大任町・情報非開示への反論|西日本新聞筑豊版「脅迫追認」の波紋

 今月7日に西日本新聞朝刊・筑豊版に掲載された二人の政治家のインタビュー記事は、情報公開に関する勉強会の関係者を脅迫した「田川郡東部環境衛生施設組合」(大任町、田川市、大任町、川崎町、添田町、赤村、糸田町、福智町、香春町で構成)の組合長を務める永原譲二大任町長の言い分と、言いがかりをつけられた“被害者”を同列に並べるという非常識なものだった。

 問題の記事の中でハンターが注目したのは、永原氏がインタビュー記事の最後に述べている「文書を出すと数字が独り歩きし悪用されるおそれがある。政争の具に利用される危惧もある。文書公開には慎重にならざるを得ない」という全国の自治体関係者から笑われることが確実な強弁。田川郡東部環境衛生施設組合が発出した脅迫文にも「施設建設に係る情報公開について、大任町が情報公開条例の一部を改正した経緯や背景を全く理解してないこと」と記されており、本来なら開示が当然の情報を隠蔽している永原氏を、実情も理解せぬまま擁護した形だ。

 事実を歪めた西日本新聞の記者と大任町を除く田川郡内の首長たちに反省を促す意味で、公文書隠しを続ける永原氏側の主張について、詳細な反論を行う。

■「入札情報非開示」――大任町の主張

 これまで度々報じてきたとおり、大任町は町発注工事の実態を隠すため、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(入札契約適正化法)で定められた入札結果の公表や、建設業法が公表義務を課す施工体系図を隠すなど、違法な行為を繰り返してきた。

 特に入札結果については、全国の自治体がホームページ上に掲載したり、所管課の窓口などに常備するなどして自由に閲覧させており、“誰にも見せない”“情報公開にも応じない”という方針をとっているのは同町だけだ。

 ハンターは昨年6月14日、大任町に対し「平成29年度、30年度、令和元年度、令和2年度、令和3年度の入札結果表」を開示するよう求めたが、同町は同月25日に非開示を決定。理由は、『入札結果を公にすると、人の生命、健康、生活、財産または社会的な地位の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施期間が認めることにつき相当の理由がある』というものだった。

 ハンターは7月1日付けで非開示諸部の取り消しを求め審査請求書を提出。何の反応もなかったため何度か催促したが同町が『弁明書』を送ってきたのは、審査請求から9か月もたった今年4月(弁明書のは3月31日付)のはじめだった。同町はその中で、非開示処分の理由について次のように述べている。

4 本件処分の内容及び理由
(1) 本件処分の内容
情報公開請求に係る情報非公開決定処分(添付資料「情報非公開決定通知書」記載のとおり)

(2) 本件処分の理由
審査請求人からの公開請求に係る文書については、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)(以下、「公共工事適正化法」という。)第8条の規定により、公表しなければならないとなっている。

しかしながら、本町においては、過去公開したことにより、反社会的勢力が知るところとなり、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)(以下「暴力団対策法」という。)第9条各号で規定されている禁止行為を、この勢力が落札業者に行うといった事案が発生した

なお、このような不当な要求に対しては、福岡県暴力団排除条例(平成21年福岡県条例第59号)第17条の2の規定により、福岡県へ通報することとなっているところであるが、小規模な自治体においては、地縁関係が強く、実行に至っていない。

また、令和2年には田川地区において、警察署を含めた安全・安心なまちづくり協定の締結により、公共工事における暴力団排除の連携も確認し合ったところであるが、上記の事案以降、本町においては、業者からの依頼もあり、暴力団対策法第32条第4項に規定される、「事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない。」との規定を優先し、入札情報、落札情報の公開を控えてきたところである

審査請求人と反社会的勢力との関係性は定かではないが、条例第4条において、適正に使用しなければならないとなっているところであり、公開することにより、反社会的勢力の知るところとなることは完全には否定できず、暴力団対策法第32条第4項、条例第7条第3号の規定により今回非公開としたものである。

なお、当然にこのような事情(状況)が明確に排除された場合は、開示することに何らかの問題もないものである。

 『本件処分の理由』の冒頭にあるように、大任町も行政機関として多少の自覚があるらしく、公共工事適正化の規定で、入札結果を公表しなければならないことは承知しているようだ。だが、「しかしながら」として、「過去公開したことにより、反社会的勢力が知るところとなり、この勢力が落札業者に行うといった事案が発生した」のだという。

 さらに、反社会勢力が落札業者に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第9条各号で規定されている禁止行為を行うという事案以降、業者からの依頼もあり、暴力団対策法が定めた「事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない」との規定を優先し、入札情報、落札情報の公開を控えてきたと主張する。

