新型コロナウイルスの療養施設で、鹿児島県医師会(池田琢哉会長)の男性職員(昨年10月に退職。以下「男性職員」)が女性看護師に対し複数回の強制性交に及んだとして刑事告訴されている問題で、告訴状を受理した鹿児島県警鹿児島中央警察署の現職警官だったことが分かっている男性職員の父親の階級が、捜査上の強い権限を有する「司法警察員」たる「警部補」だったことが分かった。
ハンターが県に情報公開請求して入手した「県医師会池田会長の来庁結果について」(*下の画像)と題する文書によれば、医師会の池田会長は、鹿児島県の担当部局に対し男性職員とその父親が早い時期に「警察に相談した」と明言しており、強力な捜査権を持つ幹部警察官が事件に介入したことは確か。司法警察員として事件の初動にブレーキをかけ、息子のために“もみ消し”を図った可能性がある。
■「司法警察員」とは
男性職員の父親は定年退職後も再任用され、事件捜査が始まった後も同署の警察官として勤務していたことが明らかとなっていたが(既報)、その後の取材で新たに階級が「警部補」だったことが分かった。
一般司法警察職員である警察官の階級は、巡査(巡査長含む)、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監(警視庁のみ)の九つ。このうち、巡査部長以上が「司法警察員」として都道府県公安委員会から指定を受けるのが普通だ。
「司法巡査」と称される巡査及び巡査長と違い、「司法警察員」には大きな捜査権限が与えられている。巡査の犯罪捜査権限が大幅に制約を受けるのに対し、司法警察員が捜査を行うにあたって捜査権限が制約を受けることはない。また、告訴状、告発状の受理や調書の作成などは司法警察員でなければできない。
■もみ消しは組織ぐるみか?
男性職員の父親は、定年後も再任用されて鹿児島中央署に勤務していたことが分かっていたが、階級は司法警察員である「警部補」。息子である男性職員とともに同署の担当課で事件について「合意の上での性行為」という一方的な話をしたとすれば、それは捜査権の濫用であり、もみ消し行為に他ならない。
男性職員の父親の警部補は息子が刑事告訴された後も中央署での勤務を続けており、これは、捜査情報を聞き出したり、事実上の捜査妨害を行うことが可能だったことを意味する。告訴・告発を受けた署内に事件関係者の身内がいる場合、他の署に捜査を依頼するか、当該警察官を異動させるなどして事件から切り離すのが当然で、鹿児島県警による一連の動きは、極めて不適切だったと言わざるを得ない。
男性職員の別の身内も県警の職員。「警察一家」特有の庇い合い体質が、事件捜査と送検を遅らせたとみるべきだろう。この事件は、昨年1月の告訴状受理から1年半経っているにもかかわらず、いまだに事件送致(送検)されていない。
新型コロナウイルス感染者の療養施設で起きた強制性交が疑われる事件の実相が、現職の幹部警察官と身内を庇う警察の悪しき体質によって捻じ曲げられている。
(中願寺純則)