中学受験で進行する、日本の格差

「小学四年生で人生が決まる」と聞けば驚かれるかもしれないが、首都圏では20年以上前からこの現象が問題になっている。

ここ十数年の間に、首都圏や大阪などの都市部の家庭では中学受験をして私立中学を目指す人が増えている。一定以上の収入がある家庭では、地元の公立中学に進学せず、私立に進む傾向があるのだ。

20年ほど前、公立学校の退職教頭会役員が「東京の公立中学校では、上位2割の学生がいなくなっている」と問題提起したことがある。3月中頃になると、大手週刊誌には「合格者高校別ランキング」と銘打った大学合格者数の一覧表が大きく掲載される。表を見れば一目瞭然だが、難関大学の合格者数は圧倒的に首都圏や関西圏の私立中高一貫校が多い。それに比べると表に掲載される公立高校はどの地域でも数が少ない。

最難関とされる東京大学や京都大学に入学する学生の多くは、中高一貫校の卒業生だ。言い換えると、「学歴」を決めるのが大学受験ではなく中学受験だということになる。小学生のときから受験のために塾通いをし、中高一貫校への入学を果たして偏差値の高い大学を出た学生は、大手企業や給与の高い外資系企業などに就職して、社会のなかで「勝ち組」となっていく。

具体的に言えば、親が小学4年生の子供を中学受験対策の塾へ通わすことが出来る。つまり、一人の子供に毎月5~6万ほどの塾代を払えるかどうかによって子供の将来が大きく変わってしまうということだ。それを見越してか、「難関中学を目指すなら,小学二年生から!」と宣伝する塾も現れた。

一方で、「上位2割がいなくなった」と称される首都圏の公立中学を視察すると、「先生が教室にいる中で、男子生徒が消しゴムの飛ばし合いをして遊んでいたり、私語もひっきりなしに聞こえてくるのに、教師は誰も怒らない」という場面に出会う。このような状況を見て、「子供をこの中学に入れたら大変だ」と考える親が増えたともいう。

■「教育格差」が招く「貧困」の連鎖

現在のパンデミック下においても、一部の家庭だけが充実した教育を子どもに受けさせることができるのに対し、そうでない家庭は子どもの教育機会を減らす結果になってしまっている。新型コロナウイルスは、親の格差が子どもの教育格差につながる実態も浮き彫りにした。

日本国憲法では、
《学問の自由は、これを保障する》(第23条)
《すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ》(第26条)とあるが、今の日本では、親の所得によって受けられる教育が制限されているのが現状だ。

お金をかけさえすれば誰でも一流大学に進学できるというわけではないが、親の所得によって子供のチャンスが左右されることは事実だ。こうした現象に対して、遅ればせながら格差拡大を防ぐための施策も行われてはいる。

昨年度まで17万8,200円~29万7,000円だった私立高校に通う場合の就学支援金額を、2021年度からは一律39万6,000円まで支給額に引き上げた。(*年収制限あり)

また、私立小中学校の授業料補助は、平成29年から5年間の文部科学省の実証事業として行われ、補助の対象になるのは年収約400万円未満の世帯で、補助額は年額10万円となっている。

それでも中高一貫の私立に進学した場合、6年間の学費は400万円以上かかるので、所得が低ければ通学させることは出来ない。まして、子供の数が多ければなおさら進学を諦めざるをえない。

ひと昔前は、恵まれない家庭環境の中から優秀な学生や、アイドル、スポーツ選手が生まれてくる事例が多かった。しかし今は、子どもの頃から恵まれた環境でトレーニングすることが必須条件になり、低所得からの飛躍が難しくなっている。

貧しい家庭の子どもが満足な教育を受けられないまま親の世代になり、高い収入を得られないために、子どもが生まれても質の高い教育を受けさせることができない。そして、その子どもも低収入の仕事に就いて親の世代になるという、世代を超えて「負の連鎖」が貧困を固定化させる。

日本で起きている教育格差は深刻な状況であり、子どものときの教育環境が大人になっても大きく影響することとなる。極論すれば、日本は階級社会への道に戻ろうとしていることになる。

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