陸自難聴訴訟に優生法弁護団長合流へ |難病ALS公表、「筋力に衰え」自覚

騒音業務で難聴になった現職自衛官が国を訴えた裁判で、旧優生保護法をめぐる裁判の全国弁護団長などを務めた札幌の弁護士が訴訟に協力する可能性が出てきた。同弁護士は昨年、全身の筋力が衰えていく難病の宣告を受けたところで、今回の裁判について「自分も障碍者になった身として他人事ではない」と積極的な協力を申し出ている。

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本サイト既報の通り、裁判は現職の陸上自衛官が実名・顔出しで提起。長年にわたる射撃訓練などで難聴になった責任を国に問う趣旨で、札幌の北部方面総監部に勤務する中村俊太郎1等陸尉(50)が昨年7月に訴えを起こした。審理にあたる札幌地方裁判所(小野瀬昭裁判長)では2月20日午前に2度目の口頭弁論を迎えており、被告の国が安全配慮義務違反などを否定して訴えの棄却を求め続けている。

報道でこの裁判を知り、原告側へ協力する考えを表明したのは、地元の札幌を含む全国各地で提起された「優生保護法違憲訴訟」で全国弁護団長を務めた西村武彦弁護士(札幌弁護士会)。20日の裁判を傍聴した西村弁護士は、弁論後に原告と面会して訴訟への協力を申し出た。同弁護士は障碍者問題に精通し、自衛官の難聴問題でも過去に公務災害認定を勝ち取った実績を持つ。海外の軍隊の健康管理などについても詳しく、そうした情報の提供などで原告に力を貸すことができるといい、申し出を受けた原告代理人は「大ベテランからのお声かけは大変ありがたい」と、強力な助っ人の登場に意を強くしている。

西村弁護士は昨年8月、発症率が10万人に1~2人という指定難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の確定診断を受け、今年に入ってから親しい福祉関係者や同業者などに罹患を公表した。ALSは全身の筋力が徐々に衰えていく病気で、原因はわかっておらず根治法も確立されていない。進行速度には個人差があるものの、歩行を含むあらゆる運動が困難になっていくことに加え、自発呼吸も難しくなるため気管切開を余儀なくされ、最終的には身体を動かすことも声を発することもできなくなる。腕の筋力低下を自覚したのを機に専門医の診断を受けたという西村弁護士は現在、箸の使用や爪切りなどが不自由になっている状態で、今後は「年内か1年後には車椅子生活に、2027年ごろには気管切開で声を失うことになるのでは」という。今回の難聴裁判については、自身が障碍を持つ立場になったのみならず、これまでの実績を活かすことができる可能性があることから事案に関心を寄せ、「記録を読んだり情報提供なりで力を貸せるのでは」と協力を申し出た。1995年の弁護士登録以来、30年間にわたって「24時間365日障碍者の相談に乗ります」と当事者救済に尽力してきた弁護士は、身体の動く限り支援活動を続ける考えのようだ。

全自衛官の6~7割ほどが経験するといわれる公務災害としての難聴をめぐる裁判、次回弁論は5月15日午前に札幌地裁で開かれる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

 

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