこまで精読したのかは不明だが、少なくとも「内容は把握している」ようだ。では、裁判の当事者としてはその判決にどう対応するのか。以下が、それに対する知事答弁だ。

「本件については国家賠償法上、訴訟の当事者が北海道となるものでありますが、警察官の職務執行を管理し事実関係を把握している道警察において、第一審から一貫して方針を判断し、対応してきたものであり、今後の対応についても道警察において検討すべきものであると考えております」

指摘するまでもなく、後半部分は最初の答弁のほぼコピー&ペーストと言ってよく、およそ主体性が感じられない。答弁を受けた丸山議員は再質問に立ち、こう追及することになる。

「知事は6月22日の記者会見で『判決の詳細についてしっかり把握したい』と答えました。自ら把握した内容が今後の対応にどう反映されるのでしょうか。『道警察が対応すべきもの』ということは、自らの意志は一切反映されないという宣言、そういうことでしょうか」

鈴木知事、これに答えて曰く――「本件については国家賠償法上、訴訟の当事者が北海道となることから、判決の内容について把握したものでありますが、今後の対応については、これまで方針を判断し対応してきた道警察において検討すべきものであると考えております。以上でございます」

前答弁と前々答弁とを切り貼りしたパッチワークのような文言。およそ質問への答えにはなっておらず、丸山議員は再々質問を余儀なくされることになる。だがそれでも、知事の態度が変わることはついにない。最後の答弁の全文を、下に引く。

「本件については、これまで方針を判断し対応してきた道警察において検討すべきものであると考えております。以上でございます」

議会のやり取りを知った一審原告たちは「相変わらず不誠実だった」と知事らの対応を批判、訴訟費用が道民税で賄われることに疑問を呈し「道警全員の給料から手引きして欲しい」と話す。この議会の翌日、道警側も上告を申し立てたことが伝わった。

なお同日の議会では鈴木信弘・道警本部長も答弁に立ち、4年前のヤジ排除について「現場の状況をふまえ法律に基づいて措置を講じた」と説明した。また一・二審ともに桃井さん排除が違法認定された判決については「当方の主張が受け入れられなかった」と答弁、今後の市民対応については「引き続き不偏不党・公平中正を旨として適切に職務を遂行する」と答えている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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