降りしきる雨、風も強くなってくる。最大のセールスポイント大屋根の「リング」。雨除けの効果があるとされ、建設費344億円が投じられた。しかし、「もうびしょ濡れや」、「天井から雨が漏ってきて、あかんわ」「こんなもんに、なんぼカネをかけているねん」とブーイングが響く。4月13日に開幕した大阪・関西万博は雨に見舞われ、午後には風も強くなって散々な初日となった。
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入場ゲートはもちろん、パビリオンやレストラン、土産物店などは大行列。「並ばない万博」が早くも“綻び”を露呈している。
開幕の日の午前8時半になると、警備にあたる大阪府警の警官が「走らないようにね。絶対、走ったらダメ」と声をかけながら、小雨のなか、観客をゲートに誘導していく。あっという間に、ゲート前は大行列。「並ばない万博だったはずなのに」とぼやく観客。午前9時に開門されると、皮肉にもそれが証明されてしまった。入場するのは、まず入場券のQRコードを読み込む。そこには事前予約した入場時間が設定されている。
次に、X線での手荷物検査が待ち受ける。缶や瓶入りの飲料、アルコール、スマートフォンの「自撮り棒」なども持ち込み禁止。警備員が不慣れなのか、そこも渋滞。京都府から来た女性の2人組は「9時に入れるはずが10時過ぎ。苦労して初日の朝イチのチケットを予約したはずなのに、どうなっているのか」と怒り心頭だ。
10時を過ぎると、あちこちのパビリオンで長蛇の行列。リングに向かうエスカレーターも100mほど並んでいる。
11時を過ぎると雨、風ともに激しくなる。大阪府と大阪市などが出している「大阪ヘルスケアパビリオン」では、2025年日本国際博覧会協会の副会長も兼務している吉村洋文知事が挨拶。「素晴らしい万博になる」と自画自賛したが、雨と風はさらに勢いを増し最頂部120mのリングからは、耐え切れず降りてくる人でエスカレーターが混雑し、下りの一方通行に変更された。
リングの下にたどりついても、天井からは大粒の雨が降り注ぎ、雨除けにもならない状況。「どこが素晴らしい万博や」と吐き捨てる人さえいる。
あまりの悪天候に午後2時を過ぎると我慢ならないと会場を後にする観客も少なくなかった。だが、今度は最大の交通機関、地下鉄夢洲駅が入場制限。「ただいま、駅には入れません」と雨の中、拡声器で警備員ががなりたてる。吉村知事が代表を務める日本維新の会のある国会議員が「万博が初日から大コケして、こりゃ一気に政局になりそうです」と肩を落とす。
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オープンに先立って4月12日に開催された開幕式には、天皇皇后両陛下、秋篠宮殿下ご夫妻と並んで石破茂首相も参加。万博の公式キャラクター、ミャクミャクのモニュメントの前で写真撮影をして万博を広報した。
その前日には、首相官邸の玄関ホールのミャクミャクから突然「ミャクミャクと一緒に万博に行ってくれる?」の声。首相は「はい。明日開会式だね、頑張ろう」と返事をして、万博の盛り上げに一役買った。
少数与党となった石破政権の新年度予算案は、自公連立に加えて日本維新の会の賛成を得て成立した。一方で、維新は自慢の大阪都構想が2度も否決され支持が低迷する中、最大の公約は万博の成功となっていた。前出の維新議員は、危機感を露わにこう話す。
「維新の支持率は、国民民主党どころか、れいわ新選組にも抜かれつつある。看板政策の万博が失敗したら、税金の無駄遣いだと世論に印象付けられ、維新の責任が問われる。万博は国の事業であり税金も投じられているが、維新イコール万博というイメージはぬぐえない。赤字となれば、国と大阪府・市のどちらが補填するかで論議になる。赤字なら国に助けてもらうしかない。そんな下心もあって予算案への賛成ではなかったのか。石破総理が万博をPRしてくれるのは、ある意味維新へのエール、応援と感じている。是が非でも万博を成功させないと6月の東京都議選、夏の参議院選挙はぼろ負けだ」
自民党のある幹部は石破首相が万博に力を入れることについて、裏事情を次のように語る。
「衆議院では数が足りない。当然、維新を取り込みたい。衆議院は国民民主党よりも維新の方が議席数は多いからね。それに維新の共同代表は前原(誠司)さんで、石破首相とも親しい仲。友達の少ない石破総理にとって野党では数少ない話ができる人物が前原さんなんだ。総理はなんとか万博を成功させて維新の手柄にし、さらに深く取り込みたいという思惑で動いているように感じるがね」
万博のテーマは「健康」「環境」だ。しかし、初日からテーマは壊され、大阪府の幹部は「(大阪府庁の中は)万博は失敗に終わる、というムードに支配されています。そもそも、万博を政治利用したのが間違い」と打ち明ける。
どうやら、「政局」や「政治」が万博のテーマになったようだ。