組織的な事件のもみ消しや隠ぺいが常態化している鹿児島県警。背景にあるのは警察一家擁護を最優先にする悪しき体質だ。さらにタチが悪いのは警察庁。同庁が出向させたキャリア警察官の地位だけを特別扱いし、逮捕されるべき事件でさえも軽い処分で済ませている。前任の県警捜査2課長・安部裕行警視は、情報漏えいや不同意性交の疑いで送検されながら不起訴。処分は停職1か月という軽いものだった。いくつもの事件を闇に葬ろうとした疑いがある野川明輝前本部長が、懲戒にもならない長官訓戒という監督上の措置に終わったことも記憶に新しい。
その野川氏が保身のため隠ぺいしたのが、現職警官による枕崎の盗撮事件。改めて同事件の捜査関連資料を情報公開請求で入手したところ、多くの疑問点が残されていることが分かった。
■元生安部長の告発文にあった枕崎盗撮事件の記述
枕崎署の現職警官による盗撮事件が表面化したのは昨年5月。県警は、同署に勤務していた巡査部長を性的姿態撮影処罰法違反(撮影)などの罪で逮捕し、公表した。その後、当該警察官は起訴され懲役2年執行猶予3年の判決が下されるが、この事件は当初、闇に葬られるはずだった。現職警官による卑劣な犯罪の隠ぺいを防いだのは、元県警生活安全部長による「公益通報」だったことは周知の通り。元部長が北海道のジャーナリスト小笠原淳氏に郵送した告発文書に記されていた4件の隠ぺい事案のうちの一つが、枕崎の盗撮事件だった。
現職警察官による盗撮疑いを把握した枕崎署は、当然ながら容疑者である警察官のスマートフォンを差し押さえるなどの捜査を検討。告発文によれば、これに県警幹部が待ったをかけたという。具体的には「静観しろ」との指示があったとされる。小笠原氏の許可が得られたため、改めて元生活安全部長が告発文書に記した枕崎盗撮事件についての大まかな記述内容を紹介しておきたい。
・2023年12月中旬 枕崎市内の40代女性が公園のトイレ内に入った際、スマートフォンのようなものが見えたため声を上げたところ男が走って逃げたと通報。女性はパトロール強化を要望。
・同トイレにおいて過去にも盗撮容疑事案の相談があったことから、付近の防犯カメラ映像を回収し、犯行時間帯の映像を精査。容疑車両が枕崎署の捜査車輛であることを確認し、同時刻に車両を使用していた捜査員を特定。
・同署は警察職員による盗撮容疑事件と判断し、県警本部刑事部へ通報。
・本部指揮事件であることから本部の指揮を受け、早急に当該職員のスマートフォンを差し押さえて画像を解析し、事情聴取、強制捜査へと向かう方針で検討していたところ、本部から「静観しろ」との指示。
・事件は隠ぺいされたが、枕崎署は再犯を防ぐため、全署員に対し「盗撮防止」の教養を実施。
・令和6年春、当該職員が人事異動で配置換え。
この盗撮犯が逮捕されたのは昨年5月13日。県警はその約1ヵ月前の4月8日、地方公務員法違反事件(守秘義務違反)の関係先としてハンターに対する家宅捜索を行ったが、その際に押収したパソコンのデータから元生安部長の告発文書を把握した。あわてた県警は、その記載内容を事件隠ぺいの証拠としてハンターが記事化するとでも考えたのか、いったんは逃がしてやった不良警官を逮捕。後々騒がれないように形だけ整えた。元生安部長の逮捕は、盗撮犯逮捕から2週間ほど後となる5月末。つまり盗撮犯逮捕は、公益通報潰しの第一段階だったとみられる。
だが、40代の女性が盗撮の可能性を申告した直後に、犯人の特定ができていたのは明らか。これまでの大手メディアの報道や県議会での質疑では、「2日間」だけ捜査が止まったという点に焦点が当てられていたが、それは枝葉末節の話。実際には告発文で明らかな通り、「静観しろ」で捜査が中止され、再起動するのは事件発覚から5ヵ月も後だった。繰り返すが事件捜査が止まったのは「2日間」ではなく「5ヵ月間」。この点だけは強調しておきたい。
■妥当とは思えない「停職3ヵ月」
県警の“歪んだ温情”で一度は逮捕を免れた巡査部長だったが、結局は逮捕・起訴され懲役2年執行猶予3年の判決が下される。盗撮は80回に及んでいたというから呆れるしかないが、県警が下した処分は解雇ではなく「停職3カ月」というものだった。
なぜ懲戒解雇ではないのか――。どのような捜査が行われたのか――。ハンターは昨年11月、県警に対し、2023年1月から24年6月までに警官が懲戒処分、訓戒処分、注意処分などを受けた事案の中で、犯罪捜査の対象となったものの事件指揮簿や処理簿、受理簿などの開示請求を行い、計10件についての開示文書を入手した。そのうち、枕崎盗撮事件の関連文書についてまとめたのが下の表である。
開示された枕崎盗撮事件に関する捜査関係資料は、署長指揮事件指揮簿が2件分(5枚)、本部長指揮事件指揮簿が8件分(34枚)、犯罪事件処理簿が10件分(10枚)、犯罪事件処理簿が4件分(8枚)。ほとんど黒塗りで、事件に関係する日付や、どうでもよさそうな部分まで非開示にしており、隠ぺいの意図がみえみえだ。県議会質疑や報道などで明らかになってる事項まで隠すという徹底ぶりには開いた口が塞がらない。
上掲の「懲戒処分台帳」では犯人の警官が盗撮を行った期間「令和元年9月17日から令和5年12月23日」を黒塗りせずに開示しておきながら、捜査関係文書にあるはずの犯行の日付けは非開示にするというちぐはぐな対応ぶり。同様に、ある文書では事件送致の年月日を明示しながら、同じ種類の別文書では非開示とするなど情報公開の信頼性を疑わせる結果となっている(*下の画像参照)。
しかし、わずかながら確認できる記述からは建造物侵入、性的姿態撮影等処罰法違反、不安防止条例(公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例)違反と3つの違法行為があったことが分かる。にもかかわず、懲戒解雇ではなく停職3カ月。どうみても甘いと言わざるを得ない。開示文書の記載内容を詳しく調べていくと、杜撰な文書作成過程や、どうみても別件があったとしか思えない記述も出てくる。その点について、次週の配信記事でさらに検証を進める。
(中願寺純則)