 結論から述べる。実は法的根拠がない大任町の主張は、情報開示を拒むための方便でしかない。以下、その証明。

■ハンターの反論

【入札適正化法の解釈】

 まず、『公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律』を巡る解釈について。

 同法は、「地方公共団体の長は、政令で定めるところにより、次に掲げる事項を公表しなければならない」(第8条)ものの対象として、次の2項目を定めている。

 大任町による入札情報の非開示は、明らかに条文の規定に違反する行為だ。例外規定がない以上、大任町の主張には法的根拠がないということになる。

 そもそも、法律を無視した自治体の勝手な言い分が通れば、国内の建設行政における秩序は崩壊する。そうした意味からも、大任町の主張は退けられることになる。

【暴対法の解釈】

 次に、暴力団対策法第32条第4項を根拠とする非開示について。

 まず、大きな前提として、情報公開請求は憲法上の権利である知る権利を保障するうえで重要な権利であるということ。特に、公金を投入する事業は税金を原資とするものであることから、その使途や事業過程は明確に示されるべきだ。

 前述のとおり、『公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律』が、行政が発注する工事の入札結果公表を義務付けているのは、そうした前提を踏まえてのものなのだ。従って、入札情報の開示を積極的に行ってこそ、まともな自治体と言えるのだが、大任町は暴対法を持ち出して来て「非開示」の理由に挙げている。その具体的な理由について、同町の弁明書はこう記す。

「本町においては、過去公開したことにより、反社会的勢力が知るところとなり、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第9条各号で規定されている禁止行為を、この勢力が落札事業者に行うといった事案が発生した」

 しかし、いつ、誰が、誰に対して、何を行ったのかは全く明らかにされておらず、そのような事実があったことを確認することさえできない。反社勢力にすべての責任を負わせているが、こうした出来事があったという証拠は示されていない。でっち上げを疑われても仕方がない話だろう。

 仮に落札業者に対する何らかの働きかけがあったとしても、“落札業者を公開したこと”と、“禁止行為が行われたこと”の間に因果関係があることも確認できない。

 大任町の弁明書には「小規模な自治体」とある。同町の人口は約5,000人であり、間違いではない。であるなら、どの事業者が入札に参加しているのか、あるいは落札しているのかが自ずから明らかになる可能性があるということではないのか。公開された情報とは別の情報源から落札業者が知れることは容易に想像がつき、ここでも大任町の主張に合理性がないことが分かる。

【福岡県暴力団排除条例の解釈】

 3番目の問題としてハンターが注目したのは、大任町が弁明書の中で述べた次の一節だ。

「なお、このような不当な要求に対しては、福岡県暴力団排除条例(平成21年福岡県条例第59号)第17条の2の規定により、福岡県へ通報することとなっているところであるが、小規模な自治体においては、地縁関係が強く、実行に至っていない」

 つまり、「反社勢力による業者への圧力を認知したが、地縁関係が強いから福岡県への通報をしていない」という趣旨だ。だが、同町が自ら認めているように、福岡県暴力団排除条例は、《建設工事に関し、暴力団員であること又は暴力団と関係を有することを告げ、又は推知することができるような言動を用いて行われる不当な要求その他の暴力団関係者又は暴力団の威力を利用した者からの不当な要求を受けたときは、県に対し、速やかにその旨を通報しなければならない》として、発注者(地方自治体)に対して速やかな通報義務を課している。同町の弁明書の記述が事実なら、永原町長は、通報義務を怠っていたことになる。条例違反は明らかだ。

 暴力団対策法32条4項《国及び地方公共団体は、事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない》を持ち出して、条例違反の言い訳に使っているが、同法同条の立法趣旨に鑑みれば、大任町長として反社会的勢力を排除するためにも毅然と通報をするべきだったと言わざるを得ない。永原町長は、法をまったく理解していないのかもしれない。

 一方では落札事業者を守るためと言いつつ、他方で業者が泣かされた禁止行為について通報すらしないというのは、著しく合理性を欠く対応だ。

【暴力団対策法32条4項について】

 大任町長の主張は、要するに“過去に入札結果を公開したところ落札事業者が反社会的勢力から禁止行為を受けたので公開しないことにした”というものである。すると、非公開の目的は、落札事業者が安心して事業に取り組めるようにするという点にあるように読める。

 しかし、暴力団対策法32条4項は、「国及び地方公共団体は、事業者等が安心して暴力排除活動の実施に取り組むことができるよう、その安全の確保に配慮しなければならない」としている。すなわち、同項が目的にしているのは事業者等が安心して「暴力排除活動の実施に取り組む」ことであって、安心して事業活動に取り組むことではない。

 大任町長の主張は、暴力団対策法32条4項の適用されない場面であるのに、同項が適用されるかのように述べた、いわば“まやかし”。意図的に法の適用を誤ったのか、わかっていて強弁の材料に使ったかのどちらかだ。

 前述したが、大任町長は弁明書の中で、大任町を「小規模な自治体」、「地縁関係が強い」などと述べている。そうであれば、どの事業者が入札に参加しているのか、あるいは落札しているのかは自ずから明らかになる可能性が高い。落札結果を公表しないことで落札業者が安心できるとは言えないのだ。暴力団対策法第32条第4項を根拠とする非開示理由は、どの角度から検討しても成り立たない。

◇   ◇   ◇

 以上述べてきた通り、大任町の主張は、情報の開示を拒むための方便に過ぎず、法的理由のあるものではない。

 では、情報公開制度をないがしろにする永原譲二大任町長の主張を無批判に掲載した西日本新聞筑豊版の記事を、関係者はどのように見たのか――。次稿で、明らかにしたい。

(中願寺純則)
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