最高検が公文書不開示決定を撤回|無罪事件担当検事急死の不可解

刑事事件で無罪が確定したバス事故をめぐり、裁判を担当した検察官が公判中に急逝した疑いについて、当初その有無を明言しなかった検察が改めて検事死亡の事実を認めるに到った。地元検察は筆者の公文書開示請求に対し「存否応答拒否」を決定していたが、同決定への異議申し立てを受けた最高検は当初の判断が不適切だったことを認め、20種以上の公文書を開示する考えをあきらかにした。

■バス事故で運転手男性の無罪確定

問題のバス事故が起きたのは、2013年8月。北海道・白老町の道央自動車道で観光客などを乗せた小型バスが横転し、13人が骨折などの怪我を負った。事故を捜査した札幌地方検察庁室蘭支部は15年9月、バスの運転手だった男性を過失運転致傷で起訴、「急にハンドルが利かなくなった」という男性の主張に耳を貸すことなく「注意を怠り漫然と運転し続けた」と禁錮10カ月の実刑を求めた。

事件の審理にあたった札幌地裁室蘭支部が19年3月に出した結論は“無罪”。横転事故の原因は運転手男性の過失ではなく、車輌に不具合があったためだった。

公判で検察側は、バスの製造元である三菱ふそうトラック・バス(川崎市)の検査担当者の意見などを証拠とし、車輌に不備はなかったと主張していた。事故原因を調べるに際し、中立的な第三者ではなくメーカー自身に意見を求めていたわけだ。これに異を唱えた弁護側が利害関係のない自動車工学の専門家に鑑定を依頼したところ、車輌底部の部品が破損してハンドル操作が困難になった疑いが浮上(*下の画像参照)。さらに同種の事故が過去に20件以上も起きていた事実があきらかになった。

運転手男性の潔白が認められ、無罪判決が言い渡されたのは前述の通り。検察は控訴せず、判決が確定。のちに男性が精神的苦痛への慰藉料を求めて起こした国家賠償請求訴訟では、札幌地裁が改めて当時の捜査の杜撰さを指摘し、「起訴は違法だった」として検察(国)に賠償を命じる判決を言い渡すことになる(現在控訴審継続中)。

■非開示文書、一転「公開」

事故をめぐっては、運転手男性の無実が認められた刑事裁判でいささか不可解な出来事が起きていた。男性を起訴した検察官が、翌年春に室蘭から札幌へ異動した後、同じ年の8月に急逝したのだ。事件当時の肩書きは、室蘭区検副検事。亡くなったのは、運転手男性の弁護人らが真の事故原因を立証する上申書を裁判所に提出した3日後のことだった。

刑事裁判を提起するかどうかの判断は、ひとり担当検事の考えのみで決まるわけではない。のちに「起訴違法」が指摘された通り、当初から無理があったと思われる公訴提起に、亡くなった副検事は必ずしも積極的ではなかったのでないか――。その公判のさなかに決定的な証拠が提出されるに及び、無罪判決の責任を負うプレッシャーに耐え切れなくなったのではないか――。そう疑った筆者は本年3月、札幌地検に行政文書開示請求を申し立て、副検事の死亡に伴って作成・取得されたすべての公文書の開示を求めた。だがこれを受けた地検は同月末、当該文書の全面不開示を決定、いわゆる「存否応答拒否」の結論を通知してきた(*下の画像。クリックで拡大)。副検事が亡くなったかどうかを答えることは個人情報を開示することになるため、文書の存在自体をあきらかにしない、という決定だ。

副検事の訃報は当時の『官報』で公表されており、当該号を閲覧すれば誰でもその事実を確認できる。いわば公知の事実であり、これを隠そうとする札幌地検の判断は情報公開の精神に適っていない。不開示決定後の本年4月、筆者は最高検に審査請求(異議申し立て)を行ない、当初の決定を取り消して関係文書を開示するよう求めた。

審査請求を受けた行政庁は、第三者機関である情報公開・個人情報保護審査会に対応を諮問(意見伺い)しなくてはならない。最高検は今回、この諮問までに3カ月を費やした。7月19日付で諮問を受けた審査会は月が改まった8月初め、最高検が同会へ『理由説明書』を提出したことを筆者に通知し、その写しを開示した。

説明書によると、最高検は札幌地検の不開示決定を取り消し、開示可能な文書の存在をあきらかにした上で一部を開示するとの判断に到ったという。異議申し立てを受けた役所が、第三者機関の答申を待たずに自ら誤りを認めた形だ。

最高検が存在を明かした関係文書は、副検事死亡に伴って発生した退職金や人事異動などに関する文書、計26点(*下の画像。クリックで拡大)。このうち戸籍情報や通帳の写しなど3点については個人情報保護のため全面不開示とし、残る23点を一部開示すべきという判断だった。

文書の存在自体を隠していた地検の決定に較べると、一歩も二歩も進んだ判断だと言えなくもない。ただ、最高検の示す26文書が筆者の求める「すべて」なのかどうかを確認する手段はなく、開示の適正性を外部から検証することは事実上不可能。また当該文書がつつがなく開示されたとしても、バス事故の捜査と公判検事死亡の事実との因果関係に肉薄することは簡単ではなさそうだ。

札幌高裁で審理が続く国賠訴訟の控訴審ではおりしも、運転手男性の代理人が副検事急逝について「真の事故原因がわかっていたのに引き返すことができず、起訴に追い込まれた」と主張する準備書面を提出したところだ。国側の真っ当な反論には現時点で期待できそうにないが、代理人を務める弁護士は「副検事の死因をあきらかにするためにも、今後の裁判所の訴訟指揮に期待したい」としている。

筆者の審査請求については、早ければ年内にも審査会の答申を得られる見込みだ。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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