昨年10月の衆議院選挙では、大阪の19小選挙区で日本維新の会に全敗した自民党と公明党。自民党大阪府連は、府と関係の薄い青山繁晴参議院議員を新しい府連会長に据えたが、評判は悪くないようだ。しかし、裏ではごたごたの種が尽きない。
◆ ◆ ◆
関西のテレビ番組で長年コメンテーターを務め、一定の知名度がある青山氏。しかし、ある自民党の府議は渋い表情でこう話す。
「青山さんと大阪との関係はそう深くない。ともに落選中の渡嘉敷なおみと大西宏幸が根回しをして、なんとか実現させた人事だ。府連の体たらくを世間に知らしめるようなもので情けないが、あの人たちが偉そうにしゃしゃり出るよりはずっとマシかな」
「あの人たち」とは、元大阪府知事の“裏金議員”太田房江参議院議員と“エッフェル姉さん”として有名になった松川るい参議院議員の2人だ。
太田氏は高齢で今回は後進に道を譲る方向だという話が伝わっていたが、今年に入って連日、SNSで動画や写真をアップし、今年夏の参議院選挙に出馬する意向を見せている。
「先日の党大会までに、参議院大阪府選挙区の候補者を決める予定でした。しかし、太田さんの高齢、裏金事件、日ごろの言動などで、多くの議員が賛成しかねるとごねたんです。一方で、太田さん側はいかにも『仕込み』のような地方議員が『太田氏にはキャリア、実績があるのでふさわしい』と異を唱えた。6年前の参議院選挙でも太田さんを推す地方議員が何人かいて、大きな声でアピール。その結果、大田さんがなんとか候補者になったという先例がある。今回も『また同じ作戦だ』と呆れられている」(選出の府議)
2019年の参議院選挙では維新が1位、2位を独占。太田氏は公明党の候補にも抜かれ、終盤に安倍晋三首相(当時)が商店街を練り歩くなどテコ入れを行った末、やっとのことで最下位当選した。
昨年12月18日、太田氏は政治倫理審査会で証言。「裏金の報道があるまで、ノルマ超過分の還付は知らなかった」と述べた。2019年の参議院選挙前に行われた安倍派の政治資金パーティーでも裏金がキックバックされていたが、太田氏は「選挙で裏金は使っていない」と抗弁。その使途については「当時の秘書が使った。領収書がないのでわからない」ととぼけてみせた。
残念ながら、太田氏を巡る政治とカネの問題は今回だけではない。大阪府知事だった太田氏は2008年に2期目を満了。3期目を目指すとみられていたが、政治とカネの問題で辞任に追い込まれている。
太田氏は、大阪府の企業約30社で作る「関西企業経営懇談会」の飲食を伴う会合に11回出席。講師料として1回につき50万円から100万円を受領し、その合計は880万円と高額だったことが分かっている。会員のうち、大阪府の公共事業を受注している会社が少なくとも10社あり、受注額は30億円超だった。会員企業から太田氏の政治団体への寄附も確認されている。
別の府連幹部によれば、問題ばかりの太田氏が旧安倍派だったことで話がこじれているという。
「旧安倍派が青山会長に『太田でいけ』などとプレッシャーをかけている。普段は切れ味抜群の青山氏も、参議院選挙の候補者選考についてはまったく指導力を発揮できていない。すでに公募でいい人材が3人ほどいると聞くので、そこから選ぶべきだ」(同府連幹部)
2度も政治とカネの問題を起こしている太田氏を、また参議院に送り出そうとしているのが自民党なのだ。
◆ ◆ ◆
もう一人、大阪府連で批判を浴びているのが、裏金204万円の松川るい参議院議員である。2023年夏には自民党女性局を率いてフランス研修を実施。エッフェル塔前でポーズを決めた写真をSNSで投稿し大炎上した。
今年3月7日の予算委員会では、4月に開幕する大阪・関西万博の「目玉」とされる大屋根とリングについて「百聞は一見にしかずで、さほど前評判は高くなかったかもしれないが、行ったらすごい。1月末には大屋根もできていた」と絶賛。リングについて
「大屋根は半年後の万博終了後に解体する予定。世界最大の木造建築物でもありギネスブックにも登録したので、レガシーとして全体を残すべき」と訴えた。だが、政府側の答弁は「大阪市から博覧会協会が提供を受けて万博が開催される。終了後は更地に戻して大阪市に返還することになっている」とつれないものだった。
万博の会場は、開幕直前になって、海水でリングの一部が浸食され地盤がゆるくなっていることが確認されている。大阪市の幹部も「万博会場の地盤はかなりゆるく、大きな建築物を建てるには適していないことがはっきりしている。万博は半年限りだが、隣のIR(カジノを含む統合リゾート)は税金投入による大規模な地盤改良が必要」と認めている。しかし松川氏は納得せず「建物は国の税金で作ったもの」と反論した。
リングの建設は、半年間限定で維持できることを前提としている。恒久的に残すなら、さらに税金で追加負担が必要となる。松川氏は、すでに当初予算1,250億円の2倍近い2,350億円の建築費を費やしいている万博に、さらなる税金投入を求めているのだ。納税者が納得する主張とは到底思えない。
松川氏は2月の政倫審で裏金について、「パーティーを担当していた秘書は、この件について全てを一人で(裏金を)抱え込んでおり、私や事務所の誰にも収支報告には関与せず、滞留金(裏金)の存在についても情報共有していませんでした」と政治家お得意の「秘書が」を連発した。秘書が抱え込んでいたという話が事実なら、雑収入になるので当然課税対象となる。しかし、松川氏の秘書が納税したという話はまったく聞こえてこない。
自民党の支持率が低迷する中、維新も同じように党勢が下がっている。「維新が落ちてきて逆転のチャンスがみえつつある。そんなときに裏金の太田さんを選挙に出してどうするのか。太田さんとともに松川を府連副会長に起用するなんて信じられない」(前出の大阪府議)
自民党のていたらくが、大阪の維新に“漁夫の利”をもたらす可能性がある。