「スピード感を持って(市政に)取り組む」――内藤佐和子氏が4月の徳島市長選で当選した際に語った言葉だ。果たして実践できているのか。
■会見での記者団とのやり取り、公表に1か月
先月30日に開かれた徳島市長の記者会見の全容が、会見から約1か月経過した7月28日に市の公式サイトで公開された。「全容」というのには、理由がある。
自治体の「定例会見」は通常、首長が新たな方針や施策について説明した後、報道各社の記者と首長が質疑を交わす。この模様をリアルタイムで動画を流すのが主流で、数日のうちには“文字起こし”された内容も公表されるケースが多い。会見は、記者団の向こう側にいる市民のために開かれているのだから、可能な限り早く内容を周知するのは役所の義務でもある。
しかし、徳島市の場合はかなり違っていて、市長自身の発表内容だけが先行して公表され、記者団との質疑応答部分は1か月前後待たなければ確認できない仕組みとなっている。市民が知りたいのは、役人が書いた市長の発表文ではなく、記者との質疑応答部分であることは言うまでもないが、徳島市は権力者の言い分だけをたれ流すばかり。積極的に説明責任を果たそうとしない姿勢に、多くの市民から批判の声が上がる状況だ。
◆次々に公約違反
徳島市では現在、これまで以上に市長の言動に注目が集まる事態となっている。内藤市長が、「子育て環境の充実」や「対話重視」を公約に掲げて当選しながら、就任後に待機児童解消に向けた保育施設補助事業を予算執行直前で見直したからだ。開業予定だった保育事業者や子育て世帯から猛抗議を受けたが、市長は「公務」を理由に対話に応じていない。
「子育て環境の充実」「対話重視」も忘れたかのような二重の公約違反に、市民から「市長の本音が聴きたい」という声が沸き上がっていたのは言うまでもない。6月30日の記者会見が、同月3日の保育事業見直し発表以来の会見であり、さらには保育事業の予算執行を議会が否決した6月議会の直後でもあったから、なおさらだろう。
1か月も経ってようやく公表された市長と記者団とのやり取りでは、保育事業見直しや不可解な人事異動などについて、記者から鋭い質問が投げかけられていたことが分かる。
(参照⇒徳島市HP)
質疑応答に目を通したという市内在住の40代女性は「質疑応答は掲載されないものだと思っていた。1か月も経過すれば、事態は変わってくる。あまりにも遅すぎる」と不満を口にする。最年少女性市長の一挙手一投足が高い関心を集める中、質疑応答が1か月も遅れて開示されたことに市民も呆れ顔だ。
市民の知りたい市政情報を迅速に伝えるのは自治体の義務だ。音源の文字起こしや文章の校正に多少の時間がかかるのは理解できるが、1か月もかかっていては話にならない。直近5回の記者会見実施日と質疑応答部分が追加公表された日付を確認したところ、ほとんどのケースで1か月の時間差が生じていたことが分かっている。なぜこれほどまでに時間がかかるのか――。
この疑問について、徳島市広報広聴課は「原則として、会見当日に、会見項目説明部分の動画、記者会見資料、会見項目説明部分のテキストデータをホームページに掲載している」とした上で、質疑応答部分だけを迅速に公開できていないことを認め、その理由を「作成に時間を要している」ためと回答している。
一方で、問題の保育事業見直しが発表された6月3日の会見での質疑応答については、「市民の関心が高いことから、質疑応答までの掲載を早めた」と平気で言う。要するに、やればできるのに、やっていない。つまり、怠慢ということだ。6月3日の会見に限らず、今や市長の発言すべてが市民の関心事。迅速な情報発信に努めるべきだろう。
ちなみに、徳島県の経営戦略部秘書課に尋ねたところ、「会見の知事発言は原則として、即日。質疑応答は会見から2日以内にホームページ上に掲載するようにしている」との回答。福岡市の場合は、会見の始まりから終わりまでが翌日には公開されている。
時間の経過とともに、情報の価値は薄れる。必要な情報を1か月も待たされる徳島市民は、市の不作為で損害を被っている格好だ。内藤市長のスローガン「みんなでいっしょに前へ!」はどこに行ったのか。
(東城洋平)