参議院選挙を目前に控え、自民党が混乱している。ハンターでも大阪選挙区の複雑な事情について報じてきたが(既報)、一度は党本部から公認候補予定者として発表された太田房江氏が、5月26日に突然「ご連絡」という文書を記者クラブに公開。《7月に予定されている第27回参議院選挙に出馬しないことを決断しました》《体調を崩し、強度のストレス障害との診断を受けました。主治医からこれ以上政治活動を継続することは断念すべきとのご指導をいただいた》と出馬断念を表明した。一体、何があったのか?
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背景にあるのは、太田氏の「政治とカネ」の問題だ。安倍派裏金事件では214万円もの裏金をため込んでいた太田氏、自民党の大阪府連内部では、地方議員にカネをばらまいていたという話が広く知られていた。週刊ポストも、6年前の参議院選挙で「買収」が行われた疑いがあるという記事を掲載。太田氏は弁護士を通じて《事実無根であります》《政治活動を妨害する目的で意図的に虚偽の事実を捏造》と徹底抗戦の様相だったが、ここに来てあっさり出馬を断念した。裏事情を教えてくれたのは自民党幹部だ。
「太田氏はハンターと週刊ポストの記事で、政治とカネの問題をやられて大慌てしていた。党幹部に『記事は捏造だ』と電話をかけまくっていた。しかし、他の週刊誌がさらなる第2弾、3弾の記事を出してくるのではないかという話も党内では広まっていた。それでなくとも、石破政権の支持率は落ち込んでおりそこへ政治とカネのスキャンダルが出れば太田氏だけではなく党全体に響く。あまりにも遅いが、太田氏を降ろして大阪選挙区で候補者探しをするほうがベターという判断になった」
同幹部が2枚のペーパーをハンターの記者に差し出した。プリントされていたのは、不動産登記簿。都内にある分譲マンションの1室の所有者は太田氏になっている。分譲マンションは、都内の高級住宅街に立地し、介護や医療サービスも受けられる高齢者向けの物件だ。ホームページを見ると、ホテルのようなロビー、大浴場、サウナ、フィットネスクラブ、ヘアサロンなで常設されている。
不動産サイトで調べると、太田氏の所有する物件は6,500万円から7,000万円程度とみられる。不動産登記簿には、抵当権が設定されておらず、キャッシュで支払った模様だ。登記簿をよく見ると、買った時期は昨年6月。裏金事件で、安倍派の会計責任者が立件され、初公判があったのは昨年5月。その後も裁判が続き、裏金事件が非常に注目されたタイミングにあたる。
「太田さんは地盤の大阪にもマンションを所有している。以前、東京では議員宿舎に住んでいたが、今はこの高級な分譲マンションが東京の住まい。6千万円か7千万円を現金で払ったなんてわかると、また政治とカネだの上級国民だと騒がれる。もしその中に安倍派の裏金が含まれているなんてことになれば、とんでもない話になる。また、太田さんは秘書にスキャンダルで知られる杉田水脈氏の親族を起用しており、これもかっこうの週刊誌ネタ。まあ、自ら、出馬断念してくれてよかったよ」(前出・自民党幹部)
ちなみに、太田氏は2023年1月、経済産業副大臣時代に大阪府内のマンションを購入。この時も大臣や副大臣、大臣政務官は在任中の不動産取引などを自粛する規範に抵触していると問題になった。太田氏にはどこまでも、政治とカネの問題がついてまわる。
ここ3回の参議院選挙では、定数4のうち維新が2議席、自民党と公明党が1議席づつという構図になっている大阪選挙区。自民党が実施した5月中旬の世論調査では次のような数字となっていた。
・太田氏 (自民)15%
・杉氏 (公明)12%
・清水氏 (共産)11%
・佐々木氏(維新)10%
・岡崎氏 (維新)10%
問題があるにしろ、太田氏はトップを走っていたわけだ。にもかかわらず出馬辞退。7月20日投開票が見込まれる参議院選挙のスタートまで1カ月ほどになっての候補者差し替えは、非常に厳しい。やむなく自民党は、候補者公募に切り替え、6月10日ころに候補者を決めるという。
これまで、大阪選挙区の候補者は大阪府連が主導的な立場だった。だが、太田氏の後釜探しは、自民党の森山裕幹事長を中心とした党執行部で選考する方向だという。大阪府連の会長、青山繫晴参議院議員は従前から太田氏の公認に反対してきた人物。自身がよく知る元自衛官を出馬させたい意向を示している。
また本サイトで報じた通り、現職でありながら維新の公認を外された梅村みずほ参議院議員や柳本顕前衆議院議員らの名前も浮上している模様だ。
「選考には大阪府連も加わるが、同席するだけ。決定権は党本部。青山さんが推したいと言ってきた元自衛官は無理だろう。ただ、公募でいい候補者が選定できない場合、全国比例の青山さんが混乱の責任をとって出馬をということも想定される。今、人気の国民民主党が、若い女性を大阪選挙区に擁立することも確定的と聞いている。かなり知名度がないと勝てないので、青山さんという選択肢は十分考えられる」(前出・自民党幹部)
維新の人気が堅調な大阪。そこへ国民民主党という強力なライバルが出馬してくると自民党の指定席だった1議席も風前の灯だ。