103万円と不倫|国民民主党の前に立ちはだかる「壁」

総選挙で議席を4倍増となる28まで伸ばした国民民主党の代表、玉木雄一郎氏の「公私」を巡る言動に注目が集まつている。

「自公政権の延命に手を貸すつもりはない」として選挙で主張した政策の実現を最優先させる考えを強調する玉木氏。確かに彼は選挙中、「政権交代」を目標に掲げず、ひたすら「手取りを増やす」ための政策を訴えた。すっかりおなじみとなった「103万円の壁」を含め、「106万円」「130万円」「150万円」といった高いハードルがあることを誰もが知るところとなったのは、玉木氏率いる国民民主党の功績と言えるだろう。それまで低迷していた支持率も一気に二桁台になっているが、同党が歩むこれから先の道は険しい。

■「ゆ党」に批判も

これまで圧倒的な議席数で政権を維持していた自民・公明が過半数を割り込んだため、衆議院で28議席を得た国民民主党がキャスティングボードを握ったのは周知の通り。与党と国民民主が政策ごとのパーシャル連合(部分連合)に合意したことによって、手取りが増えることに期待した有権者の思いが実現する可能性が出てきた。

だが、政権交代を願って立憲民主党や日本維新の会、共産党といった野党に一票を投じた有権者からは、「ゆ党」(“よ党”でも“や党”でもない存在という意味)化した同党の姿勢は、裏切りにしか映らない。自民党と公明党が総選挙で惨敗したのは、裏金疑惑に対する有権者の厳しい審判が下ったからだ。比例区で国民民主に、小選挙区で同党の公認候補に投票した人のすべてが、「手取りを増やす」という同党の政策だけを評価したわけではあるまい。総選挙で最大の争点とされたのが「政治とカネ」であった以上、裏金議員を追加公認したり非公認候補にまで2,000万円の「活動費」を支給していた自民党政権の延命に手を貸すことは、政治不信というこの国最大の問題に背を向けることになりかねない。

“政策実現のために政治や選挙がある”という玉木氏の考え方には一理ある。しかし、目的達成のために与党と手を結ばざるを得ないという主張は詭弁に過ぎない。なぜなら、無所属を含む野党各党の議席を合わせると245、対して自公は220。国民民主の掲げた政策は、野党連合で政権を握ったほうが、自公と組むより容易に実現できるからだ。「はじめに自公ありき」「与党にすり寄った」という見方は決して間違いではあるまい。

■「壁」は一つではない

そもそも、手取りを増やすという政策は、103万円という収入制限を引き上げるだけで実現する話ではない。所得税が発生する現行103万円の年収制限を178万円に引き上げると、自営業者などを除く多くの国民が恩恵を受けることになるのは確かだ。しかし、今度は106万円、130万円、さらには150万円のと次々に立ちはだかる壁の問題を解決しなければならなくなり、議席不足が顕著な不安定政権が突破することには困難が伴う。財政規律を重んじる議員は少なからずいて、自民党の中をまとめるのも大変なはずだ。

現行の収入制限は複雑化している税制と社会保障の両面に関係する。103万円の壁以上に問題があると思えるのは130万円の壁であり、立憲民主党は以前から収入制限130万円の撤廃と、それによって生じる保険料支払いという負担増を埋める改革案を提示している。同党の試算では、これに伴う財源は約7,800憶円。103万円と130万円をセットにする必要があるかどうかも含めて、議論すべきだろう。

103万円の収入制限をなくすという政策で最も大きな『壁』となるのは“財源”だ。103万円の年収制限を178万円まで引き上げると、国と地方で7~8兆円程度の減収になることが分かっており、そのうち、地方自治体に入るはずの4兆円ほどの住民税が減収になる見込みだという。103万円の撤廃に一定の理解を示す地方自治体の首長からも、減収分の財源について懸念の声が上がり始めている。減収分の補填がなければ、住民サービスの低下という反作用が生じるからだ。

2024年度の国家予算は約113兆円。23年度を参考にすれば、税収は約73兆円で、予算の約6割強に過ぎない。残りは国債発行という名の借金。7~8兆円の減収は、後世にも多大な影響をもたらす。また、高所得者ほど減税の恩恵を受けるという点も、国民から理解を得えられるかどうか分からない。課題山積。やはり拙速に事を運ぶのは無理だ。

■不倫報道

「手取りを増やす」でキャスティングボードを握り、国政を動かすポジションを得た国民民主党だが、得意の絶頂にあった党首の玉木氏が、思わぬスキャンダルに見舞われた。グラドルとの「不倫」である。週刊誌「FLASH」の報道によれば、今年7月にホテルで密会、総選挙投開票から3日後の10月30日には東京都内のワインバーで飲食を楽しんだとされる。「脇が甘い」と非難されて済む話ではない。

玉木氏が得ている議員報酬の原資は税金。さらに毎月100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文通費)も税金によって賄われている。当然ながら、玉木氏が使ったホテルの宿泊費や飲食代の原資も、すべて税金だった可能性が高い。公党の代表である前に、国会議員としての資質、資格が問われる事態だろう。

“「手取りを増やす」という政策実現が最優先。不倫は大目に見てもいい”という主張もあるようだが、それは間違いだ。こそこそ不倫にいそしむ男が代表を務める政党を子供たちがどう見るか聞いてみれば分かる。国民民主党は11月11日に開かれた特別国会の首班指名で玉木氏に投票。無効票になるのを承知で、決選投票でも玉木氏の名前を書いた。敗れることが分かっていたとはいえ、色ボケして不倫に走った人物を総理大臣に推す神経は理解できない。

党首に事ある時はナンバー2に期待するしかないのだが、永田町は、同党の幹事長を務める榛葉賀津也氏とその女性秘書の関係に関する噂で持ち切りだといい、週刊文春はすでに概略を報じている。窮地に陥った形の同党は、トリガー条項の凍結解除や一時的に消費税を5%に下げるという「選挙公約」を自公に迫ることで、不倫騒動の幕引きを急ぐ構えだが、立ちはだかる「壁」は厚く、高い。

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