先月31日、一般会計総額約115兆2,000億円の新年度予算案が参議院で可決された。批判の多かった「高額療養費制度」の負担上限額の引き上げは見直し。少数与党の石破茂政権は予算成立と引きかえに日本維新の会への大幅譲歩を余儀なくされるなど厳しい情勢が続く。次に待ち受けていると見られているのは内閣不信任案だが……。
◆ ◆ ◆
今国会、約束の3月末までに絶対に解決しなければなかったのが「政治とカネ」を巡る企業団体献金の問題だった。自民党は透明度を高めた形の「存続」法案を提出。立憲民主党と日本維新の会など主要野党は、政治団体を除く企業団体献金の禁止を訴えているが、自民党案に乗ると思われていた与党・公明党と野党・国民民主党が組んで別の選択肢を提示した。公明と国民民主は、政党本部など企業団体献金の受け皿や受け取れる額を年間1億円という上限を設けて存続という案を突然出してきたのだ。
献金を受け皿を政党本部と各都道府県に1つの政党支部に限定した上で、政治団体が政党などに献金する場合の総額に年間1億円に制限し、1つの献金先に行える金額を年間2,000万円までにするという内容。要は「存続」ということだ。しかし、立憲民主党の幹部は、「公明と国民が出してきたのは、A4サイズの紙に1枚か2枚程度。たたき台のようなもので、結局案は出されなかった」と話す。
公明党の幹部は「自民党案に乗れば政治とカネについて考えが甘いと批判を浴びます。かといって、自公政権の一角であるうちが、立憲民主党中心の案には賛同できない。結果、国民民主党との協議になった」と打ち明ける。
だが、3つに割れた時点で、自民党案、野党案とも衆議院の過半数に足りなないことが確定。3月末の期限が設けられていたが、採決もならず引き延ばされることになった。
「自民党の支持率低迷は、政治とカネの問題に起因するもの。今国会で、新しい法案を通せば党勢回復も見込めた。しかし、石破総理は指導力を発揮できなかった。これで参議院選挙、東京都議選もやばそうな結果になることは確定だろう」と別の自民党幹部は頭を抱える。
注目は、6月22日となっている通常国会の会期末までに内閣不信任案が出されるかどうかだ。自民党の支持が凋落する中とはいえ、野党の支持も横ばい。国民民主党が好調とされるが、それでも立憲民主党を1~2%ほど上回る程度だ。1993年に細川連立政権が誕生した際の世論調査では、野党全体で30%以上の支持があったとされる。2009年に旧民主党が政権を奪取した際には、自民党を上回る40%近い支持率。「永田メール問題」で旧民主党の信頼が地に落ちた時も20%を超す数字はキープしていた。
永田町では「16年周期の政権交代」という言葉がささやかれてきた。細川連立政権から16年がたち旧民主党政権となった。今年2025年は旧民主党政権から16年。再度の政権交代を予測する声は確かにある。
3月半ば、石破首相が新人議員に商品券10万円、合計150万円分を配っていたことが判明し騒ぎになった。首相は釈明に追われ内閣支持率は急降下。前出の立憲民主党議員は「石破商品券問題が勃発したときがチャンスだった」と悔やむ。その上でこう危惧する。
「もう一度、石破商品券問題のようなスキャンダルが起これば、国民に納得してもらえる形で内閣不信任案を出し、野党が結束して通せるはずだ。だが、アメリカのトランプ大統領が打ち出した関税措置で、世界的に株価が暴落。世界大恐慌ともなりかねない政治情勢となっているのが現状ではないか。石破総理がトランプ大統領と交渉し、どんな経済対策を打ち出すのか―ーそのあたりがカギとなる。内閣不信任を成立させるには、世論の盛り上がりが不可欠だ。懸案事項がない中で内閣不信任案を出せば、反対に野党に逆風となる」。
一方、自民党幹部も危機感を露わにこう語る。
「トランプショックがあまり大き過ぎる。こちらにスキャンダルがなくとも内閣不信任案が出れば、野党がまとまる可能性はある。細川政権の時は自民党の政治とカネの問題で『政治改革』だけに絞ったことが、政権奪取につながった。今回は、落ち込む一夫の国民生活への不満から、景気回復、もっといえば『減税か増税』という焦点で参議院選挙や都議選が展開するのではないか。自民、公明の与党は増税、野党は減税という対立軸になる。これで、参議院選挙と都議選に野党が勝利した場合、総理がどこまで耐えきれるか……。野党は通常国会で内閣不信任案を出さず、秋の臨時国会における増税VS減税という議論を経て、出してくるかもしれない。その時自民党は、今回予算案を通したように維新を取り込めるかどうか……。維新も国民民主党も組めないとなれば、一気に政権交代となりかねない」
これまでの“保守かリベラルか”という構図が、“増税か減税か”という、より国民生活に直結したものに変容しつつある。これはある意味、旧民主党から政権を奪い返した自民党の政策がまったくダメだった証明でもある。石破首相の商品券問題で、一時は解散総選挙も早いとみられていたが、今の永田町の流れからすると都議選と参院選の結果を見てからとなる公算が大だ。前出の自民党幹部がこう続ける。
「参議院選挙で負ければ、自民党内の石破おろしは加速する。4月に裏金事件で1年間の党員資格停止処分を受けていた裏金議員の西村康稔、松野博一、萩生田光一の各氏が復帰したことで、さらに反石破勢力が結集する兆しがある。総理が『耐えきれない』と判断すれば8月中の解散総選挙もありうる。もう少し時間を稼いだとしても、せいぜい秋までではないだろうか。
減税を訴える人気者の泉房穂前明石市長氏が参議院選挙で圧勝すれば、ますます減税勢力が勢いを増す可能性がある。「石破総理に、その勢力を取り込めるくらいの胆力と人脈があれば解散総選挙も回避できるが、今の様子じゃ難しい」と先の立憲民主党議員は言う。夏の参議院選挙の「票読み」から算出した議席数について彼は、こうも話している。
「あまり大きな声では言えないが、自民党は東京都では現在の2議席を1に減らす見込み。定数3の兵庫県は議席をとれないだろう。維新の強い大阪も、まだ候補者が決まらずつらい状況。1人区も前回、野党系が4議席にとどまったが、今回は秋田県、岩手県、宮城県、栃木県、三重県、徳島・高知県、佐賀県、鹿児島県あたりで落としそうな数字が出ている。また、立憲民主党の小沢一郎氏が維新と合意し、近畿の3県は野党統一候補で挑むことにりそうだ。自民の全国比例票も伸びることはない見通しで、前回の63議席から遠く及ばない40台になりそうだ」
野党側もマイナス要因を抱えており、「石破総理の在任中に解散総選挙をしてくれないと、勝ち目がないのが正直なところ」との声もある。商品券問題の揺れがおさまりつつある中、大きな政局は夏から秋にかけてやってきそうだ。